「運動の後の飯はうまいなー」
シャワーを浴びてまだ少し髪が濡れたままのディアッカが、にっこりとミリアリアに微笑みかけた。
「…そうね…」
ディアッカの誕生日ということで、腕によりをかけて作った料理だ。
こんなに喜んでくれるのは確かにとても嬉しいのだけれど。
「…なにも、リビングでなくても…」
結局あの後、ついでのサプライズはつつがなく決行された。
煌々と明かりが灯るリビングの、ソファの上で。
その時は夢中でも、冷静になった今は思い出すだけで顔を赤らめるミリアリアに、ディアッカは意地の悪い笑みを浮かべた。
「あんなにかわいかったのに?」
「もう!うるさい!バカっ!」
ますます顔を赤らめるミリアリアの姿に、ディアッカはつい吹き出した。
「…シホさん、良かったね。」
ベッドサイドの灯りの下、ディアッカに寄り添いながらミリアリアは微笑んだ。
「んー、そうだな。まぁイザークの努力もあったんじゃねぇ?
あいつ、俺にも言わずにシホんとこ行ったらしいし。」
「そうなの?」
「ああ。あいつらもやっと、収まるとこに収まったんじゃね?」
「そっか…。」
ディアッカは、ミリアリアの体を抱き寄せた。
「あいつさ、初めてディアッカ、って俺の事呼んだんだ。
ありがとう、いろいろ、感謝してる、って。」
「あいつって…シホさん?」
「うん。」
ミリアリアは目を輝かせ、嬉しそうに微笑んだ。
「ちゃんと分かってくれてたんだね、ディアッカの気持ち。
よかったね、ディアッカ。」
自分の大切な仲間である、シホに起きた不幸。
その場に居合わせたディアッカの苦悩も、ミリアリアはよく知っている。
「…ああ。サンキュ、ミリィ。」
優しいミリアリアの言葉に、ディアッカの心がじんわりと温かくなった。
「…えっと、それでね。誕生日プレゼントなんだけど…。」
「…へ?」
ディアッカは驚き、思わずベッドから身を起こした。
「あの、あんまりって言うか…本気で期待はしないでほしいんだけどね!一応、準備したの。」
「ミリィ…。マジで?」
シホの事件で、ミリアリアだって毎日忙しかったはずなのに、いつのまに?
「さっき渡すつもりだったんだけど…いきなり、あんなことするからタイミング逃しちゃって…。
やっぱりお誕生日当日に渡したいし、ちょっと待っててくれる?」
「あ、ああ。」
ミリアリアはベッドから降りると、クローゼットの扉を開けてふっくらとした包みを取り出した。
そしてそれを大切そうに胸に抱えると、ぱたぱたとディアッカの元まで戻ってくる。
「…要らなかったら、使わなくていいから。とりあえず開けてみて。」
「お前、人にプレゼント渡す時に言う言葉か、それ?」
なぜかひどく恥ずかしそうなミリアリアに苦笑し、ディアッカは丁寧にラッピングを解いて行く。
そして、中から現れた物は。
「…マフラー?」
それは、柔らかで暖かそうな、黒いマフラーだった。
「あの…。ディアッカ、本部に着いて車を停めてから執務室に行くまで結構外を歩くでしょ?
クサナギまで送ってもらう時、寒そうにしてたから…。
それに、ここから歩いて行く事も多いじゃない?」
「…まぁ、うん。」
「マフラー、嫌いだからしないのかなって思ったけど、別に持ってても損はないし…。
ラクスに、編み方教えてもらったの。
一番シンプルな編み方だから失敗もないし、丁寧に編めば売り物とそれほど変わらないって言われたから…」
ディアッカはまじまじと、それこそ穴のあくほど自分が手にしたマフラーを見つめた。
「お前が編んだの?だってお前、裁縫とか…」
「そっ!そりゃ確かに苦手だけど、ラクスに教わって頑張ったの!確かに、何回か編み直ししたけど…。
でも、毛糸はラクスおすすめの、すっごくいいやつ使ったんだから!」
そう言って真っ赤な顔を俯かせるミリアリア。
「ディアッカって好みにうるさいってイザークも言ってたし。
手編みなんて、好きじゃないかもって思ったんだけど…他に思いつかなくて。」
「…うん。」
それっきり何も言葉を発しなくなってしまったディアッカの顔を、ミリアリアは心配そうに覗き込んだ。
「あ、あのね。ほんと半分自己満足みたいなものだから…。つ、使わなくてもいい、のよ?
来年はもうちょっといいもの、用意するから。ごめ…」
「使う。」
ミリアリアの言葉を遮るようにきっぱりとそう口にするディアッカを、今度はミリアリアがまじまじと見つめた。
「子供の頃、イザークがエザリアさんの手作りのマフラーしててさ。
なんか、それ思い出してぼーっとしてた。ごめんな。」
「え?あ、ううん。」
ディアッカは、マフラーをそっと広げた。
この手触り、そしてラクスのおすすめという事は、多分カシミヤの毛糸を使って編まれているのだろう。
「手作りのものなんて、もらったことねぇからびっくりした。
ありがとう、ミリアリア。大切にする。」
ディアッカの言葉に、ミリアリアがぱぁっと笑顔になった。
「…うん。良かったら、使って?」
「当たり前だろ?明日からこれつけて出勤するから。」
と、ミリアリアがマフラーを手にしたままのディアッカを、そっと自分の胸に抱き寄せた。
「…お誕生日、おめでとう。」
いつもとは逆の体勢に、ディアッカはなんだかくすぐったい気持ちになる。
「ありがとう。」
そして、ミリアリアの胸に頭をくっつけると、温かい体に腕を回し、ぎゅっと抱き締めた。
「…明日、行政府に行って来る。婚姻届、取りに。」
ミリアリアは、マフラーをサイドチェストにそっとしまったディアッカに抱き寄せられながら、碧い大きな瞳を見開いた。
「…うん。お願いね。」
そうして二人でブランケットに包まると、ディアッカの胸に顔を埋め、ミリアリアは目を閉じた。
「おやすみなさい。ディアッカ。」
「ん、おやすみ、ミリィ。」
そうだ、もうあと10日もすれば、私はディアッカの正式な奥さんになるんだーー。
目を閉じながら、ミリアリアは少しだけ胸の鼓動が早くなるのを感じていた。
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ミリアリアからの誕生日プレゼントは、手編みのマフラー。
裁縫が苦手なミリアリアには、きっとトリュフのお礼にラクスが丁寧に指導したんでしょう(笑)
そしていよいよ、入籍の日が近づいてきます…。
2014,7,19up