本気!

 

 
 

 

 
K―ブリッジを後にする白服の背中に、「今日は急いで戻らなくても大丈夫なんだろ
う?たまにはどうだ?」アスランが声を掛けた。
 
メサイア攻防戦から数日経ったある日のエターナル。
アークエンジェルとクサナギ、そして新たに加わったボルテール、4隻の代表が集
まって、定時報告会が行われている。
 
そんな誘いを受けて、涼しげだったイザークの表情がみるみる好戦的なものに変わ
る。
「フッ、良かろう。あの頃の俺とは違うから覚悟しておけ」
そんなわけで、エターナルの談話室でアスランVSイザークのチェス対戦が始まって
しまった。
僕はチェスのことは良く分からないけど、2人とも争っている割には、なんだか楽
しそうだ。
 
――「あっ、失敗したなぁ・・・お前の後片付け役を呼んでおけば良かった・・・チェックメイト」
――「くっ・・・くっそぉぉ~っ!」
 
結局、アスランの勝利。
以前、ディアッカが愚痴っていた言葉を思い出した僕は、急いで壊れそうな物をイ
ザークの手の届かない所に移動しながら、2人に尋ねた。
「ねえ、ディアッカもチェスは強いの?」
すると、荒れ始めていたイザークがピタッと止まり、アスランもポカンと口を開け
たまま硬直している。
そして、2人は顔を見合わせると、ほぼ同時に首を傾げた。
 
――「アイツとは・・・やった記憶がないな・・・」
――「なんだ、お前達、同室だったじゃないか?」
――「そんなの関係ない。貴様の方こそ、どうなんだ?」
――「俺だってないさ。俺が覚えているのは、俺達の対局を見物している時にコーヒーを

   入れてくれたことくらいだ。

    けど、やってみたい。ディアッカとも」
――「なんだと貴様ぁ、俺では物足りないとでも言うのか!?」
――「否定はしないさ。それに、ディアッカが本気で勝負をする姿、俺は見たことがない」
――「俺に喧嘩を売るとは、いい根性だ!アスラン!」
――「じゃあ、上官であるお前は、戦闘以外でアイツの真剣な姿を見てきたのか?」
――「う~む。ミリアリアに振られて帰ってきた時や、ブレイク・ザ・ワールド事件の
   後のヤツの精神状態はかなりヤバかったが、それでも人前ではヘラヘラしていたな」
 
こんな僕達のやりとりがきっかけで『ディアッカを本気にさせる大作戦』が決行さ
れることになった。
 
そこでまず、ディアッカを本気モードにさせるのに、欠かせないのがミリィの存
在。
 
だからと言って、彼女をさらって、どこかに隠し、僕達3人に勝ったら返すなんて
・・・
そんなお決まりの脅し文句に、素直に踊らされる程、ディアッカは単純な人間じ
ゃない。
僕達は色々と考えた結果、ディアッカが勝ったら、ミリィが喜ぶ物をプレゼントす
ることにしたんだ。
ディアッカはミリィの笑顔に、誰よりも幸せを感じてくれるはずだから。
 
 
こうして3人の対戦内容も決まり、それぞれの準備が整ったところで、アークエンジ
ェルにいるミリィを迎えに行ったんだ。
案の定、たっぷりとお小言はもらっちゃったけど、『ディアッカの真剣な姿、ミリ
ィも見たいでしょ?』と無理矢理に納得させて、なんとか連れ出すことに成功した。
 
エターナルに到着した彼女を、イザークとアスラン、そしてラクスが待っている僕
の部屋に通したところで、イザークが今回の趣旨を彼女に説明する。
「ディアッカが見事クリアした暁には、お前が望む物をくれてやる。さあ、遠慮なく
言ってみろ」
そう言われて、ミリィはしばらく考え込んでいた。
それでも、なかなか欲しい物が思い浮かばない様子。
するとアスランが静かに口を開く。
「ミリアリア、あの日、君も行きたかったんじゃないのか?コペルニクスに」
 
“あの日”とは、情報収集でアークエンジェルとエターナルがコペルニクスに寄港した
日。
ラクスとメイリン、アスランと僕の4人ににこやかに手を振って、見送るミリィにも
声をかけたんだけど、「私は遠慮しておくわ」と断られてしまった。
だけどどこか悲しげな表情に、僕達は彼女の胸の内を理解した。
こんな平和な街並みを見たら、ディアッカと一緒に過ごした幸せな日々を思い出し
てしまう。
彼女にはきっと、それが怖かったんじゃないかと。
 
