40, マリッジブルー 2

 

 

 

 
「アリーから聞いたわ。…嫌な思い、したわね。」
 
ジュール邸の一室。
ミリアリアはソファに座り、エザリアから受け取ったカクテルを口にした。
エメラルド・ミスト。
綺麗な碧に、ミリアリアはぼんやりと見入る。
 
「…慣れてますから。いえ、慣れなきゃいけない事ですから。」
 
頑ななミリアリアの言葉に、エザリアは苦笑する。
ーー彼女は、強くてしなやかで…脆いんですーー
イザークに聞かされた言葉を思い出し、なるほどと思った。
 
 
「ディアッカと結婚するの、嫌になった?」
 
 
核心を突く言葉に、ミリアリアの肩が震える。
エザリアはミリアリアの隣に腰掛け、ふぅ、と溜息をついた。
「不安、なんです。多分。」
「不安?」
「はい。嫌なんじゃなくて…不安なんです。」
「…怖気付いた、ってところかしら?」
「エザリアさん…!」
ミリアリアの碧い瞳が揺れる。
 
 
「彼の華やかな女性遍歴に?
それともその家柄に?
ナチュラルとコーディネイターという、種の違いに?
さぁ、どれかしら?」
 
 
きりりとした声。
そこにいたのは、紛れもなく女傑と言われたエザリア・ジュール。
イザークと同じ色を持つ瞳が、ミリアリアを射すくめる。
 
「…ひとつずつ、お答えしてもいいですか?」
「ええ。答えられるのならね。」
 
 
ミリアリアは、手にしたカクテルをこくりと飲む。
「種の違いについては、不思議な程気にしていませんでした。
今言われるまで忘れていたくらいで。」
エザリアは眉を上げた。
「…そう。意外だわ。この状況だと、まずはそこから悩むものかと思っていたから。」
「確かに。ここはプラントで、私はナチュラルですから。そう思われるのも無理はないですね。」
ミリアリアは微笑み、言葉を続けた。
 
 
「エルスマンの家柄も、確かに私みたいな人間には荷が重いのかもしれません。
ただ、ディアッカが大丈夫と言ってくれたから。
私はその言葉を信じて、ついていくしかないと思っています。」
エザリアは無言で頷き、ミリアリアに向き直った。
 
 
「…素直になりなさいな。シェリーの事、ショックだったのね?」
 
 
ミリアリアは、寂しげな笑みを浮かべた。
 
「婚約が決まってから、何人もああいう人に声をかけられました。
みんな、私と違って綺麗でスタイルも良くて。
今日の女性には、あなたはディアッカを性的に満足させられるのか、って聞かれちゃいました。」
「…そう。それで?」
明け透けな言葉にも、エザリアは動じない。
ミリアリアは、グラスに半分残ったエメラルド・ミストを一気に飲み干した。
 
 
「確かに私、そういうことに慣れてなくて。ディアッカしか知らないし。
だからって、どうしたらいいかなんてわかりません。
あと、彼女はこうも言っていました。プラントでは、恋愛と結婚は別だって。」
 
「…ディアッカが、浮気すると思ったの?」
ミリアリアは首を振った。
 
 
「ディアッカはそんな人じゃない。それは信じてるんです。
でも、心配になったんです。
私って、ディアッカに我慢ばっかりさせてるんじゃないか、って。」
 
 
エザリアは、ミリアリアの優しさに胸が苦しくなった。
彼女に自覚があるかはわからないが、今のミリアリアが陥っているのは、マリッジブルー、と呼ばれるものだ。
結婚を決めて、いざ入籍が近づくとそれまで気にもならなかった不安がどっと押し寄せる。
エザリアにも経験があった。
だからこそ、ディアッカからわざわざミリアリアを引き離してまでこうして話をしたかったのだ。
何か、自分に出来ることがあればと。
 
しかしミリアリアが抱える不安は、エザリアの予想と少しだけ違った。
どこまでもディアッカの事だけを想う、純粋な心。
きっとミリアリアは、ディアッカの為なら命をも投げ出すのだろう。
そしてそれは、ディアッカも同じではないだろうか。
いや、そうであって欲しい、とエザリアは思う。
 
 
「…あなたは、本当にディアッカを愛してるのね。」
 
 
ミリアリアはきょとんとエザリアを見つめ、そして、今日初めて見せる曇りのない顔で、にっこりと笑った。
 
「…はい。愛してます。」
 
エザリアは苦笑を浮かべ、ミリアリアをそっと抱き締めた。
「エザリアさん?!」
「…大丈夫。彼は我慢なんてしてないわ。信じてあげて?
確かに、あなたと出会う前の彼は少々遊びが過ぎた所もあったけど。
それでも今、彼が何より大切に思っているのは、あなたなのよ?」
ゆっくりと髪を撫でられ、ミリアリアの瞳に涙が浮かぶ。
 
「…私、いいんですよね?ディアッカと結婚しても?」
「…もちろん。だから安心して入籍していらっしゃい?明後日でしょう?」
ミリアリアは、エザリアの胸の中で頷いた。
「…はい。」
 
 
 
 
 
 
 
016

不安な気持ちを吐露するミリアリア。

それでも、ディアッカを想う気持ちに変わりはないんです。

エザリアさんの優しさに、心を打たれます…。

 

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