月面旅行5 〜嫉妬〜

 

 

 

 

ミリアリアがゆっくりと目を開けると、目の前に褐色の肌があった。
…あれ?ここどこ?
寝起きで回らない頭を何とか回転させて、現在の状況を整理する。
 
 
キラ達にもらった『コペルニクス2泊3日』のチケット。
それで昨日、ディアッカとシャトルでコペルニクスにやって来た。
豪華なホテルに、豪華な部屋。
窓からの絶景。
ディアッカがどこからか出して来たワイン。
それを飲んで、その後…
ミリアリアはがばり、とベッドから体を起こした。
その後、私どうしたっけ???
いくら考えても、その先の記憶が無い。
 
 
ミリアリアは、はっきりいってアルコールに弱かった。
それでも、ワインの2〜3杯くらいは何とか飲めたし、悪酔いする体質でもなかったので記憶を失うなんて事も無かった。
 
私、いったいどれだけ飲んだのよ?!
 
まさか1杯でダウンしたなどとは思ってもいないミリアリアはそこまで考えて我に返り、先程目にした褐色の肌に視線を移す。
そこには、紫の瞳を細めて柔らかく微笑むディアッカの姿があった。
 
 
「おはよ、ミリアリア」
「え…あ…お、おはよう」
 
 
いつの間に起きていたのだろう?
そんな事を思い、まだいまいちぼんやりしていたミリアリアにディアッカの腕が伸ばされる。
「きゃ…」
そのまま頭に手を添えられ、引き寄せられ。
一瞬だけ合わせられた柔らかい唇の感触に、ミリアリアは微かに震えた。
 
「…具合、だいじょぶ?」
 
ぽふん、とベッドに戻され、いつのまにかディアッカに半分組み敷かれるような体勢になっている事に気づき、ミリアリアは赤面した。
「う、うん。別にどこも何ともない、けど」
「ふーん。そりゃよかった。で、昨日の事、覚えてる?」
ミリアリアは視線を泳がし、観念したように首を横に振った。
その姿に、ディアッカはくすりと笑う。
「お前さ、あれで酒が飲めるって言うならその辺の子供だって『飲める』範囲だぜ?」
「わっ…私、昨日…何かしたっ?」
「あ、もしかして記憶ねぇの?あんなにかわいかったのに」
「──っ!!!あんた、もしかして…」
慌てて着衣を確認するミリアリアに、堪らずディアッカは吹き出した。
 
「あのなぁ、いくら久しぶりだからってあんだけ酔ってる女に手を出すほど俺もケダモノじゃないつもりですけど?」
 
ミリアリアの顔がさらに赤くなった。
「そ、そうよね。…ごめん」
きっと、酔いつぶれたミリアリアをここまで運んで寝かしつけてくれたのであろう。
そんなディアッカを一瞬でも疑ってしまった事に、ミリアリアは罪悪感を覚えた。
「…ってことで、どーする?」
「え?」
「昨日お前、『ずっとここにいてもいい』って言ってたけど?そーゆーのがお望みなら俺も異存は…」
「ばっ!ばばばっ!馬鹿っ!!出かける!今すぐに出かけるわよ!!」
そう言ってベッドを飛び出そうとするミリアリアを、ディアッカはくすくすと笑いながら抱き締めた。
「ちょ、なにしてんのよ!シャワー…」
「ゆっくりキスする時間くらい、くれてもいいだろ?」
「う…」
 
 
そうして落ちて来た唇を、ミリアリアは目を閉じて受け止めた。
 
 
コペルニクスの町並みは、どこかヘリオポリスや地球にも似ていた。
「なんだか…懐かしい感じ」
「ああ、プラントにも似たような所はあるけどな。ここって他のコロニーの原点みたいなもんだから。やっぱ似てくるんじゃねぇ?」
「そう言うものなの…」
「プラントだってさ、結局第一世代とその親がはじめは住んでたわけじゃん?俺の祖父母だってナチュラルだし。だから、プラントにも多いぜ?こういう町並み」
「そうなんだ…。いつか、プラントにも行ってみたいなぁ」
思わずそう呟いたミリアリアの手を、ディアッカがぐいっと引っ張り指を絡めた。
 
 
「そのうち来りゃいいじゃん?戦争も終わったんだし」
 
 
ミリアリアは、ディアッカを見上げてにっこりと微笑んだ。
「…そうね。その時はよろしくね?」
その笑顔と言葉に、ディアッカは一瞬ぽかんとしたあと柔らかく微笑み「任せとけ」と頷いた。
 
「どこか行きたい所は?」
ディアッカの言葉に、ミリアリアはしばらく思案した後「…特に、これと言って…」とすまなそうに呟いた。
「は?お前、キラに色々聞いて来たんだろ?」
「うん。でも…」
「でも、なんだよ?」
ミリアリアは耳を赤くして俯いた。
「あんたの行きたいとこでいい」
「俺の行きたいとこ?」
戸惑うディアッカの耳に、ミリアリアの小さな声が聞こえた。
 
