43, はじまりの日 2

 

 

 

 
その後、関係各所に入籍の報告と挨拶を済ませたミリアリアとディアッカはラクスの勧めでホテルに戻り、ミリアリアの両親と夕食をともにした。
政務を終えたタッドも駆けつけ、夕食の席はとても賑やかで楽しいものとなった。
ミリアリアの父であるレオナルドの仕事がコロニー開発事業ということもあり父親同士の話も弾み、またエイミーのほんわかとした雰囲気は食事の席に笑いと安らぎを添えた。
 
 
仕事の合間を縫ってプラントを訪れた為、明日の便で地球に帰ると言う両親に明日の再会を約束し、タッドの車でミリアリアとディアッカはアパートに送り届けられた。
 
「お父様、忙しい中お呼びたてして申し訳ありませんでした。
お疲れになりませんでしたか?」
心配そうに問いかけるミリアリアに、タッドは笑って首を振った。
 
「君のような娘さんを育てたご両親に会えて、とても嬉しかったよ。
結婚式の時には、もう少しゆっくり話をしたいと伝えてくれるかね?」
「…はい、もちろん!ありがとうございます。」
ミリアリアはにっこり微笑んで頷いた。
 
 
 
「ディアッカ、疲れたでしょ?いまお風呂準備するね?」
アパートの灯りをつけると、ミリアリアは笑顔でディアッカを振り返った。
「ああ。お前も疲れただろ?そんな急がなくていいから。」
そう言ってディアッカは、脱いだ軍服をクローゼットに片付ける。
そして着替えを済ませるとリビングに向かい、ソファに座った。
 
 
挨拶に回った時のサイの話によれば、二人の入籍はすでにニュースで取り上げられていたようだ。
記者会見の時ほどではないだろうが、またしばらく騒がしい日々が続くだろう。
そして再来月には、結婚式も控えている。
 
 
「…おかあさん、か。」
 
 
ディアッカは、昼間ミリアリアの母であるエイミーに言われた言葉を思い出していた。
小さい頃から母親と言うものに縁が薄かったディアッカにとって、その言葉は衝撃的だった。
自分の母親であるティナは、写真とおぼろげな記憶の中でもディアッカの中にしっかりと息づいている。
それでも、ディアッカの奥底にはやはり、寂しいという思いがあったのだ。
 
 
喪失の、恐怖。
どう足掻いても手に入らない温もりへの、諦め。
手に入らなければ、欲しがらなければいい。
そう思って生きてきた。
 
 
そんな自分が、初めて本気で手に入れたいと思ったのが、ミリアリア。
自分だけを見て欲しい、愛して欲しい。
自分の命と引き換えにしてでも守りたい。そんな存在。
エゴと紙一重の感情である事は、自覚している。
度が過ぎる独占欲、嫉妬。
ミリアリアを抱く時の、どうしようもないほどの征服欲。
 
だがミリアリアは、それを無意識に見抜いた。
ディアッカに甘えてばかりだ、と言いながらも、時には母親のようにディアッカに深い愛情を与えてくれるミリアリア。
意地っ張りでなかなか素直になれなくて、でも本当は優しくて、ディアッカを誰よりも大切に想ってくれる存在。
恥ずかしがりながらもディアッカが与える快楽に溺れ、涙を浮かべ縋り付く小さな体。
 
 
今ならわかる。
ミリアリアも自分と同じ位、自分を愛し求めてくれていると。
その事に、ディアッカは途方もない幸せを感じた。
 
 
 
そして、今日のエイミーの屈託のない言葉。
コーディネイターである自分を、躊躇いなく息子と呼んでくれる、ナチュラルであるミリアリアの両親。
 
 
種の違いなんて、些細なものでしかない。
志や想い次第で、人はこんなにも、強く優しくあれる。
ナチュラル排斥を謳うザラ派や地球にいるブルーコスモスの残党も、いつか気づくだろうか。
コーディネイターもナチュラルも、同じ人間であるということを。
 
 
ディアッカは思う。
それこそが二度の大戦を乗り越えた自分達に課された命題なのだろう、と。
 
 
 
「ディアッカ?寝ちゃったの?」
 
ワインを手に、ミリアリアがリビングに現れた。
「まさか。こんな日に先に寝るわけないじゃん?」
ディアッカは、いままで考えていたことを悟られぬよう、笑顔を作ってミリアリアを振り返った。
するとなぜか、ミリアリアの目が眇められる。
 
「…また、一人で何か考えて、一人で勝手に納得してたわね?」
 
ディアッカは一瞬、息を詰めた。
「もういい加減分かるわよ。これでも一応、元ジャーナリストですから?」
「ミリィ…」
ミリアリアはくすくすと笑いながら、ディアッカの前にグラスを置いた。
 
「嘘よ。ジャーナリストは関係ないわ。
そばにいるからかな?ディアッカの事、だんだん分かるようになってきたみたい。」
そう言って、花のような笑顔を見せるミリアリア。
 
 
「…ずるいよな、お前ってホントに。」
「何がよ?」
「俺が欲しい時に、欲しいものをくれる。言葉でも愛情でも、なんでも。」
 
 
ミリアリアはきょとんとした。
…よく分からないけど…ディアッカが嬉しそうだし、いいか。
 
 
 
ディアッカは隣に腰を下ろしたミリアリアを抱き寄せた。
ふわりと、ミリアリアの香りが鼻腔をくすぐる。
自分が選び、自分が贈った、花のトワレ。
離れていた時すらもミリアリアがそれを身に纏ってくれていた事を、ディアッカは誇らしく思う。
 
 
「ほら、乾杯しましょ?」
「何に?」
ミリアリアからグラスを手渡され、ディアッカは首を傾げた。
 
「そうねぇ…。入籍も無事終わったし、私達のはじまりの日に。それと、お母様のお誕生日に。」
「…あ」
「忘れたらダメよ?その為に今日に決めたんだから。」
 
からかうようなミリアリアの声に、ディアッカは苦笑した。
 
「…落ち着いたら、地球に行こうぜ。お母さんと、お父さんに会いに。」
「…うん。きっと喜ぶわ。自慢の息子が帰ってきた、って。
ふふ、一人娘の立場が無いわよね。」
ミリアリアの言葉に、ディアッカは今度こそ心からの笑顔を浮かべる。
俺には、帰る場所があるんだ。
 
 
「乾杯」
 
 
ちりん、とグラスが鳴った。
 
 
 
 
 
 
 
016

ミリアリアの母であるエイミーの言葉を思い出し、幸せを噛み締めるディアッカ。

ミリアリアもまた、数々の困難を乗り越えてディアッカと結婚出来た事に喜びを感じています。

 

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2014,8,3up