アスランの言葉に弾かれたように顔を上げた彼女はみるみる満面の笑顔になって、
「2泊3日ペア旅行券」と明るく告げた。
「1泊2日だ!」真っ先に文句をつけたのはやっぱりイザーク。 だけどミリィも怯
まない。
「1泊2日なんかで、ディアッカのモチベーションが上がると思ってんの?」と強気
な態度だ。
「当然、宿泊代も込みよねえ? 朝食付きだと、もっと嬉しいなぁ」と更に要望を付け
加えると、イザークは肩を震わせたまま、黙り込んでしまった。
 
そんなわけで、ミリィには所定の場所に入ってもらって、そこの扉の持ち手と、わ
ざわざこのために急遽、壁に取り付けた金具に鎖を通して、最終関門である僕からの
クエストと鎖を繋ぐ錠を連動させた。
 
 
 
Y―ボルテールで留守番中のディアッカに、俺達からの決闘状を送りつけると、即座に
返事が来た。
だが、どうやら、からかわれているとでも思ったのか、真面目に取り合うつもりは
ない様子だ。
そこで、ミリアリア・ハウがキラ・ヤマトの部屋で囚われている映像を見せてや
ったら、顔色が変わった。
シャトルで来れば良いものの、MSで乗り込んできたくらいだ。
 
初めのうちは、思いきり面倒臭そうな態度だったが、ミリアリアの所望する賞品が
『コペルニクス2泊3日ペア宿泊旅行券』と告げた途端、現金なもので、目を輝かせ
て快諾しやがった。
よし、ここまでは順調に作戦通りだ。
 
『対ディアッカ・真剣3本勝負』1回戦はアスランとのチェス対決だ。
談話室の一角に用意されたチェス盤の席に着くなり、俺に目配せしたディアッカ
は、「お前らの時に飲み物を入れてやったの、誰だったっけか?」嫌味ったらしく催
促をしてきた。上官の俺に向かってなんたる無礼!
だか、先に気付いたキラ・ヤマトが近くのディスペンサーからコーヒーを入れて、
ヤツに渡してやると、「さんきゅ、さすがキラちゃん」と上機嫌に答えて、盤面に視
線を移した。
 
こうして、アスランVSディアッカの勝負が始まった。
ヤツは挑戦者の立場のため、先手はアスランだ。
 
正統法でコマを打っていくアスランに対し、それを抑えつつ、変則的にコマを進め
るディアッカ。
これはなかなか面白い。なぜ今まで、コイツと相手をしなかったのだろうと悔やむ
ほどだ。
アスランもまた、そう感じているようで「結構やるじゃないか、ディアッカ」と称
えると、「そっかぁ?」とすっとぼけた返事をしていた。
 
ところが、しばらくするとおかしなことに気付く。
アスランのコマがすぐに取れる状態にも関わらず、ヤツはまったく、手を付けよう
としない。
一方、アスランも一瞬、『しまった』と顔を歪めるが、やられると思っていたコマ
が取られないため、怪訝な表情に変わる。
ヤツの予測不能な行動に、その先の手を決めかねているように思える。
ヤツはわざと撹乱させているのか? それとも・・・なんだか、嫌な予感がしてき
た。
俺が声を出すより先に、アスランがその疑問を口にした。
 
――「ディアッカ、チェスのルール、分かっているのか?」
――「いんや」
――「貴様ぁ、何故それを先に言わん? 俺達をおちょくってんのか?」
――「ん~? お前達がやっているのを見ていたから、なんとかなると思ったんだけどなぁ」
――「ププッ・・・」
 
ずっと黙って見ていたキラも、たまらず噴き出して、この室内にある娯楽品のガラ
クタ箱から代わりになるゲームを漁り始めた。
 
――「ディアッカが分かるボードゲームって、何?」
――「そうだなぁ・・・囲碁とか将棋なら分かるぜ」

――「うわぁ・・・父さんみたい・・・

キラ・ヤマトの呟きに、ヤツの眉間にしわが寄る。言った本人は悪びれる様子もな
く、「これはどう?」
とトランプを取り出した。が、俺が即刻却下した。
カードゲームは『運』が全てだ。
「それじゃ、これなんか良さそうだよ」次に引っ張り出したのは、オセロ盤だった。
 
