38, それぞれの場所へ 2

 

 

 

 
「シホ…」
 
「なんて顔されてるんですか。二人して。」
シホは、大の男がドアで並んで固まる姿を不思議そうに見やり。
ぷっと吹き出した後、くすりと笑った。
 
 
 
「どうぞ。」
シホが紅茶を執務机に置く。
いつもなら、自分でやりなさい!と切り捨てるディアッカの分も、今日はテーブルに準備された。
「コーヒーじゃなくて悪かったわね。」
「いや…いいけど、別に。」
 
執務室には、微妙な空気が漂っていた。
「シホ、その…」
 
 
「ご迷惑をお掛けしました。もう大丈夫です。今日から職務に復帰します。」
 
 
前と変わらぬ、凛とした口調でそう言い切り、シホは頭を下げた。
顔を上げたシホは、目の前の二人の様子にまた微笑み、ディアッカに視線を合わせた。
 
「ミリアリアさんに、サプライズは成功したと伝えておいてくれるかしら?」
 
ディアッカはソファから勢いよく立ち上がった。
「あいつ…!知ってて黙ってたのかよ!」
「お誕生日のサプライズ、だそうよ。良かったわね。お誕生日おめでとう。」
「…サンキュ」
 
狼狽えるディアッカを見て、くすくすと笑うシホ。
初めて見る黒服姿は、シホの凛とした雰囲気にとても良く似合っていて。
イザークは、ただその姿に見惚れた。
 
 
 
定時できっちり帰る!というディアッカは、あっという間に紅茶を飲み干すと立ち上がった。
 
「じゃ、俺行くから。シホに引き継ぎ頼むな、イザーク。」
「ああ、了解した。ミリアリアによろしく伝えてくれ。」
「あ…あの!」
「え?」
シホの声に、ドアに手をかけたディアッカは振り返った。
 
 
 
「…ありがとう、ディアッカ。感謝してる。」
 
 
 
シホが発した言葉に、ディアッカの目がまんまるに見開かれる。
何かを乗り越えたような顔をしたシホは少しだけ恥ずかしそうに目を逸らしたあと、もう一度ディアッカを見て、微笑んだ。
 
 
「…大した事じゃねーよ。じゃあな、シホ、イザーク。」
ディアッカは微笑み、ドアの向こうに消えた。
 
 
 
 
 
「ミリアリア!」
 
宣言通り、定時できっちり仕事を終え帰宅したディアッカは、コートを乱暴に脱ぎ捨てるとリビングに入って行った。
「ディアッカ?おかえりなさい。」
キッチンから、満面の笑みを浮かべたミリアリアが出てくる。
ディアッカは歩みを止めぬままミリアリアの前まで行くと、荒々しくその細い体を抱き締めて、唇を重ねた。
「ん!んー!!」
抗議の声とともにじたばたと暴れる体を押さえつけ、口内に舌を捩じ込む。
だんだんと深いキスに変わって行くにつれ、ミリアリアの体から力が抜けて行った。
 
 
「…ど…したの、よ?いきなり…」
やっと解放された唇から漏れる弱々しい抗議の声。
 
「お前、シホの事知ってて黙ってただろ?」
 
抱き締めていた腕を解き、そのままソファに座ったディアッカはミリアリアを強引に隣に座らせた。
ミリアリアは楽しそうに、くすくすと笑っている。
 
 
「シホさんにね、隊に復帰するって言われたの。
まだ誰にも知らせてないって言うから、言わずに復帰しちゃえば?って提案したのよ。
改まった感じにするのも嫌だったんですって。びっくりした?」
「まぁな。イザークも固まってた。」
「じゃあ、サプライズは成功ね。」
にっこりと笑う、ディアッカが世界で一番大切な婚約者。
 
「でね、ディアッカにもお礼を言わなきゃ、って言うから、それならお誕生日おめでとう、って言ってあげて?ってお願いしたの。
ここの所忙しかったから、自分の誕生日の事なんて考えてる暇なかったでしょ?」
「ああ…。お前の事、笑えねぇよな。」
「ふふ、そうね。でもほんとに大変だったものね。しょうがないわよ。」
 
「でもさ。」
 
「でも?」
 
不思議そうに首を傾げたミリアリアに、ディアッカは不敵な笑みを見せた。
 
 
「誕生日と気づいたからには…もちろん、くれるんだろ?俺が欲しいもの。」
 
 
ブラウスのボタンに手をかけながらとんでもないことを口にするディアッカに、ミリアリアの顔色が変わった。
「え、あの、えっ?」
「プレゼントちょうだい?俺が今一番欲しいモノ。
何が欲しいか、お前だったらもちろん分かるだろ?」
「ここで?!今?」
「そ。サプライズついでに。」
「ついでの意味がわかんないわよっ!」
うっかり油断して隣に座ってしまった事を、ミリアリアは悔やんだ。
しかし、時すでに遅し、で。
 
「…いい?」
 
その甘い声を紡ぎ出す唇を、ミリアリアはそっと自分のそれで塞いだ。
「お誕生日、おめでとう。ディアッカ。」
唇を離して恥ずかしそうにディアッカを見上げ、小さい声で囁くミリアリア。
そんなミリアリアに、ディアッカはまた荒々しく口付けた。
 
 
 
 
 
 
 

016

初めてディアッカの事をファーストネームで呼んだシホ。

二人の間に、新たな信頼と絆が生まれた瞬間です。

そして、誕生日という事を思い出し急いで帰宅したディアッカを待っていたのは?

 

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