「どういう、事ですか…?黒服ならエルスマンが…」
シホの声が震える。
「犯人を検挙した日に、俺が上に申請した。
それを身に纏えるのは、副隊長と副官だ。お前は俺の隊の副隊長だろう?
一つの隊に黒服が二人いてはいけないという軍規などあったか?」
「でも!私は…」
「シホ。」
イザークの静かな声に、シホは戸惑ったままの表情で顔をあげた。
「お前はそれを身に纏って、これからも俺の傍にいろ。
ジュール隊副隊長としても、シホ・ハーネンフース個人としても。」
シホはその言葉に、思わず息を詰めた。
どこかぼんやりしていた薄紫の瞳に感情が戻り、唖然としながら目の前のイザークを見つめる。
「わたし、個人としても…?」
「ああ、そうだ。そう言ったろう?」
そばに、いろ?
あんなことをされた自分を、傍に置く?
「私が彼らに何をされたか、分かってるんですか?
先日も言ったとおり、私はもう…」
「好きだ。」
被せるように言われた言葉の意味が、シホには一瞬理解できなかった。
「お前が、好きだ。」
「…だから、私はもう、隊長に好きと言って貰えるような女じゃないんです!
どうして分かってくださらないんですか?」
「お前こそなぜ分からん!誰が決めた?そんな事!!」
いつしか二人は声を荒げ、テーブルを挟んで睨み合った。
「あいつらに何をされたのかくらい、充分承知している。
ディアッカとアスランが止めなければ、俺はあいつらをあの場で殺していた!」
「隊長…」
シホは動揺していた。
あんな男達に散々弄ばれた自分を、なぜ?
言葉を失い、呆然と考え込んでいたシホは、イザークがすぐそばに来ていることに気がつかなかった。
ぐい、と両肩を掴まれ、我に返る。
「シホ。俺を見ろ。」
分かっていて、わざとそうしているのだろうか。
その声に、逆らえるわけがないのに。
シホは、恐る恐る視線を上げた。
「きゃ…」
何が起きたのか、理解するまでにしばらくかかった。
シホは、イザークの腕の中にいた。
「だ…だめです!私はもう、汚いから…離して下さい!」
「うるさい!汚くなどないと言っているだろうが!」
ぎゅうぎゅうと抱き締められて、シホの体が軋む。
「…しょ…」
耳元で聞こえた、小さな声。
「隊長…?」
「あんなやつらに…畜生…!」
シホは知っている。
これは、怒りに震えるイザークの声。
「…何を、怒って…」
「大切なものを踏み躙られて怒らないやつがいるか!?」
シホを抱き締めたまま、声を荒げるイザーク。
「大切な、もの…?」
「お前だ!決まっているだろうが!」
「…私?」
返事の代わりに与えられたのは、先ほどよりも強い抱擁。
「何度でも言うぞ。俺はお前が好きで、大切に思っている。
…まだ、信じられないか?」
「だって、私は…」
イザークの手が、シホの長い黒髪を梳いた。
「あいつらに何をされようと関係ない。お前はお前だ。
そしてどんなお前でも、俺にとっては大切な存在なんだ。」
凍っていたシホの心から、何かがぱりぱりと剥がれて行く。
「私は…、隊長の事を、好きでいていいんですか?
あんな事をされた私が?」
「関係ない。そんなものは俺が忘れさせてやる。どれだけ時間がかかっても。」
シホは、そろそろとイザークの背中に腕を回した。
「…好きだ、シホ。俺の傍にいてくれ。ずっと。」
その瞬間。
感情が戻ったシホの薄紫の瞳から、涙が零れ落ちた。
「…はい、隊長…」
それ以上口を開けば、嗚咽しか漏れないと思ったシホは、短く肯定の返事をする。
「名前で呼べ、と言ったはずだが?」
黒髪を指に絡め、そのまま促すようにシホの顔を上げさせ。
「はい…イザーク…」
震える声で自分の名を呼ぶその唇を、イザークは優しく塞いだ。
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これが、イザークが考えて考えて出した答え、です。
自分の片腕として、そして大切な存在としてシホを想うイザークの気持ちはシホに伝わり、頑なになっていた心を溶かします。
心に傷を負ったシホに自分が出来る事、を彼なりに一生懸命考えたのだと想います。
皆様に安心して頂けるような結果になっていれば良いのですが…(汗
2014,7,17up