――「おっ、シンプルでいいじゃん! なあ?」
――「ああ、俺も乗った!」
 
とんだ茶番はあったが、結局、オセロ対決で仕切り直された。
 
こちらもかなり興味深い試合運びだ。
盤面全てを自分の色に染めていく勢いで、序盤から大量にコマをひっくり返してい
くアスランに対して、チマチマながらも、決してアスランには裏返せない箇所を攻め
ていくディアッカ。
中盤まではアスランのコマ数が勝っていたが、そのうちにハイペースが祟り、取れ
るコマを失うと、2回のパスを余儀なくされ、そこをディアッカがジワリと追い上げ
てくる。
 
そして、結果は見た目だけでは判断出来ず、キラ・ヤマトがアスランのコマを、俺
がディアッカのコマを集計してやることになり、アスランがパスした2枚のコマを
ディアッカに加算して、両者のコマを並べたところ、なんと、その枚数は同点であ
った。
 
相変わらず、俺以上に負けず嫌いのアスランが2回戦を要求したが、『ディアッカ
に真剣勝負をさせる』が今回の目的である為、この後の勝負に影響が出ると判断した
キラ・ヤマトに止められて、俺達は次の対戦を行う部屋へと移動した。
 
 
A―次のディアッカの対戦は、イザークとの射撃対決だ。
俺達が艦内の射撃訓練室に入るや否や、イザークが手短にルールを説明する。
「弾を3発撃って、俺を超えたら、貴様の勝ちだ」と伝えながら、拳銃を手にしてい
る。
「それだけか?」ディアッカが確認するが、もう既にイザークは目標の的に向けて発
砲していた。
だが、その腕前はさすがにイザーク。
1発目は最高得点のど真ん中。残りの弾はその穴を中心に、2番目に得点の高いエ
リアの上下一箇所ずつ均等に撃ち抜いた。
 
次に控えていたディアッカは、その結果に動揺する様子もなく、口元に微かな笑み
を浮かべて、定位置に立つと、いきなり、的の距離を調整するコントロールパネルを
弄り始めた。
たしかに今は訓練じゃないから、設定はゲーム感覚のアーケードモード。 
当然、的までの距離が伸びれば伸びるほど、得点の倍率も上がっていく仕組みだ。
 
――「ほ~ら、この距離なら、どこに当てても、お前に勝てるぜ?」
――「ディアッカっ、貴様、卑怯だぞ!」
――「んなこと言われたって、俺、最初に確認したろ?『それだけか?』って」
――「くぅぅ・・・」
――「だったらさ、パネル操作をロックしておくとか、前もって他の銃を片付けとけっての・・・」
 
屁理屈じみているが、ディアッカの言い分は正しい。
この勝負は明らかに、準備の段階でそこまで気が回らなかった、いや、長年、つる
んでいながら、アイツの性質を軽んじてしまったイザークの負けだ。
ディアッカは鼻歌を口ずさみながら、壁際に掛けてあったライフル銃を手にする。
ポジションに着くと、先程までの飄々とした顔は、獲物に狙いを定める猛禽類のよ
うな目つきに変わり、放たれた3発の銃弾全て、的の中心を貫いた。
その結果、イザークの100倍以上の成績を獲得してディアッカが勝利した。
 
 
M―今、私はキラの部屋のバスルームに閉じ込められている。
目の前の引き戸には錠のかかった鎖が巻かれているものの、その鎖には“たわみ”が
あり、男性の腕1本、通るくらいは、楽に扉を開けることが出来る。
現に、首謀者の3人が居なくなって直ぐ、ラクスが紅茶とお菓子をその隙間から差
し入れてくれた。
そして、ラクスがこの引き戸を開けたその時、鎖を留める錠と連動しているという
3枚のパネルがチラっと見えて、私はそれらが無性に気になった。
ラクスが退室してから、静かにその扉を開け、手に取ると、これらはパズル。
16×16マスの数独だ。
 
私の中にウズウズと攻略欲が沸いてくる。
実は、私はこういうパズルゲームがたまらなく好きだった。
まだヘリオポリスの工科カレッジの学生の頃、加藤教授の気まぐれなテストでこの
数独が出た時なんか、コーディネイターのキラを差し置いて、私がトップでクリアしたほどだ。
 
今頃、説明を聞いているのであろうディアッカも、頭の回転はかなり良い方だか
ら、こんなパズルなんて、いとも簡単に解いてしまうかもしれない。
けれど・・・
これらを見てしまった私にとっては、こんな場所に閉じ込められていること以上
に、大好きな数独パズルが“お預け”されている状態の方が苦痛でならない。
 