 
「あんたといっしょなら、どこだっていいわよ…」
 
 
どこまでも、本当にどこまでも意地っ張りでかわいらしいミリアリア。
ディアッカはその言葉に破顔し、ミリアリアの額にキスを落とした。
「なっ!み、道の真ん中で何て真似…」
「いいじゃん。俺たち付き合ってんだし?周りはぜーんぶ他人だし」
「それとこれとは話が別でしょ!?もうっ!」
プリプリと怒るミリアリア。
しかし、どれだけ怒っても、ミリアリアが絡め合った指をほどく事だけは無かった。
 
 
「なぁ、お前普段どんなカッコしてんの?」
突然の質問に、ミリアリアは驚いてディアッカを見上げた。
「えっと…?私服、の事?」
「そ。だってそれ、ラクスに借りた服だろ?
俺が知ってるのは二年近く前までだし、好みとかも変わったのかなと思ってさ」
ミリアリアが今着ているのは、淡い桜色のワンピース。
ほとんど身一つでAAに乗り込んだミリアリアには、私服など無いも同然で。
今着ている服も、旅行券を賭けた勝負の最中にラクスに頼んで、急遽手持ちの洋服を持って来てもらった中からディアッカが選んだものだった。
「え、この服似合ってないって事?」
「そんなわけねぇじゃん。俺が選んだんだし。そうじゃなくて、せっかくこれだけいろんな店があるんだから、カレシとしちゃ服の一つもプレゼントしたいわけ。OK?」
「う…そ、そうね、地球にいた頃はデニムとカットソーとか、とにかく動きやすい服ばっかりで…。そういえば、軍服以外のスカートも久しぶり、かも…?」
 
 
戦場を駆け回るのに、ひらひらのスカートやワンピースではやっていけない。
そして、駆け出しの身では満足な報酬もあるわけがなく。
 
 
「…そういえば仕事始めてから、洋服なんてほとんど見に行く事すらしてなかったわ…」
一応若い女性として、こんな事でいいんだろうか。
思わず溜息をついたミリアリアに、ディアッカは笑顔で「そんな事だろうと思った」と言った。
「じゃあ、今日は俺がミリアリアに似合う服を選んでやるよ。あ、靴とかもな?どーせなら下着も…」
「そんなのは自分で選ぶわよ!馬鹿っ!!」
耳を赤くしてつん、と顔をそらすミリアリアを、ディアッカはくすくす笑いながら見つめた。
 
 
***
 
 
「…ねぇ、買い過ぎじゃない?ていうか、私もお金出すわ。じゃないとさすがに申し訳ないんだけど…」
近くにあったショッピングモール。
その中にあるショップのひとつでディアッカの見立てた洋服やら靴やらを散々試着させられ、挙句知らないうちにディアッカが会計をすませてしまっていた事にミリアリアは驚き、慌てた。
 
「だってしょうがねぇじゃん。全部ミリアリアに似合うんだから。俺が買いたいんだからいーの。気にすんな」
「そういう問題…?」
 
自分とディアッカの金銭感覚の違いをすっかり失念していたミリアリアは、カウンターに積み上げられた恐ろしい量の洋服や小物を前に溜息をついた。
AAの部屋に、これ全部しまいきれるのかしら…。
無理なら、ラクスに頼んでエターナルにも置かせてもらおう。
そんな事を思いながら無意識に自分の着ていたワンピースを見下ろし、ミリアリアはある事を思い出してぱっと顔をあげた。
「ねぇディアッカ。私、行きたい所あったわ」
「え?どこだよ?」
「キラとアスランがね──」
 
 
「ディアッカ?ディアッカじゃない!」
 
 
鈴の鳴るような、きれいな声。
二人が振り返ると、そこには天使のようにかわいらしい女性が驚きに目を見開いて立っていた。
「…マリア?」
「やっぱり!よかった、無事だったのね!」
マリアと呼ばれた女性は、華やかな笑顔でディアッカに抱きついた。
──ミリアリアの、目の前で。
「戦争がまた始まって、家族でコペルニクスに避難していたの。あなたはまた戦いに出ていたんでしょ?ユニウスセブンの事件くらいからずっと会っていなかったものね?」
ユニウスセブンの事件。
それは、ブレイク・ザ・ワールドと呼ばれる、地球にコロニーの破片を落とそうと旧ザラ派が起こした事件で。
それがあった当時、ミリアリアとディアッカは別れていて。
だからディアッカがどこで誰と何をしようと、ミリアリアにそれを責める権利は無い、のだけれど。
 
「マリア、悪いけど俺、連れが…」
「あら、いいわよ。私の事なら気にしなくて」
 
ミリアリアの固い声に、マリアの体を引き離そうと肩に手をかけたまま、ディアッカは慌てて振り返った。
そこにあったのは、凍るような視線と冷ややかな笑顔。
 
 
「せっかくの再会なんでしょ?こんなとこじゃ何だし、ゆっくりお茶でも飲んで話して来たら?なんなら明日のシャトルの時間までに戻ってくればいいし。 先にホテルに戻ってるから、私の事は気にしないで?それじゃ」
 
 
「おい!ミリアリア、ちょっと待てって!!」
ディアッカの上ずった声にもミリアリアは振り返らず、自分の鞄を引っ掴むとショップから飛び出し、全速力でその場を走り去った。
 
 
 
 
 
 
 
007

長くなってしまい、申し訳ありません(汗
デート、のはずがとんでもない事に…
どうする?ディアッカ!!

 

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2014,8,1up