「そうだ、イザーク。ケイン・ワットとソチ・ギュネイル。覚えてるか?」
イザークの眉が顰められた。
「ああ…婦女暴行事件を起こしてユニウスセブン近くの警備隊に出向させた奴らだろう?」
ディアッカはイザークに顔を寄せた。
「シホが、展望室付近でそいつらを見たそうだ。
あいつの視力と聴力はずば抜けている。多分間違いないだろう。
キサカさんも、襲撃直後に赤と緑の人影を見ている。」
「どういうことだ?」
イザークが首を傾げた。
「お前が、逆恨みされてるって事じゃね?」
ディアッカの言葉に、イザークは目を見張った。
「…は?何故俺が恨まれるんだ?」
「だから、逆恨みだっつーの。あいつらの経歴とか分かるか?」
「そこまでは記憶にないが…。」
「シホが、調べてみるって言ってたぜ。お前に、気を付けるよう伝えてくれってさ。」
イザークは、シホの泣き顔を思い出した。
じくじくと胸が痛む。
明日、シホに会ったらきちんと話をしよう。
まとまらない自分の気持ち。
シホへの想い。
「分かった。」
イザークはぽつりとそう答え、紅茶を飲み干した。
翌日。
シホ・ハーネンフースは落ち着かない様子で本部内を歩いていた。
その理由は、軍服にあった。
「…落ち着かない…。」
ザフトの軍服は、その色ごとにデザインが若干違う。
シホは言わずと知れた赤服を身に纏っているが、女性兵に関してはボトムがスカートとパンツ、二種類用意されていた。
スカートがあまり好きではないシホはいつもパンツで、それにブーツを合わせていた。
だが、今日シホが身につけているのは、膝より少し短い丈のピンクのボックスプリーツに黒いニーハイソックス。
足下はいつもと同じブーツだ。
イザークの事で思い悩み、眠れぬ夜を過ごしたシホは、寝不足でぼんやりしていて。
その為、眠気覚ましのつもりで淹れたコーヒーを零してしまったのだ。
丈夫な軍服のおかげで火傷をする事は無かったが、スペアのパンツはクリーニング中。
その為、替えのなかったシホは仕方なく、支給されてから一度も身につけることのなかったスカートを着用して出勤したのだった。
この格好で、昨日あれだけ気まずい状態になったイザークのいる執務室に入る。
エルスマンあたりに見られたら、何を言われるか分からない。
シホにとっては、拷問にも等しい行為だった。
この格好をなるべく誰にも見られたくない。
自然とシホは、人通りの少ない通路を選んで歩いていた。
何とか、用事を作って執務室から遠ざかりたい…。
そんなことを考えながらぼんやりと歩くシホに、背後から手が伸ばされた。
「…シホはまだか?」
イザークが不機嫌な様子で部下に問いかけた。
出勤予定時間はとうに過ぎている。
「あいつが遅刻なんて、初めてじゃねぇ?」
ディアッカも不思議そうに首を捻る。
イザークはしばし躊躇った後携帯を取り出し、シホの番号を呼び出した。
「…電源が、入っていない?」
イザークの胸に、なんとも言えない不安が広がった。
サイは、キサカとともに総領事館に向かって歩いていた。
イザークもラクスも車を出すと言ったのだが、プラントの街を歩いてみたい、というキサカは丁寧にそれを辞退し、こうしてサイを護衛に街を闊歩しているのであった。
「あ、キサカさん、危ない!」
すぐそこの角から、猛スピードでエアカーが飛び出してきた。
「朝からなんなんだよ、一体!」
腹ただしげにエアカーに目をやったサイが、訝しげな表情になった。
「ハーネンフースさんの自宅にも連絡しましたが、繋がりません。」
オペレーターの声に、イザークは舌打ちした。
「サンキュ、ごめんね、忙しい時間に」
無言で部屋を出て行ったイザークの代わりにオペレーターに声をかけるディアッカ。
そんな時、ポケットの中の携帯が鳴った。
「…ミリアリア?」
勤務中、ミリアリアはよほどの事がない限り電話などしてこない。
ディアッカは慌てて通話ボタンを押した。
「ミリ…」
『シホさんは?!ディアッカ、シホさんはそこにいる?!』
通話が繋がると同時に飛び出してきたミリアリアの声に、ディアッカの表情が変わった。
「シホ?なんでお前がシホの事…」
『いないのっ?!』
悲鳴のようなミリアリアの声。
「落ち着けって!どうしたんだ、一体?」
『サイが…軍本部の近くで、見たことのない人とエアカーに乗ったシホさんを見た、って…』
ディアッカの脳内に、昨日シホと話をした男たちの名が浮かんだ。
「…ミリアリア、今いるのは総領事館か?」
『ええ。ねぇ、ディアッカ、シホさんは…』
「…来てない。連絡も取れねぇ。お前はとりあえず、そこ動くなよ?」
ディアッカはぎりりと唇を噛み締めた。
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ディアッカの言葉に後押しされ、シホときちんと話をしようと決めたイザーク。
逆恨みの件についても、正当な事をしただけとしか思っていないイザークはピンと来ていないようです。
しかし、シホが行方不明に…
2014,7,8up