ならば・・・
彼等は『ディアッカがクリアしたら』と言っていた。そうよ、手伝ってはいけない
なんて、一言も聞いていないわ。
最終的に完成させるのが、ディアッカであれば良いだけのことよね。
こんな悪知恵が働くなんて、私もずいぶん似てきたなぁ、ディアッカに・・・と、
思わず笑いが零れる。
けれどこの先、ディアッカ・エルスマンと渡り合っていくためには、『ズル賢さ』
と『したたかさ』が必須ファクターになることは間違いない。
 
私の作戦に必要な物。 幸い、ここはトイレ付バスルームだから、トイレットペ
ーパーをメモに出来る。
それにトイレに流してしまえば、証拠隠滅も完璧。
ペンは、普段、何かと頼まれ事が多く、常に持ち歩くようにしている。
あと1番大事なこと。 解読の時間配分の為にも、彼等の動きは知っておきたい。
今、3人が交代でビデオカメラを回しているはず。
そもそも、私にも彼の真剣な姿を見せてくれるって言っていたじゃない?
そこで、「ディアッカの真剣勝負を私にも見せて」とラクスにお願いして、ハンデ
ィモニターを持ってきてもらった。
その時にラクスにはもうひとつ、この部屋に彼女が近づかないよう、時間がかかり
そうなある事を頼んだ。
 
さて、これで心置きなく、パズルを堪能出来る。
一方、あちらでは、チェスの対戦が始まろうとしている頃だった。
 
面白いほど、サクサクと 全部のパズルが解けたのは、彼等が射撃訓練室に入った
時。
けれど、私が全クリアしちゃうと、錠が解除されてしまう。
だから、16マス×パズル3枚分、計48箇所の共通の数字のところだけ抜いてある。
最後にディアッカがその数を埋めれば完成だ。
 
そっと扉を開けて、それらを元あった状態に戻す。元々、彼等から見て裏返しにな
っていたので、私が手を加えたことは、なんとかバレずに済みそうだ。
そして、メモ用紙にしたペーパーもトイレに流した。
 
けれど、ディアッカがこれらを手にした時、彼等に私の書き込みが見られないよう
にしないといけない。
そのためには、私がちょこっとだけ演技をすれば、体格の良い彼が、上手く盾にな
ってくれるかも。
 
再度、モニターに目を向けると、丁度ディアッカがライフルを構えたところだ
った。
的を目がけて鋭い眼差しを向ける彼の横顔にドキリとした私は、すぐさまモニタ
ーの画像保存キーを押し、アークエンジェルにある自分のPCへ転送した。
いつも温かく、穏やかな表情で、私に微笑みかけてくれるディアッカの別の一面を
見ることが出来て、私は密かに、この作戦を企てた彼等に感謝したい気分になった。
 
更に映像を見ていると、射撃対決の結果に苛立ちを隠し切れないイザークが、デ
ィアッカに飛び掛らんばかりに、顔面を紅潮させ、肩をワナワナ震わせている。
ディアッカの方は、そんなイザークをまったく気にもかけず、ヒラリと足早に訓練
室を出て行った。
もうすぐ、ここに彼等がやってくる。 悪いけど、旅行券はありがたく頂くわよ!
 
シュンっと、ドアが開くエア音を聞いた。
私は鎖のかかったバスルームの扉をギリギリ開き、「ディアッカぁ、早くここから
助けて」と少し甘えた声で、その隙間から腕を伸ばした。
彼には、これが演技だとは気付かれていないと思うけど、予想した通り、「待たせ
たね。ごめん」と私の手を取り、ドアを挟んで向かい合った。
これでパズルは隠せる。
すると彼は、私の手の平を自分の頬に当てて、「ああ、こんなに冷え切って
・・・本当にごめんな。ミリィ・・・」
隙間から半分だけ窺える彼の表情が痛々しげに歪む。
そして、緑の軍服の上着を脱いで、こちら側に差し込んできた。
 
ずっとパズルに集中していて、分からなかったけど、彼の頬の温かさに、ここの温
度が少し低かったことに気付く。
「私は大丈夫だから、早いとこ片付けちゃって・・・」そんなに時間がかかるわけじ
ゃない。あと48マスの数字を埋めるだけで良いのだから。
私は彼の上着を押し返すけど、彼は首を横に振って、更に押し付けてくる。
「いいから、着てろ!」珍しく声を荒げるディアッカに思わずビクッとしてしまう。
ディアッカが私に対して怒るなんて、滅多にない。 彼が私を叱る時、それはいつ
も、私の身を案じる時。
それはディアッカと一度、別れる原因にもなった。
だから私には、彼の怒りは別の意味で怖くてたまらない。
素直に彼の上着を受け取って、羽織ると、さっきのライフルの硝煙の臭いが微かに
するものの、ほのかに残る彼の体温が私にしみ込んで来て、なんだか幸せな気持ちに
なれる。
 
