「メイリン・ホークに…シン・アスカか?」
ジュール隊隊長室。
メイリンは、目の前にいる、あまりにも綺麗な顔立ちの隊長にひたすら圧倒されていた。
「はい。シン・アスカです。よろしくお願いします。」
自分の隣では、これまた久しぶりに再会したシンが棒読み気味に敬礼をしている。
「メッ、メイリン・ホークです!よろしくお願い致します!」
ぴょこん!と擬音が聞こえてきそうな敬礼をするメイリン。
その対象的な姿に、イザークの後ろに立つディアッカがくすりと笑みを零した。
「お前ら、ミネルバで一緒だったんだろ?」
ディアッカの言葉に、メイリンは元気よく頷いた。
「はいっ!アカデミーでも同期で、私はミネルバではCIC担当でした!」
「情報処理の成績、アカデミーの歴代記録にあとちょいじゃん。赤は狙わなかったんだ?」
メイリンの軍服は、一般兵の緑。
「え、えと…。私、成績にばらつきがあって…。おねえちゃ…じゃなくて、姉は赤なんですが。」
「ああ、ルナマリア・ホークね。腕のいいパイロットだって聞いてるぜ?」
「はい!」
ルナマリアの名が出ても、シンは口を開かない。
シン…どうしちゃったんだろう。
メイリンはそっとシンに目をやった。
「シン・アスカ…。デスティニーのパイロットか。特務隊の経験もあるようだな。」
イザークの言葉に、シンははっと顔を上げた。
アイスブルーの瞳と、明るい赤の瞳がぶつかり合う。
「今は戦時中ではないが、優秀なパイロットはこちらも大歓迎だ。今の機体は?」
「…ガナーザクウォーリアです。」
「量産型か?」
「はい。」
「…そうか。分かった。」
イザークはシンとメイリンのパーソナルデータをディアッカに手渡す。
そこに書き加えられた文字に、ディアッカの目が少しだけ細まった。
「…あの。ちょっといいですか。」
おずおずとシンが声を発した。
「何だ?」
シンはイザークと微妙に視線をずらしたまま、口を開く。
「…俺…じゃない、自分は、きっと上層部から見たら問題のある兵士だと思います。
グラディス隊が解散した後、所属部隊も数えきれないくらい変わりました。
なのに、なぜ自分をこの隊に?」
イザークは、愉快げな表情でシンを見つめた。
「厄介者の自分がなぜ、ザフトの精鋭であるジュール隊に配属されたのか。
そう言いたいのか?貴様は。」
「っ…はい。」
警戒心を隠す事も出来ない目の前の少年ーー少年というには些か歳が上だがーーを、ディアッカもまた興味深げに見つめる。
デュランダル議長の手のひらで踊らされた、あまりにもまっすぐな少年。
自分の信じていたものを否定され、傷ついた心はまだ血を流しているのだろう。
データによればシンは、所属していたいずれの部隊の隊長からも、MSの操縦は一流であるもののメンタル面の不安定さと人間関係の構築に問題ありと烙印を押され、各部隊を転々としていたらしい。
確かに、厄介者と呼ばれてもおかしくはない。
ふとディアッカは、地球を訪れた時見かけた野良猫を思い出した。
警戒心と、恐怖と、戸惑いと。
そんな感情がシン・アスカからは溢れ出ている。
「貴様のパイロットとしての能力、埋もれさせておくには惜しいからだ。
上層部から打診を受けた時、俺は即座にお前の入隊を了承した。
あのアスランやキラとそれなりに互角に戦えるパイロットなど、そうそうおらんからな。」
今はオーブにいるアスランの名に、シンの顔が歪む。
「でも俺は…あの人に負けました。負けて、その上ルナと二人で助けられて…」
そう言えばそうだった、とディアッカも記憶を辿った。
ミリアリアと再会する寸前、アスランがミネルバのパイロット達を収容したとイザークに報告したのは自分だ。
「それがどうした?俺もディアッカも、キラに勝った事などただの一度も無いが?」
その言葉に、シンがぽかんとした顔でイザークを見つめる。
純粋に驚いているのだろう。きょとんと目を丸くした顔は、やはりまだ少年の部類で。
「あー、俺なんてナチュラルと相撃ちになったっけなぁ。」
遺伝子操作無しでそれだけの実力を持つ、今はオーブにいる飄々とした男を思い出し、ディアッカはくすりと笑った。
「シン・アスカ。貴様が前議長のプランを支持していたことも、戦時中、仲間と共に全力で戦った事も俺は知っている。
それがナチュラルに対する憎しみなのか、プラントを守る為なのか、別の理由があるのかなど、どうでもいい。
まずは貴様が今、そしてこの先にしなければいけない事を考えろ。
…戦争は終わったんだ。2年以上も前にな。」
シンは呆然とイザークを見つめ、その言葉の意味を噛み締める。
「…了解しました。」
それだけぽつりと答え、先程より幾分気持ちの入った敬礼をするシンに、はらはらとその様子を見守っていたメイリンはそっと息を吐いた。
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シンの扱い、難しいですね。
destinyでは悲しい思いも沢山していた分、私の中では今後彼の心がちょっとずつでも癒され、
少しでも前に進んでほしいな、という思いがあります。
2014,8,15up