薔薇の刻印 3

 

 

 

 
「たい…ちょ…」
「ずいぶん遅かったな。心配したぞ。」
呆然と立ちつくすシホ。
イザークがつかつかとその前に歩み寄り、ぐい、と腕を掴んだ。
「何をしている。ほら、行くぞ。」
シホは言葉もなく、引きずられるようにイザークの後について行った。
 
 
「あの、どうして…」
優雅に足を組んでソファに座るイザークに、シホはおずおずと声をかけた。
「どうしてだと?それはこっちの台詞だ!」
途端、少しだけ声を荒げるイザークにシホは目を見開いた。
 
「何が気に入らない?ちゃんと口に出して言わねば、伝わるわけがなかろう?!」
「べ…つに…。気に入らないとか、そう言うわけでは…」
 
 
「ではなぜ俺を見ない?」
 
 
シホは思わず顔をあげた。
薄紫の瞳に映るのは、きつい視線で自分を射る愛しい男の姿。
 
「お見合い…されるんですか?」
「は?!」
 
アイスブルーの瞳を見開き、また素っ頓狂な声を上げるイザーク。
シホは拳をぎゅっと握りしめた。
 
「母上の電話のせい、か?」
シホは俯いたまま返事をしない。
「…シホ。ここに座れ。」
そう言って自分の隣をぽんぽんと叩くと、シホは素直に従い、ぽすんと腰をおろした。
長い髪が俯いたシホの顔を隠す。
 
 
「…見合いの話は、今に始まった事ではない。」
 
 
「え…?」
「戦争中にもそう言った話は腐るほど受けていた。最も全て断っていたがな。」
「え…ええっ!?」
「今回のものは、どうやら母上の知り合いが強引に持って来た話らしくてな。
言われてみればそんなメールをもらっていた気がするが、ここの所の激務ですっかり忘れていた。」
「そう、ですか…。」
シホは気が抜けてしまい、思わず顔をあげた。
さらり、と黒髪が揺れる。
 
 

「とにかく、だ。俺は見合いなどする気はない。先程母上にも電話でそう伝えた。
…現在、付き合っている女性がいる、という事もな。」
 
 
イザークの言葉をシホが正しく理解するまで、しばらくかかった。
 
「そっ…そんな!隊長…!」
慌てふためくシホ。
普段なかなかお目にかかれないそんな姿に、イザークはくすり、と笑みを零した。
 
「安心しろ。お前の名まではまだ出してない。時期が来れば紹介する、とは言ったが。
これで見合いの話もなくなるだろう。」
「そんな簡単なものじゃないでしょう?それに…紹介って、そんなの無理です!」
イザークはきょとんとした。
「なぜだ?」
シホは俯く。
「だって…わ、私は…両親とも不仲ですし、家柄だって」
「何か勘違いしてないか?シホ。」
イザークの声に少しだけ怒気が混じり、シホはびくんと肩を震わせた。
 
 
「俺は、お前自身を好ましく思っている。そこに家柄や家庭環境など関係ない。
それともお前は、俺がただの同情や遊びでお前を選んだとでも思っていたのか?」
「そんな事思ってません!思っていたら、隊長の所に戻ってなんていません!」
 
 
確かに、最初はとても信じられなくて、同情からの言葉だと思った。
あんなことをされた自分を好きと言ってくれるなんて、あり得ないと思った。
それでも結局、イザークの強い意志を宿した瞳とその言葉を、シホは信じたのだ。
嘘をつくような人ではないから。
 
だから、それだけは、誤解されたくない!
シホは顔をあげ、キッ!とイザークの目を見た。
 
 
二人の視線が絡み合う中、す、とイザークの腕が伸び、シホの後頭部を捉える。
声を上げる間もなく、次の瞬間シホはイザークの腕の中にいた。
 
 
「ミリアリアもそうだが…お前ももっと自分に自信を持て。俺が選んだのはお前だ。
俺は婚姻統制に縛られるつもりなどない。
自分の伴侶は自分で選ぶ。分かったか?この馬鹿者が。」
 
 
シホの目が見開かれた。
「…たいちょ…」
「隊長ではない。名前で呼べと言っているだろうが!」
「イ…ザー…ん…」
途中まで発せられた言葉は、そのままイザークの唇に飲み込まれた。
 
 
 
 
 
 
 
007

SEED時代のアスラクとかを見ていると、戦争中でもこういう話あったんじゃないかと思うんですよね。

ニコルもコンサートとかしてたし。

 

 

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2014,8,7up