シホの事件から6日が過ぎた。
ミリアリアは毎日時間を作っては病院に通い、シホの話相手や病院とのやりとりを一手に引き受けていた。
あれ以来、イザークはシホの元を訪れてはいないという。
何でも、シホの方から犯人を捕まえなくていいと言ったそうで、ディアッカも頭を抱えていた。
そして今日、シホは退院し、自宅療養に切り替わった。
コーディネイターだけに傷の回復も早く、軍人という立場上、並の女性より体力もある。
本人も表面上は平静を取り戻し、ミリアリア以外の医療スタッフとも会話が出来るまでになった。
全ての検査結果も平常の数値で、心配されていた薬物中毒の可能性もないことが分かり、ミリアリアは最悪の事態が回避できたことにホッと胸をなでおろしたのだった。
シホはザフト本部内にある独身寮で一人暮らしをしている。
あの自殺未遂の件もあり、本当ならば親元に一度戻った方がいいのでは、とミリアリアは再三シホを説得したのだが、シホは頑なにそれを拒んだ。
「もう、あんなことはしませんから。大丈夫です。」
そう言われてしまうと、ミリアリアにはそれ以上どうすることも出来ず。
毎日会いに行く約束をとりつけ、退院の準備を手伝ったのだった。
翌日、退院手続きを終え寮に戻っていたシホを一人で見舞った後。
ディアッカに迎えに来てもらったミリアリアは、そのまま二人でザフト本部内をクサナギの停泊するドックに向かって歩いていた。
ジュール隊の執務室からドックまでは、本部の端と端、と言っていい距離がある。
シホの事件以来、いつも以上に過保護になったディアッカは、ミリアリアの身辺に気を配り、出来る限り一緒に行動するようになっていた。
犯人も捕まらず、シホの復帰の目処も立たない。
苛立つイザークのフォローもあって、毎日神経をすり減らす思いをしているはずのディアッカだったが、ミリアリアにはそんな様子をほとんど見せることはなかった。
それでも、シホを病院に送り届けた日の夜に、ディアッカはことさら激しくミリアリアを求めた。
それはまるで、不安や焦燥の裏返しのようで。
ミリアリアもそんなディアッカを受け入れ、二人は互いを慈しむように体を重ねたのだった。
「ディアッカ、ありがとう。遠回りさせてごめんね?」
「いいって。それよりお前、気をつけろよ?
姫さんとここにいればとりあえず安全なんだから。絶対無茶な真似すんなよ?」
そう言って憂い顔で微笑むディアッカに、ミリアリアもまた微笑んだ。
「うん。ディアッカも無理しないでね?私は大丈夫だから。」
そう言って端正な顔を見上げると、ディアッカは優しくミリアリアの額にキスを落とし、手を振って本部内に戻って行った。
「カガリ、ごめんね!遅くなっちゃったわ。あれ…?」
クサナギの一室。
お忍びでアスランを迎えに来ているカガリの存在は、今は総領事館職員とラクス、そしてディアッカのみ知らされている。
サイとアマギはひどく驚いていたが、カガリのアスランへの想いを知る二人は苦笑とともにその事実を受け入れた。
アスランの出発は明後日。
こちらでやり残した事がないよう、イザークやディアッカ共々忙しく過ごしているようだった。
「ミリアリアか?」
「な…カガリ!?」
部屋の奥からひょこっと姿を現したカガリに、ミリアリアは絶句した。
「どうだ!結構似合うだろ?」
そう言って胸を張るカガリはーー。
違和感満載の伊達眼鏡を掛け、ザフト軍の緑色の軍服に身を包んでいた。
「ずっと船の中じゃ退屈だろうって、ラクスが用意してくれたんだ。
これで髪を纏めてしまえば、誰も私とはわからないだろう?」
ミリアリアは呆然としていた。
これじゃ、お忍びの域を超えてるじゃない!!
「カガリ、一体何をするつもり?」
驚きの表情を隠せないミリアリアに、カガリはにっこり笑った。
「プラントの街を歩いて、出来ればザフト本部も覗いてみたい。
総領事館にも行くつもりだ。
あ、お前らの新居にも行ってみたいぞ!」
ミリアリアは目眩を覚えた。
シホさんの事件からまだ1週間も経っていないのに、ラクスったらいったい何考えてるのよ?!
「…ねぇカガリ、シホさんの事件、知ってるわよね?
まだ犯人も捕まってないのよ?そんな中で、オーブの代表でもあるあなたを簡単に連れ回す訳にはいかないの。」
「自分の身くらい、自分で守れる!危ない所に行かなければいいんだろ?」
確かにカガリなら、その辺のザフト兵よりも腕は立つだろう。
しかし、ミリアリアはこれ以上ディアッカに心配をかけたくなかった。
「それでも、万が一ってこともあるでしょ?
あと、キサカさんはこのこと知ってるの?」
「ああ。相当渋っていたが、ラクスが取りなしてくれたぞ?」
ミリアリアはキサカの心労を思い、溜息をついた。
「…ミリアリアが行かないんなら、サイを呼ぶ。
移動はエアカーでするし、街を歩くのは諦める。
それなら文句ないだろ?」
言い出したら聞かないオーブの姫君に、ミリアリアはついに降参した。
「…分かったわよ。サイも忙しいから、私が着いて行くわ。
とりあえず移動は絶対にエアカーで。
まずは総領事館に行って、その後ラクスのところに行きましょう。
アスランの準備があるからラクスも本部に来ると思うし、犯人も手配書が回っている時点でまさか本部には現れないでしょうし。」
カガリの顔が、ぱぁっと笑顔になる。
「そうだな!では、早速出かけるぞ!」
「ちょ、待ってよ!髪の毛纏めないと!」
ミリアリアは慌ててカガリを鏡の前に連れて行き、今日何度目かわからない溜息をついた。
カガリのお忍び旅行?は、アスランを迎えに、が前提ですが、そこは彼女も為政者。普段制約が多くて出来ない視察だってしたいはず。
それに気づいたラクスの計らいで届けられた緑服ですが、さてどうなるか…。
そして、無事退院したシホ。イザークはどうするのでしょう…。
2014,7,15up
2016,5,19改稿