月面旅行3 〜ワイン〜

 

 

 

 
「すっごぉぉい!!何この眺め!!」
コペルニクスの宇宙港にほど近いホテルの最上階に案内された二人だったが、荷物を置くのもそこそこに、ミリアリアは窓辺に駆け寄り歓声を上げた。
「ここ押さえたのイザークだろ?多分エザリアさんに手配頼んだな」
ミリアリアは苦笑するディアッカを振り返った。
「エザリアさん…?」
「ああ、あいつの母親。俺はアカデミー時代から世話になってるからさ。あの人の好みもそれなりに知ってるってわけ」
「ふぅん…。でも、ほんとにすごい綺麗…。コペルニクス、一望出来ちゃうんじゃない?ここ」
ディアッカははしゃぐミリアリアの隣に立ち、眼下に広がる絶景に目をやった。
「じゃあ、明後日までずっと部屋にいる?」
「え?」
ディアッカを見上げ、ぽかんとするミリアリア。
 
 
「ずっとベッドで過ごして、飯はルームサービス。俺はそれでも全然構わないけど?」
 
 
ディアッカの言葉をゆっくりと理解したミリアリアの顔が、ぱぁっと赤く染まって行き。
「ばっ…」
きっと、『馬鹿』とでも言おうとしたのだろう。
しかしその言葉はディアッカの唇によって封じられ、そのまま最後まで発せられる事は無かった。
 
 
***
 
 
「おーい、起きてる?」
「…らに?おきてるわよ。見てわかんらいの?」
「舌が回ってねぇぞ、お前」
ディアッカは溜息をつき、ソファーに沈むミリアリアを引っ張り起こした。
「でぃあっかが、わるいろよ」
ほとんど『りあっか』にしか聞こえない発音でそんな事を呟くミリアリアを、ディアッカは軽々と抱き上げる。
「酒飲めるっつたのはお前だろーが」
「のめるわよ?らからのんだれしょ?」
「ワイン1杯でこんなになるなんて聞いてませんけど?」
「きかれらかったもん…」
 
 
結局あの後二人はホテルの中で夕食をとり、部屋に戻って入浴した後ゆっくりと寛いでいた。
徹夜明けで仮眠しか取っていないディアッカを気遣ったのか、ミリアリアが「出かけるのは明日でいい」と聞かなかったのだ。
ならば、とディアッカは部屋に設置されていたミニバーからワインを取り出した。
別れる前はそんな時間もなく、ミリアリアと飲んだ事などなかったディアッカは、万が一を考え本人にアルコールが飲めるかと確認した。
そしてミリアリアは「飲めるわよ!馬鹿にしてるの?」と答えた、のだが…。
 
「ここまで弱いなんて想像出来るかよ…」
「ふらんは、もうちょっと、ろめるもん…」
いつもだったら自分で歩く!と暴れるミリアリアだったが、さすがに今日はおとなしくディアッカに抱かれるままになっている。
「気持ち悪いとか、ない?」
「らいじょうぶ…そういうの、らったことらいから」
さらに呂律が怪しくなったミリアリアを、ディアッカはそっとベッドに降ろした。
そして体を起こそうとして──違和感を感じ、首を傾げた。
 
「おい、ミリアリア?」
 
ミリアリアの手が、ディアッカのシャツの裾をしっかりと掴んでいた。
違和感の正体はコレか。
ディアッカは思わずくすりと笑みを漏らした。
「テーブル片付けてくるから。休んでろよ」
「いや」
ミリアリアはシャツを離そうとしない。
「すぐ戻るって。な?」
「ここにいて」
「…ミリアリア?」
ディアッカはミリアリアの顔を覗き込み、碧い大きな瞳が潤んでいる事に気づき驚いた。
「な、おい、どうした?!やっぱ吐きそう、とか?」
「ちがう…」
ぽろり、と涙が零れ落ちる。
 
 
「こんらに、いっしょなの、いまらけしか…」
 
 
最後まで言葉にする事が出来ず、また涙を零すミリアリア。
しかしディアッカには、ミリアリアの想いがちゃんと伝わっていた。
 
 
 
相変わらず、どうしようもない意地っ張りだぜ、全く!
 
 
 
ディアッカは柔らかい跳ね毛を撫でると、ベッドに横たわるミリアリアの隣にするりと滑り込む。
そして、寒くないようにしっかりとブランケットでミリアリアを包み、自分もその中に収まった。
「そうだな。ごめん」
そう言って温かいミリアリアの体を抱き寄せ、すっぽりと長い腕で包み込む。
 
 
「…あさってまで、ずっと…ここにいても、いいよ…?」
 
 
眠いのだろう、とろんとした声でぽつりと呟かれた言葉にディアッカは目を見張る。
それは、先程冗談でディアッカが提案した言葉、だった。
キスの後、馬鹿なこと言わないでって照れながら怒ってたくせに。
ディアッカは、ぎゅっとミリアリアを抱き締めた。
 
 
「それもすっげぇ魅力的な提案だけどさ。とりあえずお前は目ぇ瞑ってろ。俺はどこにも行かないから」
「…ほんと?」
「ほんと」
 
 
すると、ディアッカの腕の中でミリアリアは見た事の無いような柔らかい笑顔を見せた。
「…うん」
そうしてディアッカの胸に頬を擦り寄せ、しっかりとシャツを掴むとミリアリアは目を閉じる。
碧い瞳に残っていた涙が、その拍子にまたぽろりと零れ落ちた。
 
 
 
 
 
 
 

007

当サイトのミリアリアは滅法お酒に強いですが、こちらのミリアリアは滅法弱いです(笑)

ツンデレミリィ、書き慣れていないので違和感満載じゃないか心配です。

ほんとはディアッカと二人で居られれば、それだけでいい。

お酒の力を借りて零れ出た、ミリアリアの本音です。

 

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2014,7,31up