「…驚きましたわ、ミリアリアさん」
ラクスがほぅっと溜息をついた。
「私の力じゃないの。そりゃちょっとは調べたけど…ターミナルでの情報がほとんどだもの」
「それでも、ありがとうございます。口にしづらかったことをお話頂いて」
ミリアリアははっと顔を上げる。
ラクスは、分かってくれたのだ、ミリアリアの気持ちを。
不意に、涙が浮かんできた。
いけない、こんなんじゃ!
ミリアリアは必死で涙を堪え、ラクスに目線で先を促した。
ラクスも気づいたようだ。
「では、先ほどのお話に戻ります。ヴァレンタインがなぜ核の搭載にわざわざGシリーズを選択し再開発しているか。わたくしの想像でしかありませんけど…歪んだ売名行為、とでも言うのでしょうか」
「…我々の当時の活躍を、逆手に取ってきたということですか」
イザークが怜悧な表情で意見を述べる。
「ええ。当時の精鋭部隊であるクルーゼ隊の機体であったGシリーズは、未だプラントでも名の知れた存在です。その機体が今度はコーディネイターを攻撃する…。プラントの方々の衝撃は計り知れないでしょう。でも、ただ当時の機体を再生産するだけでは、例えエクステンデットを乗せても最新鋭のザフトの機体は倒せない。性能だけなら現行のザクウォーリアの方が余程スペックは上ですものね。…だとしたらどうします?イザークさん」
イザークは、ゆっくりと思案し…はっとしたようにラクスを見る。
「Gシリーズに核を搭載して、それをプラントに…?」
ラクスは頷いた。
「わたくしもそう考えます。しかし、ただ核を搭載しても、プラントにたどり着くまでに撃墜されれば意味はありません。核搭載だけではなく、スペックを上げることも必要です。そこで、当時の開発者とエクステンデッドが必要になるのです」
ラクスはミリアリアとキラに目をやった。
「彼らが今必要としているのは、開発者としてのカトーゼミの生徒、パイロットとしてのエクステンデッドですわ。カトー教授はヘリオポリス崩壊の際に死亡しておられますから。教授の遺された核搭載データの解析、それを彼らは生徒達にさせようとしているのです。ミリアリアさんの話でも分かるように、パイロットもすでに用意が進んでいるでしょう」
「…サイや…カズイが…危ないってこと?」
キラが慌てて立ち上がった。
ラクスがそんなキラの腕に手をかける。
「カズイさんとサイさんは、カガリさんの手配したシャトルですでに地球を脱出しておられます。あと数日で、何もなければ合流できますわ」
「カガリが…?」
わずかに顔を歪めたアスランのつぶやき。
「はい。すでにカガリさんにはこの話を通しています。その上で、ご協力頂いております」
ミリアリアがちらりとアスランに目をやり、溜息をついた。
「オーブでも、ちょっとした事件があったようですわ。ですが、カガリさんに危険が及ぶようなものではないそうですので、ご安心くださいな、アスラン」
ラクスはにこりと微笑んでそう言うと、狼狽えるアスランはそのままに、改めてぐるりと部屋を見渡した。
「今お話した件、プラント側にはこちらのお二方とアイリーン・カナーバ様のみにお伝えし、実働部隊はわたくしどもとAAで派遣し対処いたします」
この少人数の艦隊で、実働部隊?それは、つまり…。
「イザークさん、ディアッカさん。軍法会議は過去の話とはいえ、余計な詮索をされるのは得策ではないでしょう?タッド様は未だ評議会に籍を置いておられますし、エザリア様とて決して安全とは言えません。ですから…」
と、それまでの凛とした表情から一転、首を傾げてにこりと微笑む。
「お手伝いしていただきたいのです。Gシリーズ開発者の護衛と、テロ組織の殲滅を」
その代わり、プラントにいるお二人の安全は保証いたしますわ。とラクスは微笑む。
にこにこにこにこ。
プラントのトップアイドルの、とびきりの笑顔。
ミリアリアの話に怒り心頭だったディアッカすら毒気を抜かれるその笑顔に、イザークが敵うはずもなかった。
それでも、彼は最後の抵抗を試みる。
「俺たちはパイロットですし…正直、機体のOSをいじったり整備する事は出来ても設計や開発までは専門外です。ですが、それ相応の知識を持つメカニッククルーやエンジニアがいれば、教授の教え子でなくとも開発自体は可能なのではありませんか?」
すると、キラが申し訳なさそうにこう告げた。
「すでにあの五機体に関するデータはモルゲンレーテで抹消済みなんだ。だから、教授の残したデータを使うしかないんだけど…多分データは暗号化されているんじゃないかと思うんだ」
「暗号化…?」
「うん。教授のプログラミングは、その…ある意味難解らしいんだよね。パスも尋常じゃない量だったし、あれを解除して先に進めるのは、モルゲンレーテのエンジニアが束になっても多分年単位の時間が必要…かも…。ね、ミリィ?」
「…うん、まぁ慣れの問題もあると思うけど。キラですら、最初はトールと一緒にカレッジのライブラリにも無いような文献を山ほど漁ってたわよね」
「だって、公用語で書いてなかったからさ。結局サイが見つけてくれたっけ」
「あれは人選ミスよ。トールじゃ公用語も危ういわ。まだカズイのがマシね」
当時を思い出したのか、少しだけげんなりした顔をしつつも思い出し笑いをする二人。
そんな二人を見ながら、ラクスも笑顔になる。
「カトー教授が残したと思われる、Gシリーズへの核の搭載についてのデータ。そのデータを解析できる可能性のある人材、それがキラたち五人の生徒達。うち二人はここにおられます。お手伝いをお願いした理由、これでご納得頂けますでしょうか?イザークさん、ディアッカさん」
プラントに、核を搭載したMSごと突っ込む、ってことかよ!
頭を抱えたディアッカをまるきり無視し、イザークは立ち上がりラクスを見つめ、はっきりと告げた。
「結果的にプラントの為となるのなら…謹んでその任務、お受けいたします」
ディアッカが盛大な溜息を吐いた。
2014,6,4up
2014,9,23改稿