「よーし、とっととやっつけるぜ!」とヤル気十分でパズルを手にしたディアッカだ
ったけど・・・
次の瞬間、頭の上に疑問符をいっぱい浮かべた顔で私に視線を投げかけた。
私は無言で人差し指を口に当てる。
これはもちろん『ナイショ』って意味と、48箇所の空欄の答えのサインでもあ
る。
 
ディアッカの口の端がニッと上がる。どうやら私の意図を汲み取ってくれたよう
だ。
「あ~も~、何だよっ。面倒臭ぇなぁ」わざと悪態をついて、不自然なスピードで完
成しないように時間を稼いでいるわ。
 
そのおかげで、彼らに怪しまれることなく、5分程で解放されるはずだった
・・・けど・・・。
鎖が解かれてすぐ、ディアッカはこのバスルームに入ってくるなり、鍵をかけた。
今度は彼の腕の中に閉じ込められてしまった私。
けれど、逃げ出す気には全くならない。
まるで、熱いシャワーのような甘いキスがいくつもいくつも私に振り注ぐから。
 
 
L―わたくしがミリアリアさんからお願いされたものを抱えて、キラの部屋に入ったの
は4人の殿方のすぐ後のことでした。
 
ディアッカがいち早くミリアリアさんを助け出さんと、必死になっている様子が彼
の背中からもヒシヒシ伝わってきますわ。
見事にキラからの課題をクリアしたディアッカは、しばらくの間、ミリアリアさん
と浴室に篭っておりましたが、痺れを切らしたジュール隊長にお邪魔されてしまった
ようです。
 
そして、得意気に胸を張ったジュール隊長が「結局、ヤツを本気にさせたのは、俺
との射撃対戦だけだな」と語っておりました。
アスランもキラも頷いておりますけれど、わたくしには、そうは思えませんでした
の。
 
――「ジュール隊長は先程のお2人をご覧になっていらっしゃらないのですか?」
――「ど、どういう意味です? ラクス・クライン」
――「ディアッカを本気にさせたのは、あなた方ではなく、ミリアリアさんだけですわ」
――「うん、そうかもね。僕、ディアッカが怒ったの、初めて見たかも」
 
やはり、キラも分かってくれましたわ。
「ところでラクス、そんな大量の服、ど~したの?」ディアッカが私の手元を見て尋
ねてこられましたので、ミリアリアさんから旅行中に着られそうな服を貸して欲しいと
頼まれたことをお伝えしましたの。
すると彼は、わたくしから服を受け取ったものの、急に何かを思い出したようにそ
の表情を曇らせ、アスランに尋ねました。
 
――「やっぱ、全部、勝たなきゃダメだよなぁ・・・?」
――「ディアッカ、俺はお前に勝てなかった。ならば、俺にとって、負けも引き分けも同じだ」
――「貴様ら、コイツの負けず嫌いに感謝するんだな」
――「楽しんでおいでよ、ミリィ、ディアッカ」
 
途端に明るい笑顔になったお2人は手を取り合って、喜んでおりましたわ。
瞳をキラキラさせながら、どの服にしようかと決め兼ねているミリアリアさんに、
ディアッカは一着ずつ、彼女の身体に服を宛がっては、難しい表情で首を傾げたり、
嬉しそうに目を細めたりしておりました。
どうやらディアッカにとっては、ミリアリアさんの洋服選びが本日一番の真剣勝負
のようですわ。
 
愛する女性に着てもらう服を熱心に考える彼の姿、誰かさんにも見習って欲しいも
のですわね。
わたくしが愛しい人の背中に視線を投げつけると、キラは一瞬、身震いをさせてお
りました。
 
 
 
《終》
 
 
 
 
 
 
 
 

007

500HIT記念に頂いた、ありがたい頂き物小説。

本気になったディアッカ、格好良すぎです!!

ミリィもなにげにディアッカの画像転送してるし(笑)かわいい!!

そしてディアッカの、ミリィを叱る姿にも胸キュン…

EMC様、素敵なお話を本当にありがとうございました!

 

 

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2014,6,29up