31, 懺悔

 

 

 

「…ディアッカ、大丈夫?」
ミリアリアは、ディアッカの顔を覗き込み、首を傾げた。
「ん…まぁ、それなりに。」
 
二人で帰宅し、シャワーも終え、ソファで身を寄せ合いながら。
どこか物憂げで元気のないディアッカを、ミリアリアは心配そうに見上げた。
「シホさんのところ…私、明日も行ってみるね。」
「お前…大丈夫なのか?」
驚いたようなディアッカの声に、ミリアリアは微笑んだ。
 
 
「さっきの事は仕方ないわよ。シホさんの気持ち、分かるし。
明日になれば少しは落ち着いていると思うから、大丈夫。」
 
 
ディアッカは、ミリアリアを抱き寄せた。
「…ほんとに優しいよな、お前は。」
「そんな事ないわよ。ただ、放っておけないじゃない。
礼拝堂のテロの時、シホさんにはずいぶんお世話になったしね。」
ミリアリアはディアッカの肩に頭を預けた。
「…私だって、すごく怖かったもの。
ディアッカがいてくれたから、今こうしていられるけど…。」
 
 
 
ディアッカの脳裏に、あの時の光景が蘇った。
自分の目の前で、テロリストに唇を奪われるミリアリア。
爆弾の存在のせいで逆らうことも出来ず、されるがままになるミリアリアをただ見ていた自分。
そして、自分の見ていないところでその身体に触れられ、傷を負わされたミリアリア。
あの時のミリアリアと今日のシホの姿が重なり、ディアッカの心は重く沈んでいた。
 
 
 
「シホはさ。俺がAAにいた時期にクルーゼ隊に配属されたんだ。」
「…うん。」
「俺がザフトに戻って、軍事裁判やら何やらごたついてる時に、あいつはイザークを必死で補佐してくれた。
俺、あいつにすげぇ嫌われてたんだよ、最初。」
「シホさんに?」
ディアッカは気怠げにくすりと笑った。
 
「シホには、俺が裏切り者に見えたんだろうな。ザフトを裏切り、三隻同盟に与したって。
まぁ実際AAにいたしな。裏切ったつもりはなかったけど。
だから最初は、口も聞いてくんねぇの、あいつ。」
「そんな…」
ミリアリアは、自分の知らないところで苦労していたディアッカの話を初めて聞き、驚くとともに心が痛んだ。
 
 
「あいつは不器用なんだよ。頑固だし。
イザークの取りなしでやっと俺とも打ち解けたけど、あいつファーストネームで呼ばないだろ?俺の事。」
「そういえば…そうね。」
「今更呼べないんだよ。素直じゃねぇから。真面目すぎるのもアレだよなぁ…」
そう言って溜息をつくディアッカ。
ミリアリアは微笑んで、ディアッカの顔を覗き込んだ。
 
 
「…ディアッカも一緒よ。」
「は?俺も?」
 
 
「前に言ったはずだけど?かっこつけなくていいからって。
シホさんの事、心配だしショックなんでしょ?
何だかんだ言って、素直じゃないんだから…」
 
 
ディアッカは唇を尖らすミリアリアを見下ろし、ぽかんとした。
そして、そっとミリアリアの手を引き、抱き締める。
 
「…俺は、シホをあんな目に合わせた奴らを許せない。
下らねぇ逆恨みで薬まで使ってあいつの体を弄んで…」
「…うん。」
「…もし、お前が同じ目に合わされたら、って…どうしても考えちまうし、あいつとイザークの気持ちを考えると、何もしてやれない自分が悔しくてさ。」
 
ミリアリアの手が、ディアッカの頬に触れる。
 
 
「ディアッカは、充分助けになってると思う。あの二人の。」
「ミリィ…」
「イザーク、昔言ってたわ。
困った時に、信頼できる相手に助けを求めることのどこがいけないんだ?って。
ディアッカを信頼してるからこそ、シホさんの事を任せてくれたんじゃない?」
 
 
温かい手が、ディアッカの頬をそっと撫でた。
「シホさんの捜索だって、本当は自分で行きたかったと思う。
でも、ディアッカの言葉を聞いて、任せてくれたんでしょ?
シホさんだって、今は余裕がないけどディアッカにすごく感謝してると思うわ。」
 
「…俺さ、わざと厳しい言葉を選んだんだ、あの時。」
 
「…シホさんが見つかった時の話?」
ミリアリアが首を傾げた。
 
「そう。あの時あいつ、イザークには黙ってて欲しいって言ったじゃん?
あのシホがあんなになるなんて、相当参ってたんだと思うんだ。
でも俺は、あえて厳しく接した。少しでも冷静ないつものあいつに戻って欲しくて。」
「…うん。」
「でも、あれで良かったのかって後ですげぇ後悔してさ。
あんなに弱ってるあいつに、イザークに全部報告する、なんてさ…」
 
 
「良かったと思う。」
 
 
ディアッカは、即答するミリアリアに驚いて顔を上げた。
「シホさんは、絶対乗り越える。たくさん悩んで、苦しむかもしれないけど。」
「なんで…そんな事が言えるんだよ?」
つい意地の悪い聞き方をしてしまったディアッカを見上げ、ミリアリアはにっこりと笑った。
 
「シホさんは一人じゃないから。イザークもいるし、ディアッカも、私だっているでしょ?」
「…え?」
ミリアリアは微笑んだまま、言葉を続けた。
 
 
 
「支えてくれる人がいれば、人は必ずまた前を向けるの。
私だって出来たことだもの。シホさんにだって出来ないはず、ないじゃない?」
 
 
 
そう言って首を傾げ、吸い込まれそうな碧い瞳で自分を見つめるミリアリア。
ディアッカの脳裏に、オーブで自分が解放された時の事が蘇った。
そう、あの時から俺は、こいつにーー。
 
 
「私は、ディアッカがいてくれたからトールの死から立ち直れたんだよ?
もちろん、サイやキラ達も支えてくれたけどね。
だから、そんなに悩まないで?
ディアッカのしたこと、間違いじゃないから。」
 
 
ディアッカは、どこか呆然とした顔でミリアリアを見つめた。
「…お前は、すげぇよ。マジで尊敬する。」
「…え?なにが?」
ディアッカはミリアリアを見つめたまま、柔らかく微笑んだ。
 
「サンキュ、ミリィ。愛してる。」
 
「とっ!突然なに言って…」
顔を赤らめるミリアリアの髪に、ディアッカは唇を落とす。
「ミリィは?俺のこと愛してる?」
 
「…愛してる。」
 
小さな声で、それでもそう言ってくれる恥ずかしがり屋のミリアリア。
自分だって怖かっただろうに、それでもディアッカを支えようとしてくれる、優しい婚約者。
ディアッカは、隣に座るミリアリアをぎゅっと抱き締めた。
 
 
 
 
 
 
 
016

シホの事件で、ディアッカも人知れず心に傷を負った事に気づいたミリアリア。

彼女の言葉は、ディアッカの心に優しく染み込みます。

ミリアリアは脆いけど強い、と私が思うのはこういった辺りです。

 

 

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