アスランの出発の日。
クサナギの停泊するドッグにはイザークとディアッカ、ラクスとキラ、そしてオーブ総領事館の職員達が見送りに来ていた。
「それではアスラン、道中お気を付けて。」
ラクスが柔らかく微笑んで、手を差し出した。
「…ありがとう、ラクス。何かあればすぐ連絡を。」
「もちろんですわ。でも、こちらにはキラもイザークさん達もおられます。
あなたは、ご自分の任務と、大切なものの事だけをお考えくださいな。」
アスランは、一瞬驚いた顔をした後柔らかく微笑み、ラクスの手を取ると握手を交わした。
「もう、大切なものを見失わないように。祈っております。」
「…ああ。ありがとう、ラクス。」
ザフトの隊長服をその身に纏ったアスランは、ラクスの後ろに控えるキラ、そしてイザークとディアッカに向き直る。
アカデミーからずっと一緒だった、隊友であり戦友。
言いたい事、伝えたい事は山ほどあった。
しかしアスランがしたのは、美しい敬礼。
ここに至るまで、本当に色々なことがあった。
共に学んだ事も、敵と味方に別れて戦った事も、立場を違えて戦った事も、同じ隊の一員として戦った事もあった。
だがその分、深い絆も生まれた。
イザークとディアッカも、アスランに向けて敬礼を返す。
彼らの間に、言葉など要らなかった。
そしてキラは敬礼の代わりにただ微笑み、頷いた。
「アスラン、カガリをよろしくね。相変わらず無鉄砲みたいだから。」
お忍びゆえクサナギから出ては来なかったが、中でアスランを待っているであろうカガリの姿を思い描き、キラはくすりと微笑んだ。
「…努力する。」
アスランも苦笑でそれに応じた。
視界の端で、見送りに来ていたミリアリアが複雑な表情を浮かべるのが分かった。
「アスラン、行っちゃったわね…」
小さくなって行くクサナギを見送りながら、ミリアリアは隣に立つサイに小声で呟いた。
「カガリも心強いだろうね。良かったよ、ほんと。」
サイは微笑み…にやり、と意地悪な笑顔をミリアリアに向けた。
「次に会うのは、ミリィとディアッカの結婚式だね?」
その言葉にミリアリアは顔を赤らめた。
「そう、ね。なんだか実感がないわ…。結婚式、なんて。」
「その前に忘れてない?あと10日もすれば入籍じゃない。
それに、今日はディアッカの誕生日だろ?」
「忘れてないわよ、そんな大事なこと!」
「入籍?誕生日?どっちの事言ってるのさ。」
ミリアリアは軽く溜息をついた。
「…ここ半月くらい、ディアッカ忙しかったから…。
多分、言わなきゃ今日が誕生日って気づいてないと思うわ。」
サイの表情がいたずらっぽいものになる。
「でも、サプライズは用意したんだろ?」
「…まあね。まずは思い出してもらわないと。」
二人は顔を見合わせてくすくすと笑いあった。
「ディアッカ、今日は定時で上がっていいぞ。」
執務室に続く通路で、突然そう告げられたディアッカはきょとんとした。
「なんだよ、いきなり?」
イザークは立ち止まる。
「…お前らは、似た者夫婦になれるな。」
「は?」
つられて立ち止まったディアッカが首を傾げる。
「それとも、昔のように夜の街に繰り出すつもりか?独身最後の誕生日だしな。
なんなら俺からミリアリアに…」
「…あ。」
ぽかんと口を開け、固まるディアッカ。
「…馬鹿者が。」
そう言い捨てて、イザークは執務室のドアを開けーー固まった。
「イザーク、マジで定時で帰って…」
後ろから追いかけてきたディアッカもまた、驚きに眉を上げる。
「…任務、ご苦労様でした。」
珍しく結っていない黒髪をさらりと靡かせ、紅茶のポットを手に振り返ったのは。
黒い軍服を身に纏った、ジュール隊の副隊長。
シホ・ハーネンフースであった。
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迷いを捨て、本当に大切なものと共にある為にプラントを後にしたアスラン。
そして、ミリアリアやディアッカ、そしてイザークの支えで辛い経験を乗り越えたシホは、黒服を纏い隊に戻ってきます。
2014,7,19up