28, 言わないで 3

 

 

 

 

※作品内に、一部18禁描写が含まれます。
苦手な方は閲覧をお控え下さい。

 

 

 

 

 

「…ミリアリア?」
「そこにいて!いいって言うまで絶対来ないで!」
鋭くそう叫んだミリアリアは、シホに駆け寄った。
 
「シホさん?!何てひどい…」
ミリアリアはシホの乱れた姿に絶句した。
 
「ミリアリア…さん」
「無理に喋らないでいいから。起きられる?」
ミリアリアはベッドに散らばったシホの衣服を手早く集め、そっとシホを起こした。
「痛、い…」
シホが顔を歪めた。
 
 
「シホさん、とにかくここを出ましょう?ディアッカに言えばすぐ病院も手配してくれるわ。」
 
 
シホは半裸のまま、呆然としている。
手首に残るひどい擦り傷からは、出血もしていて。
足にも掴まれたような痣が残っている。
その姿に、ミリアリアの体が震えた。
 
「これでよければ使って。そのままじゃ服を着るのも嫌でしょ?」
ミリアリアが手渡したハンドタオルやウェットティッシュを、シホはのろのろと受け取った。
 
 
「…わたし…。もう、隊長に会えません。」
「シホさん?」
「こんな辱めを受けて…こんな汚い私は、もう隊長を想う資格もありません…」
 
 
ミリアリアは、そっと半裸のシホを抱き締めた。
「大丈夫。大丈夫だから。まずはここから出ましょう?
病院に行って、話はそれからよ。私、一緒にいるから、ね?」
シホはゆっくりと頷いた。
下肢が鉛のように重くて、ミリアリアの助けなしでは動かせなかった。
 
 
 
「ディアッカ。」
 
部屋から出てきたミリアリアの声に、ディアッカは顔を上げた。
「シホは?いたんだろ?」
ミリアリアは俯いたままだったが、ひとつ息をつくと顔をあげた。
 
 
「…どこか病院、手配できる?軍のじゃなくて、なるべく目立たないような配慮をしてくれるところ。」
 
 
ディアッカの顔色が変わった。
「…うちの系列で良ければ、すぐ手配する。で、あいつは?」
ミリアリアは首を振った。
「自力で歩けるかもわからない。一応会話は出来てるけど…」
「用意できたら呼んで。俺が話す。」
ミリアリアの表情が変わった。
「無理よ!いくらディアッカでも…」
「いいから、呼んで?」
真剣な表情のディアッカに、ミリアリアは戸惑いながらも頷いた。
 
 
 
「親父?俺だけど。ちょっといいか?」
『どうした?珍しい時間に。』
電話の相手は、タッド・エルスマンだった。
 
「…今から話す内容は他言無用で頼む。
ちょっと事件があって、信頼できる婦人科の入った病院を探してるんだ。
どこか心当たりある?」
『…ミリアリアに何かあったのか?』
「いや、同じ隊の女性だ。恐らく複数の男に襲われた。犯人は分かってるから状況保存の必要もない。
だから一刻も早く診察を受けさせたいんだ。」
『分かった。すぐに手配しよう。10分以内に場所をメールする。それでいいか?』
 
ディアッカはゆるゆると息を吐いた。
「ああ、サンキュ。それでいい。」
『…恐らく、精神的にかなり不安定になっているはずだ。接し方に気をつけた方がいい。
…意味は分かるな?』
「ああ。分かってる。それじゃ。」
 
 
通話を終え、ディアッカは壁にもたれかかった。
程なく携帯が震え、タッドから病院の詳細が届く。
ざっと目を通すと、ディアッカはやりきれない思いでイザークの番号を押した。
 
 
 
『ディアッカ!シホは?』
「ああ…。発見した。」
『…そうか。怪我などはないのか?』
ディアッカは言葉が出てこない。
『おい、ディアッカ?』
 
「俺とミリアリアが到着した時、犯人はすでに立ち去った後だった。
…イザーク、落ち着いて聞けよ。シホが、あいつらに襲われた。」
 
 
電話の向こうから、ひゅっと息を飲む音が聞こえた。
 
 
「まだ動かせる状態じゃない。状況も分からないし、俺もまだ本人と話もできてない。
シホの事はミリアリアが見てくれている。
今、うちの系列の病院を手配したから準備が出来次第そこに向かう。」
『…くっそおぉぉ…!』
「落ち着け!とりあえず病院に着いたらまた連絡する。それまで待っててくれ。絶対勝手に動くなよ?」
『…シホは、大丈夫なのか?』
ディアッカは目を閉じ、震える拳を握り締めた。
 
 
 

「…大丈夫なわけ、ねぇだろ…」
 
 
 
そのまま、電話は切れた。
 
 
 
 
「シホさん。ディアッカを呼んでもいい?」
最低限の身支度を整え、力なくベッドに座るシホにミリアリアは声をかけた。
「…エルスマン?」
「そう。待っててくれてるの。だから、いいかな?」
シホはしばらくぼんやりしていたが、やがて、こくりと頷いた。
 
 
「シホ。」
 
呆然とベッドに腰掛けるシホに、ディアッカは内心の動揺を抑え声をかけた。
常に綺麗にまとめられている美しい黒髪は、ほどけて少し乱れている。
珍しくスカート姿だが、そんなことはどうでもよかった。
ボタンの外された軍服から覗くアンダーも乱れ、手首に残る擦り傷にディアッカの肌が憤りで粟立った。
 
「歩けるか?」
自分のコートをばさりと羽織らせ、ディアッカはシホの目を覗き込んだ。
焦点の合わない虚ろな薄紫の瞳でぼんやりとディアッカを見返し、シホは首を振った。
 
「ミリィ、車のキーとこいつの荷物持ってくれるか?」
「え?ええ。」
 
ディアッカは有無を言わさぬ勢いでシホを自分のコートごと抱き上げようとした。
「さわら…ないで」
途端にびくりとシホが体を震わせる。
 
「大丈夫だ。もうあいつらはいない。ここには俺とミリアリアだけだ。」
 
ディアッカのしっかりした口調に、シホはゆっくりと頷いた。
その瞳に感情が戻ってくる。
 
「言わ、ないで…」
 
「シホさん?」
小さな呟きに、ミリアリアが思わず声を掛ける。
 
 
「隊長に、このこと、言わないで…。」
 
 
ミリアリアが俯き、ディアッカが唇を噛み締めた。
 
「…それは出来ない。この状況で隊長であるあいつを誤魔化せない事、お前なら分かるだろ?」
「言わないで!お願い!」
「シホ!」
「言ったら、隊長が悲しむって…!あいつらがそう言った!」
シホの悲痛な叫び。
ミリアリアの目に涙が溜まる。
 
 
「…それでも。事実は報告しなきゃいけないんだ。
俺達は軍人で、これはザフト軍で起きた事件で、あいつは俺達の上司なんだから。」
 
 
必要以上に話を大きくする事は絶対にしない。
しかし、イザークに報告をしない訳にはいかなかった。

 
「…イザークは、大丈夫だ。あいつらの言葉に惑わされるな。」
 
ディアッカは今度こそシホを抱き上げ、出口に向かって歩き出した。
ミリアリアも無言でそれに続く。
 
シホは俯き、ただ震えていた。
 
 
 
 
 
 
 
016

ソチたちにされた行為と、言い残された言葉に深く傷つくシホ。

すんでのところでシホの元にたどり着いたディアッカとミリアリアは、そんなシホの姿に言葉を失う。

そしてイザークは…。

 

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2014,7,11up