39, 乱される心 2

 

 

 

 
「もしかして、ミリアリア・ハウさん?」
 
カクテルを片手に、ミリアリアは振り返った。
視線の先には、豊満な肢体をドレスに包んだ、サラサラの黒髪美女。
ミリアリアは内心警戒しながらも、笑顔を浮かべた。
 
「はい。ええと…」
「初対面よ。もしかして、って言ったでしょ?」
ミリアリアには嫌でも覚えのある感覚。
こんなところでも、また?
 
 
「…すみません、連れを待たせているもので。何か…」
「ディアッカでしょ?連れって。」
突然名前を出され、さすがに驚き目を見張る。
「彼なら大丈夫よ。さっきアリーと楽しそうに話してたから。」
逃げ場を奪われたミリアリアは、渋々ながら目の前の美女と向かいあった。
 
「あの…」
「あの二人、絵になるわよね。
ディアッカもアリーもほんとに綺麗。そう思わない?」
 
 
「…どういう、意味ですか?」
 
 
まるで、お前のような貧相な女じゃ釣り合わない、と言われているようで。
ミリアリアは気付けば、そう口にしていた。

 
「あなた、ナチュラルでしょ?失礼だけど、ご両親は何をなさってるのかしら?
オーブの政府高官、とか?」
「ごく普通の会社員ですけど。それが何か?」
「へぇ。じゃあ今はあなたの方が上の地位なのね。
その上ディアッカと結婚すればさらに安泰。大出世じゃない。」
 
ミリアリアは湧き上がる怒りを抑えるのに必死だった。
なぜいきなり、こんなことを言われなきゃいけないの?
 
「さぁ?そういう風に考えたことがないので分かりかねます。
申し訳ありませんけど、ディアッカを待たせているので。失礼します。」
そう言って歩き出そうとしたミリアリアに、黒髪の美女はさらに追い打ちをかけた。
 
 
 
「あなた、ディアッカが好きなこと、知ってる?」
 
 
 
訝しげにミリアリアは振り返る。
「…何のことですか?」
「あなたには分からないかしらね。…経験、浅そうだし?」
「…え?」
 
 
 
「ディアッカが、どうされるのが好きか。何をしてあげれば喜ぶか。
それを知ってるかって聞いてるの。」
 
 
 
ミリアリアがその意味を理解し、絶句するまでしばらくかかった。
「…な…」
黒髪の美女は、ミリアリアを見下した表情でくすくすと笑った。
 
「ディアッカ、かわいそうね。楽しみが減っちゃって。
まぁ、プラントじゃ結婚と恋愛は別だし?
いつまで持つかしらね?ディアッカは。」
 
あまりの言い草に、ミリアリアは悔しさのあまり目に涙が浮かぶのを感じた。
だめ!こんな女の前で泣くなんて絶対に嫌!!
 
 
 
「シェリー。何やってんだよ。」
 
不意に背後からかけられた声に、ミリアリアは驚いて振り返った。
「アリーさん…」
そこには、少しだけ呆れた表情のアリーが立っていた。
 
 
「アリー…。何でもないわ。ディアッカの婚約者さんがいたから、ご挨拶してただけよ。
ね?ミリアリアさん?」
白々しく微笑む、シェリーと呼ばれた女をミリアリアはきっと睨んた。
 
「…お前さぁ、あんまり下世話な話するなよ。ディアッカだって嫌がるぞ?」
「…そっちこそ、聞いてたなら白々しく声なんてかけないでくれる?
あなたもこのナチュラルに騙されたクチなのかしら?」
ミリアリアはたまらず抗議した。
「私、誰も騙してなんて…」
シェリーの冷たい視線が、ミリアリアに注がれる。
 
「あんたみたいな貧相な女じゃ、騙すくらいしかディアッカに取り入る方法なんてないでしょう?」
「シェリー!いい加減にしろよ!」
アリーが声を荒げる。
「やってられないわ。私、帰る。」
そう言って最後にミリアリアをきつく睨みつけ。
シェリーは美しい黒髪をなびかせ、人波に消えて行った。
 
 
「…ごめんね。大丈夫?」
アリーの声に、必死で涙を堪えていたミリアリアは我に返った。
「はっ、はい!ありがとうございます!」
アリーはくすりと笑うと、グラスを差し出した。
 
 
「今更ながら、婚約おめでとう。乾杯してもいい?」
 
 
ミリアリアはぽかんとアリーを見上げ。
涙の残る瞳を細めるとふわりと笑顔を浮かべ、グラスをちりん、と合わせた。
 
 
「ごめんね。シェリー、俺の婚約者なんだ。」
「…え?!」
驚いて固まるミリアリアに、アリーは苦笑した。
「婚姻統制。知ってるよね?
俺とシェリーは、適合率が異様に良くてさ。だから。」
「…そう、なんですか。」
ミリアリアは複雑な表情を浮かべた。
 
「あいつ、一時期ディアッカにかなり入れ込んでたからさ。
複雑なんだと思う。ほんと、下世話な話しちゃって申し訳ない。」
そう言ってぺこりと頭を下げるアリーの姿に、ミリアリアは慌てた。
「やめてください!私、ああいうの慣れてるしっ!あの、大丈夫ですから…」
 
おたおたするミリアリアを、アリーはきょとんと眺め。
ぷっと吹き出した。
 
「ごめん…はは、ディアッカの気持ち、ちょっとだけ分かった気がするな。」
「ディアッカの気持ち…?」
アリーはにっこり笑った。
 
「…やっぱり、結婚てお互い好きになった同士がするものなんだよね。本来。」
「あの…」
 
 
「ミリィ!!」
 
 
アリーの言葉は、割り込んできたディアッカの声に遮られた。
「どこ行ったのかと思ったら…あれ?アリー?」
「…言ったそばからこれかよ、お前…」
 
ミリアリアは話について行けず、二人をただ見ていることしかできなかった。
 
 
 
 
 
 
 
016

アリーの心配が、早速現実に…。

そして元彼女の心ない言葉に、ミリアリアの心は、ただただ乱れます。

 

 

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