月面旅行1 〜再会〜

 

 

 

 

「よっこいしょ…」
ミリアリアはラクスから借りたスーツケースの蓋を閉めると、ふぅ、と息をついて自室のベッドに腰掛けた。
机の上にある『コペルニクス二泊三日ペア宿泊旅行券』に手を伸ばす。
「これを忘れちゃ意味が無いものね…」
ミリアリアは白い封筒を眺め、嬉しそうに微笑んだ。
 
 
 
つい先日の事。
停戦勧告が出され、ファクトリーに待機中のエターナル内で奇妙な賭け(?)が行われた。
それは、『ディアッカに本気を出させる』というもの。
キラやラクスもすっかり乗り気で、最初は苦笑いしていたマリュー達までもがその内ミリアリアをけしかけはじめた。
 
「お願いミリィ!協力してよ!ミリィだってディアッカの本気なとこ、見てみたいでしょ?」
「わたくしからもお願い致しますわ、ミリアリアさん」
 
エターナルの歌姫にまで懇願されては、ミリアリアも断るわけにはいかない。
そして、決め手になったのはエターナルでのアスランの言葉。
ミリアリアは、無謀とも言える賞品を強請ってみた。
 
 
「じゃあ、ディアッカが勝ったら二人で旅行に行かせてくれる?コペルニクスに、二泊三日!」
 
 
無謀、というのはディアッカが勝てない、という意味ではない。
彼が本気になればとても強い事はミリアリアだって知っていたし、付き合う前も付き合っていた時も、ディアッカの『本気』など何度も目にして来た。
むしろ、親友であるイザークや、自分より長い時間を共に過ごして来たであろうアスランが彼の本気の姿を見た事が無い、という事にミリアリアは驚きを隠せなかった。
 
あいつ…普段ほんとに適当にやってたのね。
 
常に飄々としていて、無駄な軋轢を好まないミリアリアの想い人は、きっとそうやってのらりくらりと今までやって来たのだろう。
彼が唯一、本気を出したのはミリアリアに対してだけ。
そう思うと、ミリアリアの胸は何とも言えない温かいもので満たされるのだった。
 
 
***
 
 
ラクス・クラインが停戦を告げて程なく、当然のようにAAにやって来たディアッカ。
どんな顔をして会えば良いか分からなかったミリアリアだったが、どうしたって顔を合わさず済むわけもなく。
ブリーフィングルームで再会したディアッカは、見たこともないほど目をまんまるにしてミリアリアを見つめ、固まっていた。
戦場カメラマンになる!と啖呵を切ってディアッカを本気で怒らせ、そのまま別れてしまったのだから驚くのも無理はない。
いつものミリアリアなら、意地を張ってぷい、と顔を逸らしていただろう。
しかし今回ばかりは、それができなかった。
それをする前に、ミリアリアの碧い瞳からは勝手にぽろぽろと涙がこぼれていたから。
最初は自分でも気付かず、柔らかく微笑むマリュー・ラミアス艦長からそっとハンカチを差し出され、初めてその涙を自覚した。
途端、ここがブリーフィングルームである事を思い出す。
あたふたするミリアリアにマリューは微笑み、ブリッジから資料を取って来るよう命じた。
部屋の外に出る機会をくれたマリューにミリアリアは目だけで感謝を伝え、足早にその場を後にしたのだった。
 
 
戦場カメラマンへの道を反対され、それこそ本気で怒られて、大喧嘩の末別れてしまったけど。
本当はずっと後悔していた。
そしてまた戦争が始まり、今度は敵同士になってしまった。
 
お願いだから、無事でいて。
 
それだけを願いながら、ミリアリアは必死に職務をこなした。
そして、いざディアッカの顔を見た瞬間。
喜びと切なさと…様々な感情が一気に涙と言う形で溢れて来てしまったのだった。
 
 
ブリッジへ続く通路で、ミリアリアは涙を拭い息をついた。
突然の失態で、みんなを驚かせてしまった。
泣き顔で戻るわけにはいかないから、マリューさんの言葉に甘えて少しここで気持ちを落ち着かせてから戻ろう。
 
そう、思っていたのに。
 
 
 
「相変わらず、よく泣くよな、お前」
 
 
 
嫌でも忘れられない、甘くて低い声にミリアリアはびくり、と肩を震わせた。
一瞬だけ躊躇して、くるりとミリアリアは振り返る。
そこには、ダコスタ達一般兵と同じ色の軍服を身に纏ったディアッカが立っていた。
 
 
「…悪かったわね」
口から出た言葉は、心とは裏腹で。
こんな事が言いたいわけじゃないのに。
ミリアリアは唇を噛み、俯いた。
 
かつ、かつ。
 
そんなミリアリアの耳に聞こえた音が、ディアッカの足音だと理解するまでにしばらくかかった。
驚いて顔を上げるのと同時に、ディアッカが乱暴にミリアリアの体を引き寄せる。
「や…離し…」
「やだね」
ますますきつく抱き締められて、ミリアリアはそれ以上何も言えなくなった。
 
「俺って、お前の何?」
 
いきなり核心に触れられて、どくん、と心臓が跳ねる。
「わたし、の…」
ディアッカの腕の中でミリアリアは戸惑い、か細い声をあげた。
「なに?」
急かすように、ディアッカの声が重なる。
ああ、怒ってる。
そう。ディアッカは、怒っていた。
常に飄々としたディアッカのこんな感情の変化は、ミリアリアにしか分からないかもしれない。
ミリアリアは、ぐちゃぐちゃの頭で必死に考える。
 
 
ディアッカと連絡が取れなくなって、再びAAに乗艦して、第一線で戦って。
自分はその間、何を想っていたか。
 
 
ミリアリアは、覚悟を決め、顔を上げるとディアッカの紫の瞳を見つめた。
 
 
 
 
 
 
 
007

EMC様、遅くなってごめんなさい!

1111HITキリリク、連載スタートです。

ご本人様からの頂き物小噺『本気!』の後日談になります。

テーマはコペルニクスへの旅行、なんですが、なぜか二人の再会シーンからスタート(笑)

多分、4〜5話くらいのお話になる予定です。

 

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2014,7,29up