「お待たせしました、エルスマン様。」
事務員の声に、ディアッカとミリアリアは顔を上げた。
「ご提出頂いた婚姻届は、正式に受理されました。
これにより、お二人の婚姻は成立しました。
奥様であられるミリアリア・エルスマン様は、本日からプラントの市民権、永住権も取得したことになります。
プラント側での手続きはこれで完了となりますので、あとはオーブ行政府にこちらの書類をご提出下さい。」
「は、はい…」
ミリアリアは事務員から、書類の入った封筒を受け取った。
と、それまで厳粛な表情で手続きを進めていた事務員がにっこりと微笑んだ。
「ご結婚おめでとうございます、エルスマン様。
あなた方は、プラントの希望です。
どうか末長くお幸せに。」
気づけば、室内にいた他の職員たちも皆ディアッカとミリアリアに微笑んでいた。
「ああ、ありがとう。」
驚きのあまり固まるミリアリアの肩を優しく抱き、ディアッカが笑顔で礼を言った。
ミリアリアはそんなディアッカを見上げ、花のような笑顔を浮かべる。
そして、そのまままっすぐ前を向き、「ありがとうございます。」と、頭を下げた。
二人が行政府を出ると、そこには黒塗りのエアカーの前に立つラクス・クラインの姿があった。
「ラクス?どうして…」
「おめでとうございます、ディアッカさん、ミリアリアさん。」
まるで自分の事のように嬉しそうな微笑みを浮かべるラクスに、ミリアリアはもちろんディアッカまでもが笑顔になった。
しかし、ディアッカはふと気づきラクスに目を向ける。
「ラクス嬢、確か今日は…」
「わたくし、今日は午後からお休みですわ。ディアッカさん。」
小首を傾げて微笑むラクス。
だが、ディアッカは記憶していた。
ジュール隊の予定表では、確か…。
ディアッカの脳裏に、銀髪を逆立てて怒る親友の姿が浮かんだ。
「ねぇラクス、どこに向かっているの?」
ミリアリアはラクスに何度もそう問いかけたが、ラクスは微笑んで、「もう少しですわ」と言うばかりだった。
程なく三人を乗せたエアカーが到着したのは、プラントでも指折りの高級ホテル。
「お二人とも、こちらへどうぞ。」
ミリアリアとディアッカは、顔を見合わせた。
ディアッカも事の顛末は分からないらしく、肩を竦める。
ラクスが先に立ち、ミリアリア達はエレベーターに乗り込んだ。
「こちらですわ。」
ラクスが振り返ったのは、ホテルの最上階。
特別室の前だった。
「誰か中にいるの?」
きょとんとするミリアリアに、ラクスはにっこり微笑んだ。
「ミリアリアさんから先に入った方がいいかもしれませんわ。さぁ、どうぞ。」
コンコン、とラクスがドアをノックし、ミリアリアを促した。
「…ま、危険はないだろ。入れよ、ミリィ。」
ディアッカの言葉にミリアリアは頷くと、そっとドアを開けた。
「…ミリアリア!」
「…うそ…お父さん?お母さん?!」
そこにいたのは、地球にいるはずのミリアリアの両親だった。
ミリアリアは両親の元に駆け寄り、ディアッカはあまりの展開にそのまま固まる。
「ディアッカさん?そこに立ち止まっていらしたら、わたくし中に入れませんわ。」
鈴を振るようなラクスの声に、ディアッカは我に返った。
「ラクス嬢。確か今日の午後の予定は、要人との面会、となっていたはず…ですよね?」
「はい。間違いではないでしょう?」
「…感謝します。ラクス嬢。」
それは、ディアッカが今出来る最大級の謝辞だった。
「どういたしまして。さぁ、あちらへ。」
ラクスが微笑んで、そっとディアッカの背中を押す。
ディアッカは、再会を喜び合うミリアリアとその両親の方にまっすぐ歩いて行った。
「ミリィ。旦那様を紹介してくれないの?」
母の声に、ミリアリアは後ろを振り返った。
「あ、ディアッカ、ごめん!とにかくびっくりしちゃって…」
目に涙を溜めて微笑むミリアリアに、ディアッカは笑顔で首を振った。
「いや、大丈夫。俺こそぼんやりしていて悪かった。」
そしてディアッカは居住まいを正し、ミリアリアの両親に向き直る。
「先日は通信越しに失礼しました。
改めて、ご挨拶させて下さい。
ザフト軍ジュール隊副官、ディアッカ・エルスマンです。
この度は、ミリアリアとの結婚を認めて下さり、本当にありがとうございます。
色々とご心配をおかけすることもあるかと思いますが、今後とも、よろしくお願い致します。」
そう言って深々と頭を下げるディアッカ。
ミリアリアは自然にその隣に寄り添った。
「ディアッカ、うちの両親よ。直接会うのは初めてよね?」
ディアッカが顔を上げると、そこには碧の瞳を持つ穏やかな雰囲気の女性と、オレンジがかった茶色い髪の男性が笑顔で立っていた。
「レオナルド・ハウです。よろしく、ディアッカ君。」
差し出された手を、ディアッカは力強く握りしめた。
「こんな立派な息子が出来るなど、夢のようだな?エイミー。」
「本当。素敵な旦那様ね、ミリィ?」
エイミーと呼ばれた女性は、ディアッカを見上げてふわりと微笑んだ。
「ミリアリアの母の、エイミー・ハウよ。
あなたのお母さんになれて、本当に嬉しいわ。」
その言葉にディアッカはぽかんとした。
「こんな私じゃおこがましいかもしれないけど。
地球にも母親が出来たと思って、困った時はなんでも話してもらえたら嬉しいわ。
ふふ、こんな素敵な息子が出来たなんて、お友達になんて言おうかしら?」
エイミーの言葉に、レオナルドも続く。
「ディアッカくん。これからは地球にも帰る家がある、と思って欲しい。
ミリアリアは出来た娘ではないが…よろしく、頼みます。」
レオナルドはそう言って、ディアッカに頭を下げた。
「お母さん!お父さんも!いきなりそんなこと言ったらディアッカも困っちゃうでしょ?!」
慌てるミリアリアに、ディアッカは笑顔で首を振った。
「ありがとうございます。その…俺も、嬉しいです。
こんな風に接してもらえるなんて思ってなくて。」
「ディアッカ…」
ミリアリアが少しだけ心配そうにディアッカの顔を覗き込んだ。
「俺は、物心ついた時から父と二人きりの家族で。
その父も仕事が忙しかったもので、なかなか触れ合う機会がありませんでした。
ですから、その…色々戸惑うことも多いと思います。
だから、俺がおかしなことをした時は、遠慮なく言ってください。」
ディアッカの不器用で、しかし真摯な言葉にレオナルドとエイミーは顔を見合わせ、微笑んだ。
「そうね、分かったわ。じゃあまずひとつ。いい?ディアッカ君。」
「…はい?」
「私の事は『おかあさん』、彼の事は『おとうさん』と呼んでくれるかしら?」
ディアッカの紫の瞳が、まんまるに見開かれ。
「はい。喜んで。」
その端正な顔が破顔し、大きく頷く。
その姿を見ていたミリアリアは、今までに感じたことのない位の幸せを噛み締めていた。
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ついに、入籍!
ラクスからのサプライズも素敵ですね。
そして、幸せそうな二人を書けて私も嬉しい(感涙
2014,8,3up