44, メッセージ 2

 

 

 

 

午前8時。
ザフト本部にあるラクスの執務室には、ラクスにキラ、ディアッカとミリアリア、そしてバルトフェルドが集まっていた。
ディアッカはイザークにも連絡をしようとしたのだが、ラクスから少し待つようにと止められたのだ。
 
 
「封筒とカードの両方を調べたが、やはり指紋は、お嬢さんのものしか検出されなかった。
メッセージもありふれた字体で打ち込まれているし、手がかりとなるものは特にないようだ。」
 
 
バルトフェルドが静かにそう切り出した。
 
「入籍の翌日、それも早朝にこんなものを自宅に寄越すって事は、君たちの事をそれなりに調べあげている、って事だろうな。」
「でも…!二人の入籍は散々昨日ニュースにも取り上げられていたじゃないですか?」
キラの言葉に、バルトフェルドはふむ、と頷いた。
 
「しかし、自宅の場所や部屋の番号までは報道されていなかろう。
ここは学校じゃないんだ。住所録なんて気の利いたものもあるはずが無い。
ザフトの管理下じゃ、エルスマンの個人データの閲覧も簡単にはいかない。
それに、総領事館側でもそんなデータは公開していないだろう?お嬢さん。」
「はい。特にうちは人員も少ないし、ナチュラルという立場上、個人情報は出来るだけ外に出さないようにと言われていますから。」
ミリアリアが頷いた。
 
 
「やっぱり、『あの方』の仕業…?」
「だろうな。ミリアリアが見た亜麻色の髪の男が本人なのかは分かんねぇけど。
少なくとも仲間、である事は間違いないだろう。」
ディアッカが溜息とともにキラの言葉に答えた。
 
 
「ディアッカさん、このカードと封筒ですが、お預かりしてもよろしいですか?」
ラクスの言葉にディアッカが眉を上げる。
「ラクス嬢?」
「この『報い』という言葉が気になります。」
水色の瞳が鋭い色を湛えてディアッカを射た。
 
 
 
「このメッセージ…。わたくしにはどうしても、ディアッカさんとミリアリアさんだけに向けられたものとは思えないのです。」
 
 
 
その場にいた全員の目が、ラクスに向けられた。
「ラクス、どういう…」
その時、キラの携帯が鳴った。
 
「…イザーク?」
 
戸惑うキラの声に、ミリアリアとディアッカは顔を見合わせた。
 
 
 
「イザークの所にも、同じメッセージが?」
 
ディアッカは驚き、思わず声を上げた。
「うん。今カードを持ってこっちに向かってるって。
内容は一応聞いたけど、ディアッカ達の結婚を祝う言葉と、あとは大体ここにあるカードと同じ事が書かれてたみたい。」
「狙いは、私たちだけじゃないって事…?」
不安げに震えるミリアリアの声に、ラクスの凛とした声が答えた。
 
「どうやら、そのようですわね。
でもこれで、『あの方』とは、単なる旧ザラ派の人間ではない、という事が分かりましたわ。」
「ラクス…?」
呆然とするミリアリア達の耳に、イザークの到着を告げる秘書官の声が響いた。
 
 
「本当に同じような事が書かれているな…。」
イザークの元に届いたカードを一読したバルトフェルドの言葉に、一同は無言になった。
「…このメッセージを読ませて頂いてまず分かる事は、少なくともしばらくの間、『あの方』はこちらに手出しをしてくるつもりはない、ということですわね。」
「え…?」
ミリアリアはその言葉に驚き、ラクスを見つめた。
 
「このような手のかかる事をして、わざわざ嘘を書く理由がありません。
それと、『あの方』の狙いがミリアリアさん達だけではない、という事もこれではっきりしましたわね。
でなければ、リスクを冒してイザークさんにまでカードを送る必要は無いはずですわ。」
 
 
「狙われてるのは、俺とミリアリア、それにイザークも、って事か…。」
 
 
ミリアリアの隣に座り、黙ったままだったディアッカが口を開いた。
「共通項があるようで、よく分からないな…。」
イザークも眉を顰め、会話に加わる。
 
 
「旧ザラ派の意思を汲んでいるのなら、その中には自然とわたくしやキラも入って参りますわね。」
ラクスが物憂げに微笑んだ。
 
 
「とにかく。こちらはわたくしの方で預からせて頂きます。
バルトフェルド隊長、調査をお願い出来ますか?」
 
 
そう声をかけられたバルトフェルドは、にやり、と笑みを浮かべた。
「もちろんですよ、ラクス嬢。
幸いな事に、敵はすぐに動かないと手の内を晒してくれている。
全力で調査に当たりましょう。」
 
そう言うとバルトフェルドはディアッカとイザークを振り返った。
 
 
 
「…というわけだ。だが、くれぐれも油断はするなよ?
お嬢さんのご両親にも念のためしばらく護衛をつける。秘密裏にだがな。
君たちは、目の前の大切なものを守る事だけを考えろ。」
 
 
 
その言葉に、イザークの表情が僅かに変わった。
事情通のバルトフェルドが、シホの件を知らないはずがない。
その上で、今の言葉を口にしたのだ。
 
心を通わせ、少しずつ立ち直っているシホに、これ以上傷を負わせる訳にはいかない。
イザークは、シホの笑顔を思い出し、ぎゅっと両の拳を握りしめた。
 
 
そしてディアッカは、昨日自分の妻となったミリアリアの手をそっと握り締める。
 
 
自分が初めて心から欲し、またそんな自分を愛してくれたミリアリア。
自分の矜恃にかけて、誰にも、手出しなどさせない。
 
 
隣に座るミリアリアの手が、そっとディアッカの手を握り返すのが分かった。
 
 
 
***
 
 
 
「…なんだか、とんでもない滑り出しになっちゃったわね。」
ザフト本部から両親の待つホテルに向かいながら、ミリアリアは苦笑して溜息をついた。
「ん…。ミリィ、大丈夫か?」
そう言って心配そうに顔を覗き込んでくるディアッカに、ミリアリアは意外にも笑顔を向けた。
 
 
「不安が全くない、って言えば嘘になるけど…。
ラクスの言う通り、しばらくは敵も動かないと思うの。
それに、ディアッカと二人なら大丈夫だもの。だから平気よ。」
 
 
屈託のないその笑顔に、ディアッカは胸の内にあった澱のような何かが溶けて行く気がした。
そして、湧いて来たのは闘志。
俺は負けない。
俺を信じてくれるミリアリアを、大切なもの全てを守ってみせる。
 
 
「お父さん達には何も言わないでおこうぜ。
護衛もついてるし、お前も言う通り、あのメッセージが本当ならとりあえず今は心配なさそうだしな。」
「うん、そうね。ありがと、ディアッカ。」
「どういたしまして。つーか俺の両親でもあるんだぜ?
こんくらい当たり前だって。」
 
 
 
ディアッカの温かい笑顔に、ミリアリアもまた笑顔で頷いた。
 
 
 
 
 
 
 
016

イザークにも届いていた、黒い封筒。

『あの方』については、次の長編で明かされます。

(御都合主義ですみません…)

さて、次でいよいよ「空に誓って」完結です!

 

 

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2014,8,5up