エルスマンの本宅に帰った二人は、タッドも交えて今後について話し合った。
「ひとまず、ミリアリアのお披露目は済んだ。
客たちは概ね好意的だったようだし、これでひと段落ついたな。」
ミリアリアはその言葉に、ほっとした表情を見せた。
「ディアッカ。ミリアリアとの入籍の日取りは考えているのか?」
タッドの言葉に、ディアッカはきょとんとした。
「…入籍?」
「…その分では、何も考えていないな?全く…」
「しょーがねぇじゃん、婚約披露で忙しかったんだし。」
タッドの呆れ声に、ディアッカがムッとした表情を見せる。
「あのっ!その件についてなんですがっ!」
突然勢い良く口を開いたミリアリアに、タッドとディアッカは驚いて振り返った。
「できたら、なんですが…。4月9日に、入籍したいんです。」
タッドの目が見開かれた。
「4月9日?それって…」
「ティナの、誕生日だ。」
ディアッカは驚いた表情を浮かべた。
「…母さんの、誕生日?」
「昨日、エザリアさんに教えて頂いたんです。」
ミリアリアは、緊張に震える手をぎゅっと握りしめた。
「…お母様の誕生日を結婚記念日にしたら、絶対に忘れないし毎年一緒にお祝いできるかなって、思ったんですけど…その…だめ、でしょうか?」
タッドは泣き笑いのような表情でミリアリアを見つめた。
このナチュラルの少女の優しさは、一体どこから来るのだろう?
「何度でも言おう。本当に、君がディアッカと一緒になってくれて嬉しいよ、ミリアリア。」
「…親父…」
「ティナが生きていたら、きっと喜んだと思うぞ、ディアッカ。」
ディアッカはタッドの口からティナの名が出たことに、驚きを隠せずにいた。
「ディアッカはどう?もし、別で何か考えてたなら…」
ミリアリアの心配そうな問いかけに、ディアッカはかぶりを降った。
「いや。ミリィがそう言ってくれるなら、俺もその日がいい。
母さんの事、考えてくれてありがとな、ミリィ。」
「ううん。お父様も、その日取りで宜しいですか?」
「ああ。もちろんだ。」
密かに考えていた入籍の日取りを二人から快諾されたミリアリアは、ほっと胸を撫で下ろした。
***
「お父様、色々とありがとうございました。」
そう言ってミリアリアは深々と礼をした。
「いや、こちらこそありがとう。君の博識ぶりには驚かされた。
みな君を褒めていたよ。」
「当たり前じゃん。俺が選んだ嫁さんだっつーの」
「ディアッカ!もう!」
タッドは二人のやりとりにくすくすと笑った。
「気をつけて帰るようにな、ディアッカ。ではミリアリア、良い誕生日を。」
「はい、おと…え?」
ミリアリアの返事が途中で止まり。
「あー、やっぱ忘れてたか。」
ディアッカの溜息混じりの言葉を、ミリアリアは呆然としながら聞いた。
「2月17日。君の20歳の誕生日、だろう?」
タッドの笑いを含んだ声。
「うそでしょ…」
ミリアリアは、あまりの衝撃にそれだけしか言えなかった…。
「自分の誕生日を忘れるなんて…」
シャトルの中でがっくりと項垂れるミリアリアの頭を、ディアッカは自分の肩に寄りかからせた。
「晩餐会の準備、頑張ってたもんな。忘れても無理ねぇよ。気にすんなって。」
「情けないけど…そうかも、ね。でも、ギリギリで気付いて良かった。」
ディアッカは、ミリアリアの手を取り、自分の手で優しく包み込んだ。
「着くまで寝てろよ。疲れたろ?」
「ん…。手、このままでいてくれる?」
「大丈夫。どこにも行かないから。」
ミリアリアは、そっと目を閉じた。
「…うん。一緒にいて?」
ディアッカは、ミリアリアの額にキスを落とした。
「ああ。頼まれたって離れない。」
「うん…。」
程なくして、ミリアリアの呼吸が寝息に変わる。
少しずつ、自分に甘えるようになってくれたミリアリアが愛おしくて。
ディアッカは、繋いだ手に力を込めた。
エアターミナルで手続きを済ませ、23時過ぎ。
二人はようやく、アプリリウスのアパートに帰宅した。
「…なんか、たった一日しか留守にしてないのにすごい久しぶりな感じ…」
ミリアリアは荷物をまとめて置くと、部屋を見回した。
「落ち着く?」
ディアッカのからかうような言葉に、ミリアリアはにっこり笑って頷いた。
「もちろん!だってここは私達の家でしょ?」
ディアッカはミリアリアを抱きしめて、ちゅ、と音を立てて頬にキスを落とした。
「ミリィ、大好き。」
ミリアリアの耳が赤らむ。
「もう!こんな時間にふざけないの。
お風呂の用意と荷物の整理しちゃうね。ディアッカは座ってて?」
「風呂だけでいいじゃん。荷物は明日にすれば?」
「だめ。面倒くさい事は先にやった方がいいのよ?」
そう言い残してバスルームに消えたミリアリアを、ディアッカは優しい眼差しで見送った。
そして、自分の鞄から小さな箱を取り出し、そっとそれを撫でた。
歳を重ねると、誕生日ってついぎりぎりまで忘れがちなんですけどね…。
今年のミリィは忙しかったからしょうがない!(笑)
2014,7,4up
2015,6,8改稿