ディアッカとミリアリアが本部内の寮で濃密な時間を過ごしていた頃。
イザーク・ジュールは人気のない通路を一人歩いていた。
かつ、かつと規則正しい足音を通路に響かせ、程なくして立ち止まる。
目の前には、鉄格子の嵌った鉄の扉と厳めしい顔つきの警備兵の姿があった。
「ご苦労様です!」
「先程連絡をしたジュール隊隊長、イザーク・ジュールだ。面会の用意は?」
「既に整っております。二名を同じ部屋に置いてはおけませんので、個別となりますが。」
「当然だろう。かまわん。では入るぞ。」
「はっ!」
警備兵の美しい敬礼に鷹揚に頷くと、イザークは重い扉をくぐった。
「ケイン・ワットか?」
淡いオレンジ色の髪、明るい茶色の瞳。
ぱっと見る限り柔和といってもいい顔立ちのケイン・ワットは顔を上げ、イザークの姿を認めると驚いたように目を見開いた。
「へぇ…。まさかあんたがここに来るなんて思わなかったよ。」
軽いとさえ感じる、砕けた口調は虚勢なのかなんなのか。
「貴様らの処遇に関してはディアッカが全て取り仕切っている。
俺がここに来るのは今日が最初で最後だ。」
「ふーん…。で、何?さっきまでエルスマンに散々尋問されて、俺疲れてんだけど。
あのスタンガンもかなり効いたし。」
イザークはケインの軽口には応じず、ドア付近の壁に腕を組んでもたれかかった。
「…なぜ、こんな事をした?」
その単刀直入な問いに、ケインは目を見開く。
そして、愉快そうに笑った。
「シホちゃんから聞いてないの?」
「俺は貴様に聞いている。さっさと答えろ。」
シホの名を出され、イザークの瞳にうっすらと怒気が滲んだ。
「あんたが嫌いだからだよ。」
ケインの薄茶色の瞳が、すっと細められた。
「あの程度の事でいちいち上層部に報告しやがって。
おかげでソチは親父さんから勘当された。
真面目なのは勝手だけどさ。あんたのお固い正義感で人生狂わされた側の身にもなってみれば?」
「…それだけか?理由は。
俺への不満だけで、ソチ・ギュネイルの計画に加担したというのか?」
イザークは、初めて触れる他人の負の感情に内心驚きを禁じ得なかった。
自業自得、としか言いようのない事なのにそれを人のせいにし、正当化しようとするケインがイザークにはどうしても理解できなかった。
「…ソチは俺の友達だから。だから手伝ったんだ。」
今度はイザークが目を丸くした。
「友達、だから…だと?」
「ああ。どうせこの後ばれるんだから今言うけど、俺両親いないんだよね。
ユニウスセブンで死んじゃったから。」
「な…」
イザークは絶句した。
「ザフトに入ったのは、両親を殺したナチュラルに復讐したかったから。
でもさ、やっぱりどこ行ってものし上がるのは金持ちや権力者の子供じゃん。
親のいない、家柄のない俺みたいなのはどんなに頑張っても限界があるんだよ。
あんたには分かんないだろうけどさ。」
ケインは自嘲したように笑った。
「でも、ソチは違った。
何となく気が合ったってのもあるけど、身寄りのない俺を休暇中家に置いてくれた。
あいつは変な気遣いも差別もしなかった。
だからヤバい遊びも一緒にやったし、シホちゃんの誘拐も手伝ったんだよ。
まぁ、あんたの事が気に入らないって部分で共感出来たのが一番の決め手だったけどな。」
イザークはゆっくりと息をついた。
「…そうか。分かった。」
「あれ?もう尋問終わり?」
ケインが意外そうな顔でイザークを見た。
「まだ何か言いたい事があるのか?」
「んー、別に。ああそうだ、伝言いい?」
「伝言?」
いぶかしげな表情のイザークにくすりと笑いかけ、ケインは言葉を続けた。
「ソチに、元気でなって言っといてよ。刑が決まったらもう会う事もないだろうから。」
その言葉にイザークは絶句し…頷いた。
「分かった。確かに伝えよう。」
そうして、用は済んだとばかりに踵を返すイザークに、今度はケインが声をかけた。
「ねぇ、なんで俺に手出さないの?あんたの大事な女襲ったんだけど、俺。」
イザークは扉に手をかけたまま立ち止まった。
その背中から殺気を感じ、ケインは思わず身構えた。
しかし。
「…お前を殺して、シホの心が晴れると思うか?」
ケインがその言葉に息を飲む。
イザークはそれ以上口を開く事なく、部屋から出て行った。
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シホを襲った犯人の元に単身出向くイザーク。
その目的は…
2014,7,17up