4, 啖呵 1

 

 

 

 
カーペンタリアへ出発する日まで、あと5日。
ディアッカはミリアリアに啖呵を切った通り、ザフトの寮に寝泊まりしていた。
本当なら結婚を機に引き払う予定だったのだが、多忙を極めるジュール隊副官のディアッカは、イザークの補佐として膨大な量の仕事を抱える事もあった。
なので、そんな時の事を考えて部屋はそのままにし、実際何度か泊まりがけで仕事をしていた事もあったのだった。
 
 
「…うまいもん、食いてぇ…」
 
 
ディアッカは軍部内の食堂で味気ないサラダをつつきながら、思わずそう呟いていた。
 
 
 
 
アパートへ帰らず、寮で生活し始めて4日目。
ディアッカは、いかにミリアリアが自分の為に、毎日の食事に気を使ってくれていたかを実感していた。
ミリアリアの作る料理はどれも本当に美味しく、たまに家に招くイザークやシホからも絶賛されるほどで。
それはディアッカにとって密かな自慢でもあった。
ザフト軍本部の食堂も決して味が悪い訳ではなく、むしろ料理の質は高い。
しかし、ミリアリアがディアッカの為に作る料理には遠く及ばなかった。
 
 
「…あんだけ啖呵切っちまって、今更帰れねぇよな…」
 
 
ミリアリアからはあれ以来、何の連絡もない。
よくよく考えれば、かなりきつい事を言ってしまった自覚もある。
強いだけの女ではないのだ、ミリアリアは。
戦争で大切な人を失い、苦しみ涙する姿をディアッカは知っている。
甘えたがりの寂しがりなくせに、我慢ばかりして意地を張ってしまう事も。
 
ひとりにしないで。
いなくならないで。
 
意地っ張りのミリアリアが何度となく口にした、本当の願い。
忘れるはずなど無いのに、突然の環境の変化に動揺してわがままを言い、挙句八つ当たりまでしてしまった。
悪いのは、自分。
それが分かっているからこそ、いつになく素直になれないディアッカであった。
 
 
 
 
 
「ミリアリアさん!」
 
オーブ総領事館の扉をくぐろうとしたミリアリアは、聞き覚えのある声に振り返った。
「シホさん?おはよう。どうしたの、こんな時間に?」
相変わらず綺麗な髪を背中で束ねたシホは、少しだけ息をきらせていた。
「おはようございます。あの…ちょうど通りかかったらミリアリアさんが見えたもので、つい…」
いつものシホらしくない物言いに、ミリアリアはつい微笑んでいた。
 
「…ディアッカの事?」
 
途端にシホが目を泳がせ、いえ、あの、と口ごもる。
「…元気にしてる?ディアッカ。」
「…はい。与えられた隊長室にこもりきりですが、最低限の任務はこなしています。
今朝は食堂にいたのを見かけました。」
「何食べてた?」
「え?ええと…確かサラダとコーヒーを。」
「そう…。」
 
「あの、ミリアリアさん。良かったら何があったのか話してくださいませんか?」
 
ミリアリアが顔を上げると、いつになく真剣な表情のシホがじっと自分を見つめていた。
「シホさん…」
「ハーネンフースさん?」
突然割り込んできた声にミリアリアとシホは驚き、同時にそちらに目をやる。
 
「あ…」
そこには、ザフトの赤服を身に纏った、黒髪に赤い瞳の少年が戸惑い顔で立っていた。
 
 
 
特徴的な後ろ姿は、新たに配属された隊の副隊長のもので。
シンは気づけば、彼女に声をかけており、そして次の瞬間、ひどく後悔した。
シホに隠れて見えなかったが、彼女と一緒にいる女性が身に纏う白い軍服は、オーブのもの。
ずきん、とシンの心に痛みが走る。
 
「…シン・アスカくん?」
 
不意に自分の名を呼ばれ、シンは驚いて顔を上げた。
自分の名を呼んだのは、茶色い跳ね毛の女性。
どこかで見覚えがある、と思ったシンだったが、すぐに気づいた。
「エルスマン隊長の…」
呟くようにそう口にすると、跳ね毛の女性はふんわりと微笑んだ。
 
「ミリアリア・エルスマンよ。初めまして、アスカくん。」
とても軍人とは思えないその優しい声と笑顔に、シンはつい見惚れてしまった。
 
 
「シン、どうしたの?」
 
 
シホの声に我に返ったシンは、慌ててシホに向き直った。
「すい…申し訳ありません。お話中とは知らず。副隊長の姿が見えたもので、声をかけてしまいました。
失礼致しました。」
いくらその微笑みが優しいものでも、上司の妻であろうとも、シホと一緒にいるのはオーブの軍人。
大戦から二年以上の時が過ぎても、未だ心にしこりは残っていた。
オーブの軍服を直視し続けられるほど、シンの心は強くない。
なので、挨拶だけしてその場を離れようとしたのだったが。
 
 
「…あの。良かったら三人で、お茶でもどうかしら?」
 
 
ミリアリアが発した言葉に、驚いたのはシンもシホも同じだった。
「ミリアリアさん?」
ミリアリアは、シホに微笑んだ。
「…第三者がいてくれた方が、話しやすいの。
だから、いいかな?アスカくんも一緒で。」
「…ええ、構いません。シン、急ぎの予定は無い?」
「へっ?!あ、はい、隊長との打ち合わせは午後からだし、午前中は特に…」
「分かったわ。じゃあ行きましょう。ミリアリアさん、本部近くのカフェでいいですか?」
「うん。サイにメールしておくわ。」
 
俺の意見は無視かよ!ていうかエルスマン隊長の奥さん、初対面なのになんで!?
 
シンの心の叫びなど、もちろん二人には届くはずもなく。
そのままなし崩しにシンは、カフェまで連れて行かれることとなった。
 
 
 
 
 
 
 
016

第三者がいた方が冷静に話が出来る、ってありませんか?

私だけかな…?

 

 

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