40, マリッジブルー 1

 

 

 

 
プラントで、これだけの花が咲いている場所はあまりない。
そう言ったのはディアッカだったか。
ミリアリアは咲き乱れる花を見ながら、ぼんやりとジュール邸の中庭に立っていた。
 
 
ディアッカは、アリーと少しだけ話してからここに来ることになっている。
ミリアリアはいいと言ったのだが、アリーが聞かなかったのだ。
 
 
どうしてこんなに、もやもやするんだろう。
ミリアリアは、噴水を見つけそこに腰掛けた。
水に映る自分の顔は、ゆらゆらとぼやけている。
もやもや、ゆらゆら。
まるで今の自分の心のようだ、とミリアリアは自嘲気味に微笑んだ。
 
 
「何見てんの?」
 
 
ミリアリアは突然かけられた声にびくりと振り返る。
「ディアッカ…。びっくりさせないでよ」
 
いつの間にか後ろにいたディアッカは、ミリアリアの言葉に微笑む。
そして、ゆっくりとミリアリアの隣に立つと、その華奢な体をそっと抱きしめた。
 
「…お前さ、何でそんなに自信もてないわけ?」
 
ミリアリアの胸に、ディアッカの言葉が突き刺さる。
「言ったろ?俺が選んだのはお前だって。シェリーが何言ったか知らねぇけど…」
 
 
ディアッカの口から出た、元彼女の名前。
ミリアリアの胸に、自分でも驚く程の苛立ちが芽生えた。
 
 
 
「…離して。」
 
 
 
ミリアリアは突然腕を突っ張り、ディアッカの胸から体を離した。
「ミリィ?」
「ウジウジしてて悪かったわね!ディアッカこそ、こんな私で本当にいいの?
ディアッカに甘えてばっかりで、喜ばせる事なんて何にも出来ない女と結婚して後悔しない?」
 
「ミリアリア?何言って…」
「…プラントでは、恋愛と結婚は別なんでしょう?」
「おい、何の話だよ?」
 
 
俯いて震えるミリアリアに、ディアッカは驚き手を伸ばす。
 
「いや!」
 
鋭い拒絶の声に、ディアッカの表情が変わった。
 
 
「…シェリーに、何を言われた?」
「…言いたく、ない。」
「ミリアリア!」
「ディアッカには関係ない!」
「関係ないわけないだろ!」
ディアッカがミリアリアの腕を掴んだ。
「…何言われたのか、言えよ。それとも、俺に言えない話なわけ?」
「言いたくないって言ってるじゃない!これ以上惨めな思いさせないでよ!」
 
 
 
ああ、違う。
こんなことが言いたいわけじゃない。
ミリアリアの中で何かがそう叫ぶ。
しかし、口は勝手に動き、ディアッカを傷つける言葉だけをどんどん紡ぎ出す。
 
 
「もう、嫌!ほっといてよ!ひとりにして!!」
 
 
自分の放った言葉に、ミリアリア自身が驚いた。
ひとりになんて、なりたくないのに。
 
ミリアリアの腕を掴んでいたディアッカの手が、ふっと離れた。
ミリアリアは慌ててディアッカに向き直る。
「あ…の、ディアッカ…」
ディアッカの紫の瞳は、見たことのない色に揺れていた。
傷つけてしまった。
ミリアリアの胸に、痛みが走る。
 
 
「…はい。そこまでよ。」
 
 
涼しげな、しかしきっぱりとした声音。
その持ち主は、エザリア・ジュールだった。
 
「ディアッカ。イザークが戻ったわ。あなたを探してる。」
 
言外に、ここから立ち去れとエザリアは言っている。
それはディアッカにも分かった。
 
「…こいつともう少し話してから行きます。」
「それはダメよ。」
今度はきっぱりと拒絶の言葉を吐かれ、ディアッカの眉がわずかに寄った。
「エザリアさん!」
「ミリアリアは少しだけ悪酔いしたみたいね?私が面倒を見るわ。
ね?それでいい?」
「…はい。すみません。」
「ミリィ…」
ミリアリアはディアッカを見ることなく、俯いている。
柔らかく跳ねた髪に隠れ、その表情はディアッカからは伺えない。
 
「落ち着いたら、後で誰かに呼びにいかせるわ。イザークといてちょうだい。」
 
そう言ってエザリアはふわりと微笑み、ミリアリアの肩に手をかける。
相変わらず俯いたままでエザリアとともに去って行くミリアリアを、ディアッカは呆然と見送った。
 
 
 
 
 
 
 

016

不安と混乱で、思ってもいない事を口にしてしまうミリアリア。

そこに、エザリアさんの助けが入ります。

 

 

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