ディアッカがシホを運び込んだのは、郊外にあるエルスマン系列の病院だった。
ストレッチャーに乗せられたシホが処置室に消えると、ミリアリアとディアッカはどちらからともなく椅子に座り込んだ。
「…イザークに連絡しないの?」
ディアッカは溜息をつく。
「さっき一度連絡した。襲われた事実だけはもう話してる。
ここの場所は教えてないけどな。」
「どうして?」
ミリアリアは驚いてディアッカを見上げた。
「あいつの性格上、シホに何があったか問い詰めるに決まってる。
今、一番やっちゃいけねぇことだろ?それは。」
ミリアリアは悲しそうに俯いた。
「…シホさん、イザークの事が好きなのよ。ずっと前から。」
「…俺だってとっくに気づいてたさ。分かってねぇのは本人くらい。
最も、あいつもやっと気付いたみたいだけどな。自分の気持ちに。」
「え…。じゃあ、イザークも?」
ディアッカはがしがしと頭を掻いた。
「ああ。何たってこんなタイミングで…」
ミリアリアが、そっとディアッカの手を握った。
「ミリィ?」
「…シホさんの腕に、注射の痕があった。」
ミリアリアが俯きながら発した言葉。
ディアッカは始め、意味がわからなかった。
「…マジかよ。くそッ…!」
ミリアリアも、深い溜息をついた。
シホが受けた行為は、女性として到底耐えられるものではない。
その上、薬物まで打たれたのだ。
「シホさんがさっき言ってたこと、よく分かるの。
私も、もうディアッカに会えないって思ったから…。」
それがかつて、礼拝堂で人質にされた時の事を言っていると気づき、ディアッカはミリアリアの華奢な肩を抱き寄せた。
「私は、結局たいした事もなく助けてもらえたけど…シホさんは…」
「ミリィ、もういい。」
ディアッカはミリアリアの手を強く握った。
「結局はシホとイザーク、二人の問題だ。俺たちは結局見守ることしか出来ねぇ。」
「…うん。」
そっと寄り添う二人の前で、処置室のドアが開いた。
「複数の薬物が検出された?」
ディアッカが声を上げ、ミリアリアも隣で目を見張った。
「頭痛を訴えていたので血液検査をしたのですが、ベラドンナとクロロフォルムの成分が検出されました。他にも何種類か。
クロロフォルムは恐らく、拉致の際に使われたのでしょう。
ベラドンナは…催淫剤、でしょうな。状況からして。
腕に注射の痕も残っていました。」
「…それで?」
医師は淡々と説明を続ける。
「手首を拘束されていたようで…かなり抵抗したんでしょう。出血を伴う裂傷。
それと胸にも裂傷が。あとは数箇所の痣や打撲もあります。」
ミリアリアは愕然と医師を見つめた。
ディアッカは表情を変えず話を続ける。
「彼女は?」
「鎮静剤を使いたいのですが、これ以上体内に薬物を入れるのも好ましくないでしょう。部屋で、休んでいます。」
「…わかった。ありがとう。」
ディアッカはミリアリアを促し、立ち上がった。
「このことは他言無用で頼む。それと…」
「承知しています。彼女が入っているのはセキュリティの充実した部屋で、窓ガラス1枚に至るまで管理されています。」
ディアッカはやるせなく笑った。
「相変わらずだな。…面会は基本的に俺とこいつのみ、それ以外に誰か来たらすぐ連絡してくれ。」
「承知いたしました、ディアッカ様。」
医師は淡々と答え、頭を下げた。
「ディアッカ、あのお医者さんの事知ってるの?」
シホのいる病室に向かいながら、ミリアリアはディアッカにそう尋ねた。
「…ああ。なんで?」
「何だか…お互い知り合いって感じの話し方だったから。
それに、セキュリティの事を聞いた時、相変わらずだなって言ったでしょ?」
「よく見てんなぁ、お前。」
ディアッカはくすりと笑い、ミリアリアの髪をそっと撫でた。
「昔、親父が一時期ここで研究とかしててさ。ガキの頃よく来てたんだ。」
どこか寂しげなディアッカの様子に、ミリアリアは聞いてはいけないことを聞いてしまった気がした。
「…そっか。ごめんね、不躾な質問して。」
しゅんとしたミリアリアに、ディアッカは優しい眼差しを向けた。
「…気にしすぎ。優しいな、ミリィは。でもありがとな。」
「…うん。」
ミリアリアはディアッカを見上げ、ふわりと微笑んだ。
シホがいるという部屋は、病院内の一番奥にあった。
「ディアッカ、イザークに連絡してあげたら?きっと心配してるわ。」
ミリアリアの提案に、ディアッカの表情が厳しいものになった。
診断が出た以上、ディアッカには報告の義務がある。
シホにも告げたとおり、これはザフトの兵士が起こした、れっきとした事件なのだ。
そして狙われたのはジュール隊の隊長であるイザークであり、現実に被害にあったのは隊員であるシホだ。
ディアッカの脳裏に、先ほどのシホの言葉が蘇る。
隊長には、言わないで。
「…イザークに連絡する。先に入っててくれるか?」
ミリアリアは黙って頷いた。
シリアス続きですみません…。
診察を受けるシホを案じるミリアリア。
ディアッカは、イザークに連絡を取る決意をします。
2014,7,12up