「…イザーク・ジュール」
ケインのいた場所から少し離れた部屋に、ソチ・ギュネイルはいた。
憎しみの籠った声、ぎりりと自分を睨みつけるその眼光の鋭さ。
例えばキラだったなら、きっとこの視線に耐えきれず目を逸らしていただろう。
しかし、イザークはその負の感情が籠った視線を正面から受け止めた。
短く刈り上げられた黒髪に、黒曜石のような黒い瞳。
やはり整った顔立ちだが、それは今イザークを目の前にして怒りと憎しみに歪んでいる。
「貴様がソチ・ギュネイルだな。」
イザークは、拘束されているソチの正面に、テーブルを挟んで向かい合い座った。
ディアッカ辺りが目にしたら、顔色を変えて止めに入りそうなほどの至近距離だ。
「国防委員会のギュネイル委員のご子息と聞いているが、間違いはないか?」
「あいつの名前を口にするな!」
ソチの怒声が部屋に響く。
しかしイザークは表情ひとつ変える事なく、アイスブルーの瞳でソチを射抜いた。
「ここに来る前に、ギュネイル議員から連絡を受けた。
…本当に申し訳ない、と繰り返し謝罪されていた。」
その言葉に、ソチの表情が変わった。
「俺が処罰した事件を受け、貴様はギュネイルの家から勘当されたそうだな?
それが、今回シホを襲った理由か?」
「…それは、きっかけのひとつでしかない」
ソチは再び、ぎりりとイザークを睨みつけた。
「あのまま行けば、俺は国防委員にだってなれたんだ!望めばそれ以上もな!!
お前がエルスマンを副官にしているように、ケインを従えてプラントの中核まで上り詰める、その計画を崩したのはお前だ!!」
イザークは表情を変えない。
「薬物を使用した強姦事件。そんなものを起こした人物がプラントを動かす立場になれるとでも思っているのか?
政治の世界はそんなに甘くはない。」
「あの程度のお遊びを大事にしたのはお前だろう!
人の人生を狂わせて涼しい顔しやがって、何様のつもりだ!!」
「ふざけるな!」
ばん!とイザークがテーブルを叩く。
「そのお遊びで人生が狂った相手がいる事も分からぬお前に、政治家など務まるわけがない!
お父上がお前を思ってした事も、全て水の泡だな!」
「は…?何を言ってるんだ?」
イザークは立ち上がり、言葉を続けた。
「ギュネイル委員はこう仰っていた。
息子がああなったのは、自分が甘やかしたせいだ。
だから一度プラントから離れ、別の立場からザフトを、自分の周りを見て学んでほしかった、とな。」
「何を…勝手な事を…」
「勝手でも何でもない。至極まともな親としての気持ちだろう。
少なくともお父上は、お前を本当の意味で切り捨てるつもりなどなかった。
ただ…互いに言葉が足りなかったのだろうが。」
「…お前のそういう、何でも分かってるようなところが最高に気に食わないんだよ!!」
ソチの怒声が再び部屋を揺らす。
「だから何だって言うんだ?お前が俺の人生をぶっ壊した事に変わりはないだろうが!
しかもケインまで道連れだ!
だから俺は、お前に復讐する機会をじっと窺っていた!
そして気づいたんだよ!お前自身に危害を加えるより、お前の周りを狙った方がいいって事にな!」
「…だから、シホを襲ったのか。」
イザークの目が眇められる。
ソチは鼻で笑った。
「ハーネンフースに恨みはないが、お前の大事な女なんだろう?
自分の大事なものを壊される気分はどうだ?」
次の瞬間、イザークの足が目の前の机を蹴り上げる。
そして目にも止まらぬ早さでイザークの蹴りがソチの顔を捉え、拘束された椅子ごと壁際まで吹き飛ばした。
「ぐ…あっ」
「…これが答えだ。」
イザークは冷たい美貌に怒気を浮かべ、床に倒れるソチを見下ろす。
「同じ事をお前にも聞いてやろう。
自分の身勝手な考えで、お前を慕う友人を悪事に手を染めさせ道連れにした気分はどうだ?」
ソチが顔だけを上げ、驚いたようにイザークを見つめる。
「…お前のような、虫けら以下の人間にどう思われようとも何の興味も湧かん。
悔しかったら、何年かけてでも這い上がってくる事だな。
まぁ、お前に出来るとは思えんが。」
「くっ…そ…。」
「最後に。ケイン・ワットから伝言を預かっている。」
「…ケイン…から?」
イザークはつかつかとソチの側まで進み、みっともなく床に転がる姿を見下ろした。
「元気でな、だそうだ。刑が決まれば、もう会う事もないだろうからそう伝えてほしい、と言っていた。」
ソチは愕然とした表情のまま、言葉を失った。
イザークはその姿を一瞥し、踵を返すと部屋を出た。
「ちくしょう…。ちくしょおぉぉぉぉーーー!!!」
背後からソチの絶叫が聞こえたが、イザークは二度とそちらを振り返らなかった。
まだ、やらなければいけない事がいくつもある。
イザークは警備兵に敬礼を送ると、重い扉の閉じる音を背に、前だけを見て歩き続けた。
自分のせいでシホの心に傷を負わせた、と責任を感じているイザーク。
なぜこんな事になったのか、真意を知ること。実直なイザークなりに考えたけじめの付け方です。
ケインとソチを美化したり救いを持たせるつもりはありませんが、二人の歪んだ友情の形をどうしても形に残したくて、このお話を書いてみました。
2014,7,17up