22, マリッジリング

 

 

 

 
慌ただしい入浴の後、ルームウェアに着替えた二人は寝室で寛いでいた。
ピ、とどこからか聞こえた時計の音が、日付が変わったことを告げる。
 
「あ、もうこんな時間なんだ。」
時計に目をやるミリアリアの腕を、ディアッカがぐいと引き寄せ、そのまま抱き締めて。
 
 
「誕生日おめでとう、ミリアリア」
 
 
突然の抱擁に驚いたミリアリアだったが、ディアッカの腕の中でそっと目を閉じた。
 
「…ありがと…」
 
 
 
ディアッカの吐息が額にかかる。
ミリアリアはディアッカを見上げた。
途端、唇を塞がれ、ミリアリアは微かに震えた。
甘い、甘いキス。
酸素を求めて開いた口内に、すかさずディアッカの舌が侵入してくる。
ミリアリアはすっかり翻弄され、ディアッカに縋り付く事でしか立っていられなくなっていた。
 
 
「…大丈夫?ミリィ」
くったりとしたミリアリアの姿に、ディアッカは思わず苦笑する。
「ディアッカ…キス、上手よね。」
「…そりゃどうも」
「経験の差かしら…。なんか、複雑…」
「もう、お前にしかしねぇんだから関係ないだろ?」
ディアッカの言葉に、くすっとミリアリアは笑った。
「うん。」
そうして二人は、再び唇を合わせた。
 
 
 
「…あのさ。誕生日プレゼント、なんだけど。」
「え?!」
ミリアリアは驚いて思わず声を上げた。
「こういうの、俺一人で選んでいいのか迷ったんだけど。
でも、やっぱ俺が選んだモノをお前につけて欲しくて、さ。」
 
そう言ってディアッカが差し出したのは、ジュエリーケース。
 
「これ…」
「開けてみろよ。」
ぶっきらぼうなディアッカの言葉。
ミリアリアはケースを受け取ると、そっと蓋を開けた。
 
 
 
「…結婚指輪…?」
 
 
 
ケースに並ぶ、華奢な二つの指輪をミリアリアは目を丸くして見つめた。
プラチナとピンクゴールドに、嵌め込まれた石はダイヤモンド、だろうか。
全体に繊細な花の紋様が彫り込まれ、ダイヤの透明感を引き立てている。
 
「そう。お前のにはダイヤモンドがついてる。
誕生石と迷ったけど、お前にはこっちのが似合うと思ったから。
その代わり、裏側に別の石を入れてあるから見て?」
そっとケースから指輪を抜き取り、ミリアリアは裏側に目をやった。
 
「…アクアマリン?サファイア?」
「サファイア。お前の瞳の色に近いのにした。俺のにもそれは入れてある。」
そこには、小さなサファイアとともに、二人の名前が彫られていた。
 
 
「…すごい…綺麗」
「気に入った?」
ミリアリアは、少しだけ心配そうな顔のディアッカにとびきりの笑顔を見せた。
 
 
「とっても!ありがとう、ディアッカ!」
 
 
その言葉に、ディアッカは本当に嬉しそうな笑顔になり。
ぎゅっとミリアリアを抱き締めた。
 
 
「これ付けたら、もう逃げられないぜ?」
「逃げないわ。でも、ちゃんと捕まえててよね?」
ディアッカの腕に力がこもる。
 
 
 
「…逃がさない。死ぬまで離さない。俺のそばにずっといて?ミリアリア。」
 
 
 
ミリアリアの碧い瞳がディアッカを映し、揺れる。
 
 
「…私をひとりにしないで。もう、ひとりは嫌。」
「約束する。言っただろ?この石に誓うって。」
そう言って微笑むディアッカの胸元に輝くのは、ハウメアの護り石。
 
 
 
「私も約束するわ。この指輪に誓う。
ずっとそばにいる。何があっても、ディアッカを信じてる。」
 
 
 
ミリアリアは強い眼差しをディアッカに向けたままはっきりとそう言い切って、自分の手からアメジストのリングを抜き取る。
そしてサイドチェストにあったケースにそっとそれをしまうと、そのままディアッカに左手を差し出した。
 
「つけてくれる?」
 
ディアッカはケースから指輪を手に取ると唇を落とし、ミリアリアの薬指にそっとそれを嵌める。
するとミリアリアも同じように指輪を手に取り、キスを落とした後ディアッカの左手にそれを通した。
 
 
「ミリィ…」
 
 
ミリアリアは、自分とディアッカの指に納まったリングを交互に見て、嬉しそうに微笑んだ。
 
「お揃いだね。ふふ、嬉しい。」
 
まるで宝物を見つけた子供のような笑顔のミリアリア。
ディアッカは破顔し、そんなミリアリアをまた抱き締める。
二人はそのまま、ベッドへとゆっくり倒れこんだ。
 
 
 
***
 
 
 
「ん…」
腕の中で眠るミリアリアが、かすかに声をあげ身じろぎをした。
ディアッカはそっとミリアリアの様子を伺う。
しかし聞こえてきたのは、安らかな寝息。
 
連日の行為にミリアリアの体力が心配になるディアッカだったが、今日だけは気持ちを抑えることができなかった。
 
 
自分がこんなにも、誰かを愛するようになるなんて。
 
 
常に本心を隠し、斜に構えて生きてきたディアッカを根本から変えてしまったミリアリア。
ディアッカの心の奥に潜む寂しさを無意識のうちに見抜き、ずっと求めていた温もりを惜しげなく与えてくれた、ナチュラルの女。
自分はどれだけ、ミリアリアの想いや言葉に心を救われ、助けられただろう。
 
 
 
ディアッカは、ミリアリアの左手に輝く指輪を見つめた。
 
「ほんとに、結婚するんだな…」
 
遺伝子の相性ではなく、自分で選んだ相手との、愛情を伴う結婚。
婚姻統制での結婚が当たり前だったコーディネーターの間に、自分達の結婚は一石を投じる事になるのだろうか。
 
 
「…俺達は、俺達だよな。ミリィ。」
すやすやと眠るミリアリアのかわいらしい寝顔に、そっとキスを落とし。
ディアッカは、ミリアリアを抱き直すと目を閉じた。
 
 
 
 
 
 
 
016

ディアッカからの誕生日プレゼントは、結婚指輪。

 

 

戻る  次へ  text

2014,7,4up