19,安心して…

 

 

 

 
「タッド、今日は楽しかったわ。ありがとう。」
「こちらこそ、遠路はるばるすまないね。
しかし君が来る度に、うちの酒蔵は欠品だらけだよ、エザリア。」
 
 
タッドのからかうような言葉に、エザリアはくすくすと笑った。
「あら。ミリアリアの方がたくさん飲んでいたんじゃないかしら?」
ディアッカとイザークが、ぎょっとした顔でミリアリアに目を向ける。
 
「エザリアさんが作ってくださる飲み物が美味しくて、つい。
でも、バーボンは半分以上エザリアさんが飲まれてましたよね?」
 
そう言って微笑むミリアリアに、タッドも思わず微笑んだ。
 
 
 
「じゃ、明後日な。イザーク。」
ディアッカが軽く手をあげた。
「ああ。では母上、行きましょう。」
「イザーク。シホさんによろしくね。」
ミリアリアの言葉に、イザークの体がびくりと震えた。
「あ、ああ。伝えよう。」
 
そうして、若干ぎこちない足取りでエルスマン邸を後にするイザークを、ミリアリアはくすりと笑いながら見送った。
 
 
 
 
「よく頑張ったね、ミリアリア。疲れただろう?」
タッドの言葉に、ミリアリアは笑顔で首を振った。
「ありがとうございます。でも大丈夫です。ロイエンハイムさんのおかげで緊張も取れましたし。」
「君のドイツ語には驚いたよ。いつ習得したのかね?」
「え?ええと…」
ミリアリアは首を傾げる。
その愛らしい仕草に、ディアッカの心臓がどくんと音を立てた。
 
「ドイツ語はスキップの試験の時、ですね。英語も。カレッジに入ってからは中国語を少しだけ。
カトー教授は公用語以外でもデータを作る方だったので。」
 
「…お前、ホントにナチュラル?」
ディアッカの呆気に取られた声に、ミリアリアは苦笑した。
「ナチュラルだって、必死でやれば何とかなるものよ。
コーディネイターより時間と労力はかかるけどね。
でもほら、その代わり私って偏りがあるでしょ?OSを書き換えたりなんて簡単に出来ないし。
ディアッカはそういうの得意じゃない。」
「まぁ、な…」
 
「…本当に、君を見ているとつい数年前までのことが馬鹿らしくなってくるよ。」
きょとんとするディアッカとミリアリアに、タッドは苦笑いで続けた。
 
 
「コーディネーターは確かにナチュラルより優れた遺伝子を持っている。
しかし、ナチュラルはそのハンディを努力でカバーし、コーディネーターに負けない力を持つことができる。
もう少し早くお互いがそれに気づけば、二度目の戦争など起こらなかったかもしれないな。」
 
 
「…三度目はもう、無いですよね?お父様?」
重くなってしまいそうな空気を変えるかのようなミリアリアの問いに、タッドは笑顔で頷いた。
 
 
 
 
「…はあぁ…。マジ疲れたかも、俺。」
与えられた部屋に戻ると、ディアッカはジャケットを脱ぎ捨てネクタイをぐいぐいと緩めた。
「お疲れ様。たくさんフォローしてくれてありがと、ディアッカ。」
「…来いよ。」
ディアッカはソファに座ると、ミリアリアに隣に来るよう促した。
「でも、ドレス早く着替えないと、しわになっちゃう…」
「いいじゃん、そんなの」
ディアッカは、隣にちょこんと座ったミリアリアをぎゅっと抱き締めた。
ミリアリアの体から、ふっと力が抜ける。
 
「…やっぱ買って正解だったな、そのドレス。似合いすぎてて、誰にも見せたくなかった。」
「意味ないでしょ、それじゃ。」
くすくすと楽しそうに笑い出したミリアリアに、ディアッカも笑顔になった。
 
 
「ねぇ、私大丈夫だった?」
「ん?何が?」
「ちゃんとお客様に対応出来てたかな?変な事したつもりはないんだけど…」
 
 
ディアッカは、ミリアリアの髪をゆっくりと撫でた。
「大丈夫。お前はよくやってたよ。さすが俺が選んだ女って感じ?」
「…ばか」
ミリアリアは安心したように笑って、目を閉じた。
 
 
 
ディアッカは、おとなしく腕の中に収まるミリアリアの髪を撫で続けていたが、ふと気になる事を思い出した。
こいつ、そういやどんだけ飲んだんだ?
 
