ザフト軍本部内にあてがわれた一室には、キサカを中心にアマギ達オーブ総領事館の職員、ラクスとキラ、アスラン、そして警備を統括していたジュール隊の面々ーーイザークとディアッカ、シホが集まっていた。
「この度は申し訳ありませんでした、キサカ殿。我々が付いていながら…」
イザークが頭を下げる。
「おやめください、ジュール隊長。こうして無事に済んでいるのですから。ご心配には及びません。」
キサカが立ち上がり、イザークを制した。
「ハウ、お手柄だったな。」
アマギの賛辞に、ミリアリアは慌てて首を振った。
「昔、取材中に嫌という程目にした光景だったので。
それでたまたま気づいただけなんです。」
「そう、か。ハウは紛争地域にも多く取材に行っていたのだったな。」
ディアッカの前ではあまり口にして欲しくないセリフに、ミリアリアは曖昧に微笑む。
それでも視界の隅で、婚約者の表情が微かに変わるのを確認し、内心で溜息をついた。
「シホ。展望室には?」
イザークの突然の質問にも、シホは動じない。
「はい。あの後すぐに多数の隊員が駆けつけましたが、割れたガラス以外に何もありませんでした。
ただ、外部からあの場所には簡単に入れない事を考えると…」
シホが珍しく言い淀む。
「内部に犯人がいる、って可能性もあるよな。」
ディアッカが腕を組み、壁にもたれた。
「もちろん外部から来た可能性だってあるぜ?軍服だって、赤や緑なら案外簡単に手に入る。
昔あっただろ?そういうの。」
「ああ。俺が処罰した話だからな。よく覚えている。」
イザークが苦々しい表情になった。
「…とにかく。キサカ殿の滞在中は、我々も心して警備にあたります。
領事館内に部屋を用意致しましたが、どうされますか?」
アマギの問いかけに、キサカはちらり、とミリアリアに目を向ける。
ミリアリアは素知らぬ顔でキサカを見つめ返した。
「ここで狙われた以上、どこにいてもさして変わらんだろう。
視察も兼ね、領事館内に滞在させてもらおうか。
ハウ、私に同行して、クサナギ内にあるデータをチェックしてもらえるか?
間違いがなければそのまま領事館に持ち帰りたい。」
ミリアリアは頷いた。
「分かりました。では、終わり次第領事館にご案内します。
館長とサイは、先に戻って下さいますか?」
「ああ、頼んだぞ、ハウ。」
アマギとサイが立ち上がった。
「ああ、ジュール隊長。エルスマン副官をお借りしても?」
「…構いませんが…?」
戸惑うイザークに、キサカは微笑んだ。
「さすがに、ハウだけでは護衛にならんのでな。
こんな状況で申し訳ないが、しばらくお借りさせて頂く。」
「了解致しました。お供致します。」
ディアッカが居住まいを正した。
「ミリアリア!久し振りだな!」
「きゃあ!ちょっと、カガリ!」
クサナギのブリーフィングルームに入るなり抱きついて来たオーブの姫君に、ミリアリアは押し倒されそうになった。
「あ、ディアッカもいたのか。元気か?」
「…なんか俺、オマケ扱い?」
ディアッカは苦笑した。
「久しぶり、姫さん。アスランの事、良かったな。」
カガリの顔が、ぱぁっと赤らむ。
「わっ、私はっ!べつにっ!」
「えー?わざわざ迎えに来たんだろ?しかもお忍びでさ。
相変わらず行動力あるよなぁ、オーブのお姫様は?」
「お前に姫呼ばわりされると、なんだか気分が悪いぞ?ディアッカ。」
カガリが唇を尖らせた。
「カガリ。外の騒ぎは聞いたか?」
キサカの声に、カガリはミリアリアに抱きついていた腕をほどいた。
「ああ。狙撃だって?でもなぜキサカが狙われるんだ?私ならともかく。」
そんな物騒なことを言うカガリに、ミリアリアは溜息をついた。
「エルスマン副官。ザフトは軍服の色で階級が決まっていると聞くが?」
キサカの口から出た意外な言葉に、ディアッカが不思議そうな顔で説明する。
「ええ、まぁ。階級というほどではありませんが。
一般兵が緑服、軍のアカデミー卒業時の成績上位者、いわゆる精鋭、と呼ばれるのが赤服ですね。
副隊長や副官が自分の着ている黒服、隊長はイザークの着ている白服です。」
「ふむ…そう、か。」
「それが何か?」
キサカがディアッカに向き直った。
「一応これでも、私はオーブの軍人でな。
ハウの声を聞いて身を隠すまでに、狙撃手の位置くらいは確認した。ハウの視線を追ってな。」
「キサカ?どういうことだ?」
カガリが首を傾げる。
「赤と、緑が見えたんだ。一瞬だがな。」
ディアッカとミリアリアは、思わず顔を見合わせた。
***
ザフト軍本部内、古びた建物にある倉庫で、その密談は繰り広げられていた。
「なんとか、うまく紛れられたな。」
赤服の兵士がくすりと笑う。
「ああ。こういう時は緑に堕ちてよかった、って思うぜ。
こういう時だけ、な。」
皮肉な笑いを口元に浮かべたのは、緑服の兵士。
「ジュールは?」
「ああ、さっき部屋の前を通り過ぎるふりして探ってみたけどさぁ。
これと言って処分は受けてないみたいだった。
エルスマン副官とあの婚約者は、オーブのお偉いさんと一緒にクサナギだっけ?あそこに行ったらしいけどな。」
「エルスマンが護衛、か。となると色々面倒だな。」
赤服の兵士が、タバコに火をつけた。
「まぁな。残念ながら、エルスマンにはそう簡単に勝てないだろ。
あれだけ金かけてコーディネートされてんだもんなぁ。」
「…そういえば。もう一人いなかったか?副官が。」
緑服の言葉に、赤服の兵士はタバコの煙を吐き出した。
「ああ、副隊長のシホ・ハーネンフースだろ?アカデミーで同期だったじゃん。
そういや、面白い話聞いたぜ?そのハーネンフースが、ジュールの女、だってさ。」
あのお堅いハーネンフースがそりゃ無いわ、と呆れた口調の赤服に、緑服は静かにこう言った。
「…いや、ありえるぞ。」
赤服の目の色が変わる。
「オーブのお偉いさんは、もう簡単に狙えない。
…もしあのハーネンフースがジュールの女だったら…」
緑服は、下卑た笑いを浮かべた。
「どうせ俺たちはもうすぐ除隊するんだ。最後に、美味しい思いくらいしてもいいよなぁ?ケイン?」
ケインと呼ばれた赤服も、くすりと笑って答えた。
「ソチ、ああいう女がタイプだったっけ?」
「取り澄ました女が泣き喚く様を見るのが好きなだけさ。」
「…そりゃ、いい趣味ですこと。」
そう言うと赤服はタバコを床に落とし、ぎゅっとブーツで踏み潰した。
オリジナルキャラの登場です。
どうやらイザークに因縁のありそうなこの二人。
シホに目を付けたようですが…。
2014,7,8up