「…ああ、無理はするな。やっと熱が下がったばかりなのだからな。
俺も明日の昼には本部に向かう。…ああ、では。」
イザークは通話を終え、溜息をついた。
昨日倒れたシホは、あれから点滴治療だけ受けて職務に復帰した。
ディアッカが不在の中、元々責任感の強い彼女に休むという選択などあるわけもなく。
フェブラリウスに向かう前、本部で会った少しだけ顔色の悪いシホを思い出し、イザークは夜空を見上げた。
「…好き。か…」
明日、シホの体調が戻っていたらあのガトーショコラを一緒に食べよう。
そう心に決め、イザークは親友とその恋人の婚約を祝うため、エルスマン邸の門をくぐった。
「お待たせしました、母上。」
「イザーク!遅かったわね。用事は済んだのかしら?」
エザリアが振り返り、にっこりと微笑んだ。
「お前、来るなんて言ってなかったじゃん。どういう風の吹き回し?」
ディアッカもからかうように声をかけて来る。
「イザーク、こんばんは。」
イザークが振り返ると、そこにはミリアリアの碧い瞳と優しい笑顔があった。
「改めて、婚約おめでとう、ミリアリア。その…ドレスも、とても良く似合っている。」
イザークのたどたどしい挨拶に、ディアッカが僅かに眉を上げる。
そしてエザリアは、あからさまに驚愕の表情を浮かべてイザークを見た。
「ありがとう、イザーク。お仕事は?シホさんに任せて来たの?」
「…ああ。明日の昼には本部に戻る。」
にこやかに会話を続けるミリアリアと、どこかぎこちないイザークに、ディアッカとエザリアは違和感を感じていた。
「ミリアリアさん、お酒は飲めて?」
晩餐会はほぼ終わりに近づき、主だった客も帰った。
ディアッカと玄関まで客の見送りに出ていたミリアリアは、エザリアの声に慌てて振り返った。
「はい、あまりたくさんでなければ。よろしければ何かご用意しましょうか?」
「そう。…じゃあ少し待ってね?」
エザリアはにっこり笑って、今度はディアッカに話しかけた。
「ディアッカ、彼女を少し借りても良くて?
私にも娘を持つ母親の気持ちを味合わせて欲しいのだけど?」
ディアッカは一瞬迷った。
が、先に返事をしたのはミリアリアだった。
「私でよろしければ、喜んで。あちらにバーカウンターがあります。」
「…じゃ、決まりね。」
エザリアはミリアリアに微笑むと、バーカウンターに向かって歩き出した。
「イザーク、お母様をお借りするわね。」
ミリアリアはディアッカを安心させるように微笑み、イザークにそう声を掛けるとエザリアを追いかけて行った。
「エザリアさん、すっかりミリアリアが気に入ったみたいだな。」
「ああ。程々のところで失礼する。母上のペースにミリアリアが着いていけるとは思えんからな。」
「…あ。」
イザークは呆れたようにディアッカを見た。
「忘れたのか?アカデミー時代にお前も潰されただろうに。」
ディアッカは複雑な表情になった。
「…あれは、若気の至りだ。つーか、エザリアさんが特殊すぎだろ。」
ミリアリア、酒なんて飲めたっけ…。
ディアッカは気遣わしげに、バーカウンターの方に目をやった。
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倒れて間もないシホを案ずるイザーク。
まだ、自分の感情につける名前が分からず戸惑っています。
そして、ミリィとエザリアさんのトークはいったいどうなるのでしょうか…。
2014,6,29up