44, メッセージ 1

 

 

 

 
「…ん」
 
 
瞼を閉じたままでも分かる眩しい光に、ディアッカは声を上げる。
ゆっくりと目を開けると、そこには朝日を背にこちらを振り返るミリアリアの姿があった。
 
 
「あ、おはようディアッカ。ごめんね。眩しかった?」
「ん…だいじょぶ。おはよ、ミリィ。…もう起きる時間?」
大きな体で伸びをするディアッカの姿に、ミリアリアは思わず微笑んだ。
いつもは上げている前髪がはらりと額にかかり、少しだけ彼を幼く見せている。
 
「今日、お父さん達を送ったりしないといけないでしょ?だから早めに起きたの。
ディアッカはもう少し寝ててもいいわよ?」
「そっか…いや、俺も起きる。シャワー浴びてくるわ。」
「…とりあえず何か着ていってよね。目のやりどころに困るから。」
「はいはい」
 
 
お互いの裸なんてもう散々見てるのに。
それこそ数時間前にも。
 
 
ディアッカはくすくす笑いながらバスローブを羽織ると、シャワールームに足を向けた。
 
 
 
ディアッカの姿が部屋から消えた事を視界の端で確認すると、ミリアリアはふぅ、と息をついた。
乱れたベッドからシーツを外してランドリーボックスに入れ、そのままリビングに向かう。
 
 
昨日、無事に入籍もすませた。
ミリアリアは、名実共にディアッカの妻になったのだ。
昨日まで特別措置として最高評議会から発行されていたプラントへの滞在許可証も、今日中には返却しなければならない。
代わりに発行されるのは、プラント市民としてのIDカード。
テロリストの侵入などを考慮して、プラント市民は氏名や顔写真、血液型、DNAの情報までもが網羅されたカードを付与される。
ミリアリアも事前に生体認証の為の検査を受け、入籍に合わせてカードを発行される事となっていた。
 
 
「ミリアリア・ハウじゃなくなったのね、私…」
 
 
リビングのカーテンを開き、空気を入れ替える為に窓を開けながらミリアリアはぽつりと呟く。
いずれ一度地球に戻り、オーブの行政府にも婚姻届を出さなくてはならない。
昨日渡された書類は転送不可のものだ。
ミリアリアのようなイレギュラーな場合でも、オーブ国籍を持つ以上はオーブの法が適用される。
そして婚姻届のような重要な書類は、やはり本人が直接提出する必要があった。
 
いつ、オーブに戻ろう?
 
結婚式は6月に予定されている。
少なくともその後でなければ、ディアッカもミリアリアもまとまった休みは取れないだろう。
私的な理由で、職員の少ない総領事館に迷惑をかけるわけにはいかない。
ディアッカの方も、いくら副隊長のシホがいるとは言えそう簡単に長期休暇を取るわけにはいかないだろう。
近いうちに、ディアッカと相談しなきゃね。
そんな事を思いながら、ぼんやり外を眺めていた時。
 
 
 
玄関の方から、かたん、と音が聞こえた。
 
 
 
ミリアリアは、はっとそちらを振り返る。
素早く時計に目をやると、まだ早朝と言ってもいい午前5時台。
外はもちろん明るいが、常識的に考えても客人の訪れる時間ではない。
 
ディアッカはまだバスルームだ。
この部屋はセキュリティもしっかりしているし、玄関には二重にロックもかかっている。
モニタで外を確認するくらいなら大丈夫だろう。
一瞬どうしようか迷ったミリアリアはそう考え、足早に玄関に向かった。
 
 
 
 
シューズクローゼットの脇に設置されたモニタに手を伸ばそうとして、ミリアリアは玄関のドアの下に何かがある事に気づいた。
念のため灯りをつけ、ドアの下を確認する。
 
 
「封、筒…?」
 
 
それは、真っ黒い封筒だった。
差出人も宛先も書かれていない、不気味なほどに真っ黒な封筒。
 
ミリアリアはそっとそれを拾い上げて中身を取り出そうとしたが、封筒を手にリビングまで駆け戻った。
バスルームからちょうど出てきたディアッカが不思議そうにその姿を見送る。
 
「ミリィ?どうした?」
 
ミリアリアはその声には答えず、開けっ放しだったリビングの窓から身を乗り出し、目を凝らして表通りを見つめた。
早朝ということもあり、人通りもまばらだ。
怪しい人物は、特に見当たらない。
 
 
その時、亜麻色の髪にキャメル色のマフラーをぐるぐると巻いた男性がミリアリアの目に止まった。
4月も半分近く過ぎ、いくら早朝でもあのようにマフラーを巻く程気温は低くない。
するとその男性が角を曲がる寸前ピタリと立ち止まり、そっとこちらを振り返りかけーー窓に立つミリアリアの姿を認めたのだろう。ぎくり、と体を強張らせて逃げるように踵を返した。
 
反射的にミリアリアは追いかけようとして、ディアッカに腕を掴まれ引きとめられた。
「おい、どうしたんだよ?!」
「離して!早くしないと逃げられちゃう!」
「は?!」
ミリアリアは濡れた髪から水滴を滴らせるディアッカを見上げ、我に返った。
 
 
「これ…いま、玄関に…」
 
 
ミリアリアの手にした黒い封筒に、ディアッカの目が眇められた。
 
 
 
 
「開けるぞ」
 
念の為手袋を嵌めたディアッカが、そっと封筒から中身を取り出した。
ミリアリアは固唾を飲んでそれを見守る。
出てきたのは、白地に黒枠のシンプルなカードだった。
それ一枚きりで、他には何もないようだ。
 
「何か、書いてあるみたい…」
 
二人はカードに書かれた文面に目をやり…言葉を失った。
 
 
 
『お二人の御結婚を心から祝福致します。
その幸せに慣れた頃、真の報いが貴殿らに訪れる。
その時まで、束の間の幸せを、どうか満喫されたし。』
 
 
 
「…なによ、これ…」
青ざめたミリアリアがぽつりと呟いた。
綺麗に印字された文字が、余計不気味さを醸し出す。
 
「…ミリィ、お父さんたちのシャトルって何時発?」
「11時半…よ。」
ディアッカはカードを手に立ち上がった。
「キラに連絡を取る。さすがにラクスに直接ってのは失礼な時間だろ?」
ミリアリアは不安げにディアッカを見上げた。
「うん…。私からしようか?」
「いや、俺がする。どうせイザークにも連絡が必要だろうし。」
「ねぇディアッカ。これ、もしかして…」
ディアッカは手にしたカードに目を落とした。
 
 
「ああ…。例の『あの方』からだろうな。」
 
 
ミリアリアはその言葉に、ふるりと体を震わせた。
 
 
 
 
 
 
 
016

入籍翌日に届けられた、不気味な黒い封筒。

『あの方』の真の目的は何なのでしょうか…。

 

 

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