資料室には、痛いほどの緊張感が漂っていた。
「そこをどけ。でなければこの女を撃ち殺す。」
再度発されたソチの言葉を裏付けるように、ケインが腕に捕らえたミリアリアに拳銃を突きつけた。
ぐっ、とこめかみに冷たい銃口を押し当てられ、ミリアリアは思わず身を竦める。
入口に立つディアッカの瞳に、見た事もないような剣呑な光が宿ったのが分かった。
「…もしかして聞いてた?俺たちの会話。」
耳元で囁かれ、ミリアリアは目を眇めた。
「最低な人間ね、あんた達。」
きつい口調でそう吐き捨て、鋭い目線で睨みつける。
「やっぱ聞いてたんだ。ねぇ、エルスマンにそこどけって頼んでよ?
じゃないと、シホちゃんみたいにしちゃうよ?」
ケインの狙いは、ミリアリアを怖がらせることだったのだろう。
だが、幾多の修羅場を乗り越え、なおかつ激しい怒りに燃えるミリアリアにとって、その言葉は火に油を注ぐものでしかなかった。
そして、この状況こそミリアリアが狙ったものだった事を、彼らはのちに知ることとなる。
「…ディアッカ!先に謝っとくわ。ごめんなさい。」
突然ミリアリアが発した言葉に、ディアッカが銃を構えたまま一瞬怪訝な顔をする。
バチバチ、とどこかから音がして。
「…汚い手で触らないでよね!」
ミリアリアの胸元で白い閃光が輝き。
「がっ…!」
ケインの悲鳴ともつかない声がそれに続き、そのままどさりと床に倒れ伏す。
「ケイン!」
ソチが驚いたように叫び、ミリアリアの方へ走ろうとした、その時。
「ぐあっ!」
書類棚の影から飛び出した緑服の女性兵が、綺麗な蹴りをソチの下腹部に見舞う。
そのまま腹にも蹴りが決まり、ソチは身悶えながら倒れ伏した。
「あんたたちみたいな男、地獄に落ちればいいのよ!!」
ミリアリアの手には、スカートのポケットに隠し持っていたスタンガンがいまだ白く光っていて。
「確かにオーブはコーディネイターもナチュラルも関係なく受け入れる国家だ。オーブの理念を理解し、共感してくれる者であればな。
だが、お前らのような犯罪者まで受け入れるほどオーブは落ちぶれていない!」
ぱんぱんと手をはたきながらソチを足蹴にし、高らかにそう宣言するカガリ・ユラ・アスハの姿に、ディアッカとイザーク、そしてアスランは絶句した。
「…カ、カガリ!?」
絞り出すような、アスランの声。
厳しい目線でソチを見下ろしていたカガリが、我に返ったようにアスランを振り返った。
「や、やあアスラン。その、久しぶりだな!元気だったか?」
ミリアリアはスタンガンを手にしたまま、このとんでもない再会劇に溜息をついた。
「ミリアリア!」
部下に男達の捕縛を任せ、ディアッカがミリアリアに駆け寄ってきた。
「ディアッカ…。メール、気づいてくれたのね。良かった…」
ミリアリアは、ホッとした表情でディアッカを見上げた。
と、ディアッカの手がミリアリアの手首を捉える。
「…で?これ何?」
「…え?あ、あの…」
その手には電源を落としたスタンガン。
かつてヴァレンタインのアジトでも使ったものだ。
「説明、しなきゃダメ?」
「しなきゃダメだろ、普通に考えて。」
「ディアッカ!後にしろ!」
背後からかかるイザークの声に、ミリアリアは内心安堵の息をつき、ディアッカは小さく舌打ちした。
「…あとで、じっくり聞かせてもらうからな。今日はクサナギで待ってろ。終わったら連絡する。」
耳元に顔を寄せてちゅっと耳元に唇をあて、素早くイザークの後を追うディアッカは、どこから見ても婚約者の身を案じる優しい男にしか見えなかっただろう。
しかしそこから発される言葉はかなり剣呑なもので。
ミリアリアは首を竦めて、ディアッカを見送った。
***
「…で?カガリ。ハウ。納得の行く説明をしてもらえるんだろうな?」
鬼の形相と言っても過言ではないキサカとアスランの前で、カガリとミリアリアは小さくなっていた。
「アスランもキサカ様も、あまりお二人を叱らないであげてくださいな。
艦内暮らしが退屈だろうと考えて、この軍服をお渡ししたのはわたくしです。」
ラクス・クライン直々の懇願に、アスランは仏頂面になり、キサカは溜息をついた。
軍本部、ラクス・クラインの執務室。
シホを襲った犯人である、ケイン・ワッツとソチ・ギュネイルは、ミリアリアとカガリが昏倒させたのち、ディアッカたちによって検挙された。
アスランは一足先に執務室に現れたが、ディアッカ達はまだ検挙後の後始末に追われているらしい。
「申し訳ありません、キサカさん。私が全部悪いんです。
あいつらの話にカッとなって、カガリを巻き込んでしまったんですから。」
「それは違うぞ!あれは私の意思だ!」
互いをかばい合うミリアリアとカガリに、「いいえ、わたくしの軽率な行動が…」とラクスまでもが加わり、キサカとアスランは目眩を覚えた。
「とにかく!5日後クサナギはオーブに向けて出発する!
それまでカガリは外出禁止だ!
退屈ならハウに連絡をして来てもらえ!それかアスランにでも!」
アスランが唖然とした表情でキサカを見やる。
「…アスラン、すまないがカガリを頼む。私はラクス嬢と打ち合わせをしなくてはならんのでな。
ハウ、君はどうする?」
「あ、私はクサナギに居るように言われているので…」
ミリアリアは別れ際のディアッカを思い出し、引きつった笑みを浮かべた。
「すみません、ブリーフィングルームをお借りします。
この書類だけ、アマギ艦長に送りたいので。」
そうしてキサカの了承を得ると、ミリアリアはラクス達とともにドアに向かった。
「あ、おい、ミリアリア!」
慌てたようなカガリの声に、ミリアリアは振り返る。
「…カガリ。ちゃんと話するのよ。何の為にここまで来たの?」
アスランが目を見開き、カガリが真っ赤になる。
「健闘を祈りますわ、カガリさん」
ラクスがにっこり微笑み、ザフト式の敬礼を送る。
ミリアリアもにっこりと微笑み、執務室を後にした。
ミリアリアの危機になんとか間に合ったディアッカ達。
そしてシホを襲った犯人も検挙されました。
この後、それぞれの取る行動は…。
2014,7,16up