ミリアリアは驚いてロイエンハイムを見つめた。
『え…?』
「かまわんよ、ミリアリア。」
いつしかタッドがそばに来ており、ミリアリアはびくりとして振り返った。
「お父様!」
『やあタッド。今日はお招きありがとう。』
ロイエンハイムが手を出し、タッドと握手を交わす。
『オズ、来てくれて嬉しいよ。で、うちの可愛い娘とはどんな関係だい?』
『…そうだな。気の合う友人、と言ったところか。残念だがね。』
『それ以上の関係だったら、うちの怖い息子が黙っちゃいないさ。
それにしても、偶然とは怖いものだねぇ。』
「あ、あの、お父様?」
ミリアリアは二人の軽快な会話にやっとの事で口を挟んだ。
『ああ、そうだった。そろそろ頃合い、だろう?ちょうどよかった。』
ドイツ語で答えたタッドがにやりと笑う。
『では私とミリアリアが先制攻撃をかけよう。タッド、君はいいところで入ってきてくれよ?』
『了解した。ミリアリア、オズの通訳を頼むよ。意訳、で構わないからね。』
「え?え、あの、ちょっと…」
ミリアリアは、にこやかに見送るタッドを振り返りながら、ロイエンハイムに連れられディアッカの元に向かった。
ディアッカはいい加減、辟易していた。
自分と同じ歳の娘を持つ、製薬会社の重役夫妻。
娘とディアッカをなんとか結婚させたがっていたのは知っていたが、この状況でもまだつなぎを作ろうとしてくるとは予想外だった。
気をつけているつもりであろうが、言葉のそこかしこに滲むナチュラルへの嫌悪にディアッカは怒りを通り越してむしろ憐憫の情を感じていた。
ナチュラルへの偏見を無くすには、まだまだ時間がかかりそうだ。
それにしても、いいかげん、ミリアリアの元に戻らなければ。
ディアッカは、ロイヤルブルーのドレスに身を包んだ美しい婚約者の姿を思い浮かべ、なんとか目の前の夫妻の話を終わらせようと試みた。
その時。
『やあ、君がタッドの息子かね?!』
聞きなれない言葉が耳に入り込んできた。
「は?」
ディアッカは素っ頓狂な声を上げる。
『未来の奥方をほったらかして、こんな狸じじいどもと話し込むとは感心せんなぁ!ミリアリアに逃げられるぞ?』
『ちょっと!何てこと言ってるんですかっ!?こんなの訳せないですって!』
ディアッカはぽかんとした。
突然登場したこの男にも驚いたが、それよりもまず、ミリアリアの話している言葉が全くわからない。
『どうせ通じてないんだ、遠慮はいらんよ。
戦場を駈けていたミリアリアは、この位のことはなんなく乗り越えていたはずだぞ?』
『…分かったわよ!もう!』
ミリアリアは今度こそ覚悟を決め、にっこりと笑顔を作ってディアッカたちを振り返る。
「お話中失礼します。こちらの方が、ディアッカにご挨拶がしたいとおっしゃっていまして。
失礼かとは思いましたがお連れしました。」
『…婚約者を目の前にしても挨拶一つできんとは…。
まぁ、狸に人間の言葉が通じないのも無理はないか。』
『それ、どう訳せっていうんですか?!』
意味がわからなくても、雰囲気である程度はニュアンスが伝わりかねない。
ミリアリアはにこやかな表情を変えず、ロイエンハイムと会話を続けた。
ロイエンハイムもなかなかのもので、毒のある言葉とは裏腹に表情はにこやかなまま、ミリアリアと話を続ける。
『まぁいい、こいつらがどこの誰だかはタッドに後で聞いておこう。
さぁ、この古狸夫妻から旦那様を早い所奪還せんか』
『…古狸夫妻って…。とりあえず分かりました。』
ミリアリアは唖然とするディアッカに笑顔でロイエンハイムを紹介した。
「ディアッカ、こちらはロイエンハイムさん。
地球で大きなグループ企業を経営していらっしゃるの。
お父様の古いお知り合いだそうよ。」
「おや…父上の?」
「ええ。お住まいの関係で、ドイツ語しか話せないの。
通訳の方が遅刻しているらしくて、それまで私がお相手してたのよ」
「そう、か。お…ミリアリア、ドイツ語…」
『お、動揺してるんじゃないか?坊ちゃん。』
『あんまりディアッカをいじめないで下さいね、ロイエンハイムさん!』
「ディアッカ君、そちらは…」
「やぁ、イワン。よく来てくれたね?」
どこから見ていたのか、颯爽とタッドが登場した。
『もう少し遊びたかったが…まぁいいか。』
『やめて下さい!これ以上どんな暴言を吐くおつもりだったんですか?』
ミリアリアは笑顔のまま、ロイエンハイムと会話を交わし続ける。
「エルスマン殿、本日はお招きありがとうございます…」
慌ててそう挨拶をするどこぞの重役夫妻に鷹揚に頷き、タッドはディアッカに笑顔を向けた。
「ディアッカ、ミリアリアをイワンに紹介したのかね?」
その言葉にはっとしたディアッカは、ミリアリアの腰に手を回すと自分の方に引き寄せた。
「ご紹介が遅れました。こちらは私の婚約者で、ミリアリア・ハウ。
オーブ出身のナチュラルです。
現在はアプリリウスの在プラント、オーブ総領事館で報道官として勤務しています。」
自分を見下す夫妻の視線に内心気後れしていたミリアリアは、その言葉にディアッカを見上げた。
そして、ディアッカの優しい瞳に勇気をもらう。
ミリアリアは、ディアッカを捕まえていた夫妻に向かい、にっこりと笑った。
「はじめまして、ミリアリア・ハウです。よろしくお願いいたします。」
ロイエンハイムが、満足げに微笑むのが視界の端に写った。
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ミリィとロイエンハイムさんの掛け合いが楽しい(笑)
きっとタッドパパとも若い頃、こうやって悪戯してたんでしょうねぇ…。
2014,6,28up