18, エメラスド・ミスト 2

 

 

 

「あの、私への質問って…」
 
 
エザリアが再度作ったエメラルド・ミストを受け取り、おずおずとミリアリアは尋ねた。
「…そうね、まずはひとつ。イザークについてどう思っていて?」
ミリアリアは予想外の質問に、目を丸くした。
 
 
 
「イザーク、ですか?どう、って…」
「もしイザークから結婚を申し込まれたら、あなたどうする?」
「…はいっ?」
ミリアリアは素っ頓狂な声を出してしまい、慌てて口を押さえた。
 

エザリアは、微笑みを浮かべながらも目は真剣だ。
ごまかすようなことは言えない。
 

「…イザークは、すごく真面目で真っ直ぐで。そして、言葉はそっけないけど優しい人です。
きっと、お母様の愛情を一身に受けて育って来たんだろうな、って思ってました。
そしてイザークも、お母様の事を敬愛し、尊敬している。そう感じます。」
「…それで?」
 
ミリアリアは手元にある碧い液体を見つめた。
 
 
「イザークはとても頼り甲斐があって誠実で、素敵な男性だと思います。
万が一にも結婚なんて申し込まれたら、それこそ舞い上がっちゃうくらい。
きっと、家族を大切にする素敵な旦那様になるんだろうな、とも思います。」
エザリアは黙ってミリアリアの言葉を聞いている。
 
 
「でも、私はディアッカを選びます。
イザークがディアッカに劣っている、ということでは絶対にないです。
ただ、私がディアッカに魅かれてしまうから。それだけです。
イザークは…こんな言い方は失礼かもしれませんが、兄のような、頼れる存在、です。私にとって。」
 
 
す、とエザリアの綺麗な腕が伸び、柔らかい手がミリアリアの髪を撫でた。
 
「え、あの、エザリア様…?」
「…こんな娘が、私も欲しかったわ。」
ミリアリアがきょとんとエザリアを見つめた。
 
「様、はいらないわ。ミリアリア。」
「えと、では、エザリア、さん…」
 
「…イザークはとても真面目なの。堅物と言ってもいい位。
私はあの子が小さな頃から、政治家として活動していてね。
それでも、できる限り時間を作ってイザークに愛情を注いできたわ。」
 
エザリアはそっと、ディアッカと語らうイザークに慈しむような目を向けた。
 
 
「たまに、心配になるの。
あの子は、私以外から愛情を受けた経験がない。
いえ、きっと好意を向けられたこと自体はあるんでしょうね。
それでも、ああいう性格でしょう?それに応えることが、あの子にはできるのかしら、って。
私がいなくなったら、ってどうしても不安になるの。
子離れできていない証拠よね、ふふ。」
 
 
ミリアリアは、シホを思い出す。
ひたむきに、イザークを信頼して影のように寄り添う不器用なシホ。
そういえば、ガトーショコラは無事渡せたのだろうか。
 
「…イザークは、確かにそう言ったことに慣れていないかもしれません。でも、前に言っていました。
困った時に、信頼できる相手に助けを求めることのどこがいけないのか、って。
それと、頼ること、甘えることは悪いことばかりではない、とも。」
 
エザリアは驚いたように、口に手を当てた。
 
「あの子が、そんなことを?」
 
「はい。私はそれで、ディアッカに対して素直になれたんです。
イザークは、お母様の愛情があったからこそ、そういう考えにたどり着いたんだと思います。」
 
 
 
エザリアは、その言葉に優しい表情になり、ふわりと微笑んだ。
「…母親ってね、すごく些細なことでもものすごく心配になるのよ。きっとティナもそうだったんだと思うわ。
ミリアリア。ティナの事は、あなたがいいと思うタイミングでディアッカに伝えて頂戴?」
「いいんですか?私で…」
「あなただから、託すのよ。ティナの大事な息子の婚約者である、あなただから。」
ミリアリアは真剣な表情になり、しっかりと頷いた。
「…分かりました。必ず伝えます。」
 
 
 
 
「あとひとつ、いいかしら?」
エザリアが居住まいを正した。
 
「先の大戦で、私がザラ議長と共にあった事、知ってるでしょう?」
「…はい。私がAAにいた事もご存知、ですよね。」
「イザークに聞いたわ。最初は信じられなかった。
あの子もディアッカも根っからのナチュラル嫌いで、シーゲルの政策もバカにしてたくらいだったから。」
エザリアはミリアリアに向き直った。
 
 
「本当はね、どうやってあなたがディアッカやイザークの、ナチュラルへの偏見を無くしたのかを聞こうと思ってたの。」
 
 
ミリアリアは微笑んだ。
「…私だけのせいじゃありません。
ディアッカは、私との出来事がきっかけかもしれませんけど…。
多分、興味を持って、そして歩み寄ってくれたから、じゃないでしょうか。」
「…歩み寄って…?」
 
 
「私、ナチュラルがコーディネーターにして来た事に対しては、本当に申し訳なく思っています。
理不尽な搾取やユニウスセブンへの攻撃、核の使用…。
ナチュラルの総意ではないにしても許される行為ではないし、停戦なんて関係なく私達を糾弾する人がいるのも理解しています。」
 
 
エザリアは無言でミリアリアの碧い瞳を見つめた。
 
 
「でも、それでも。
あの二人は私達ナチュラルに興味を持ってくれて、まっすぐに私達を見てくれて。
そして理解しようとしてくれたから、今の彼らがあるんだと、私は思います。
まず、好奇心でも何でもいいから興味を持ってくれた事で、すべては始まったんだと。」
 
「…そう。」
 
「でも、逆も言えるんです。
私、偏見のないつもりでいてもやっぱり最初はディアッカの事、怖かったですから。
怖くて、挙句に馬鹿にされてカッとなって危うく刺し殺す所で…あ、いえ、何でもないです!」
ミリアリアはつい口を滑らせ、慌てて話を終わらせた。
エザリアが目を丸くし、そしてころころと笑い出した。
 
 
「…ありがとう、ミリアリア。私も迷いが晴れたわ。」
「迷い、ですか?」
ミリアリアは首を傾げた。
 
「そう。私もまだ、パトリックの呪縛から半分抜け出せないでいたのよ、多分。」
「エザリアさん…」
エザリアはくいっとグラスを傾け、空にした。
 
 
「ナチュラルもコーディネイターも、いろいろな人間がいる。
種族だけで差別するべきではない。
イザークが言っていたこと、やっとわかった気がするわ。
少なくとも、私はあなたと話して、もう種族で人を差別する気には、なれない。」
 
 
その言葉を聞き、ミリアリアの胸に喜びが溢れた。
 
「ね、おかわりは?同じのを作りましょうか?」
 
エザリアの誘いに、ミリアリアは今日一番、とも言える嬉しそうな笑顔で頷いた。
「エザリアさん、これ、とっても美味しいです。作り方を教えて頂けますか?」
そう言ってミリアリアが指差したのは、エメラルド・ミスト。
「…いいわよ。ディアッカたちの邪魔が入る前に、女二人でたくさん飲みましょ?」
 
ミリアリアとエザリアはそっとディアッカ達を盗み見て、くすくすと笑いあった。
 
 
 
 
 
 
 

016

エザリアさんの、イザークに対する愛情。

女傑と言われようとも、やっぱり根は優しい女性なんじゃないかな、と思います。

そして、ティナの言葉を託されたミリィは…?
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2014,7,1up