「…ミリィ?」
「…なぁに?」
いつもより、若干幼い感じの声。
 
「エザリアさんと、何飲んだの?」
「えっ…と、カクテル作ってもらったの。あとはバーボン。」
「…カクテル?バーボン?」
ディアッカは唖然とした。
「うん。エメラルド・ミストって、とっても綺麗な色のカクテル。
今度ディアッカにも作ってあげるね?
あ、でもディアッカお酒飲めたっけ?」
「お前…酒、強いんだな…。」
あのエザリアと同じペースで飲んで、それでもまだ会話が成り立つのだからかなり強いとみていいだろう。
 
 
「…違うの。」
「は?」
 
ミリアリアは、ぎゅっとディアッカにしがみついた。
「私、酔いが回るのが遅い体質なの。顔にも出ないらしいし。
だから、気を張ってるうちは普通にしてられるけど、こうして気が抜けると、だんだん気持ち良くなって、くる…」
「え、おい、ミリアリア?」
 
 
「…ぐるぐる、する。」
 
 
ディアッカは慌ててミリアリアの肩に手をやり、体を起こした。
「気分悪いか?吐きそう、とか?」
ミリアリアは、ほわんとした表情でディアッカを見つめ。
見たことのないような、蕩けるような笑顔を浮かべた。
「ぜんぜん?ただ、安心してちょっとお酒が回って来ただけ。
酔って吐いた事も、記憶を無くした事も無いから、大丈夫よ。」
 
その柔らかい笑顔に見とれていたディアッカだったが、我に返ると腕の中のミリアリアにそっと囁いた。
 
 
「…お前、これから先は俺のいないとこで酒飲むなよ。」
「え?なんで?」
「その危なっかしい顔も、もう誰にも見せたくねぇから。」
 
 
ディアッカは、ミリアリアの顎を掴んで上向かせ、そのまま唇を重ねた。
アルコールの味のするミリアリアの口内を、乱暴に舌で蹂躙する。
「ん…ぅ」
ミリアリアの吐息に、微かに色が混じった。
 
ディアッカは唇を重ねたまま、ミリアリアの背中に手を回してドレスのファスナーを下ろす。
「ほら、眠っちまう前に風呂行くぞ。」
唇を解放してそう言うと、ドレスを脱がせ、下着姿になったミリアリアを抱き上げた。
 
「ディアッカと一緒だと、安心、する…」
 
いつもなら、一人で入る!自分で歩く!と騒ぐはずのミリアリアが囁いたかわいらしい台詞に、ディアッカのなけなしの理性が危うく飛びかけた。
こいつは少しばかり酔ってるんだ、今日も我慢だ、と自らに言い聞かせる。
 
そんな中、アルコールの力でいつもより大胆になったミリアリアは、自分からディアッカの首に手を回してしがみついた。
そして。
 
 
 
「ディアッカ…いい匂い…。だいすき。」
 
 
 
ディアッカの理性が、あっけなく、飛んだ。
 
 
 
***
 
 
 
脱衣所での情事の後。
ミリアリアはふらふらのままディアッカと入浴し、身支度を済ませられ、ベッドに運び込まれていた。
 
「ミリィ、ほら、水」
 
ディアッカは、ベッドに座るほわんとした表情のミリアリアに水のボトルを渡した。
「ん…ありがと」
「ちょっとは酔いが醒めた?」
「…ぐるぐるは、してない。でも、ふわふわは、してる…。」
ミリアリアの子供のような口調に、思わずディアッカは微笑んだ。
 
 
「エザリアさんと飲んで、その程度で済んでりゃたいしたもんだな。
俺より強いんじゃねぇ?お前。」
「ディアッカ…、お酒嫌いなの?」
ディアッカの顔が微かに歪んだ。
 
「嫌いじゃねぇけどさ…。エザリアさんと飲むのは、なんつーかトラウマ、だな。」
「…何それ」
「アカデミー時代、一度エザリアさんにすげぇ飲まされたの。
酔って記憶を無くしたのは、後にも先にもあん時だけだな。」
「アカデミー時代…」
「ああ、俺って家出同然でアカデミー入ったから、長期休暇とかはイザークんちに入り浸りだったんだ。
まぁ、エザリアさんと親父の間で話は付いてたらしいけどさ。」
「そう、なんだ…」
 
 
ミリアリアは、エザリアの話を思い出す。
タッドとティナの事、今後の事。
しかしミリアリアは、明日にしようと心に決めた。
今日は、この心地よい疲労と、ディアッカの温かい体温を感じながら眠りたい。
 
 
「…たくさん話したい事があるの。
でも、今日はもう疲れちゃった。寝よ?ディアッカ。」
 
 
ミリアリアは子供のように手を伸ばし、ディアッカに抱っこをせがむ。
 
「今日は、ずいぶん甘えっ子じゃん?」
 
くすくすと嬉しそうに笑いながら、ディアッカはミリアリアのおねだりを叶えるべくベッドに入り、優しくその体を抱き締めた。
 
「…だめなの?」
「いつだって大歓迎ですよ?アナタ様。」
 
ディアッカの温かい胸に、ミリアリアは幼子のように顔を摺り寄せる。
逞しい腕に抱かれ、怖いくらいの安心感がミリアリアを包んだ。
 
 
「おやすみなさい…ディアッカ」
「ん、おやすみ、ミリィ」
 
 
どちらからともなく、唇を重ねあい。
二人はあっという間に、眠りに落ちて行った。
 
 
 
 
 
 
 
016

甘えっ子ミリィ、発動です…。

酔っぱらってるのに行為に及んでしまったのはお許し下さい(笑)そのうち補完作品upします。

エザリアから聞かされた話を胸に、ミリィはディアッカの腕の中で眠ります…。

 

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2014,7,2up