「これはこれは、可愛らしいお嬢さんだ。
エルスマン殿、娘が出来る気分はいかがですかな?」
「今まではディアッカと二人きりの家族でしたからな。
むさ苦しい男所帯から解放されると思うと、今から楽しみですよ。」
「ははは、これは大変だ。ミリアリア嬢も気が休まりませんな。」
「いえ、とんでもないです…」
ミリアリアは、顔に笑みを貼り付けてタッドの横に立っていた。
ロイヤルブルーのドレスは膝丈のマーメイドラインで、ミリアリアの白い肌と華奢な体を美しく引き立たせている。
何時もより丁寧にメイクを施し、婚約指輪と合わせたアメジストのネックレスとピアス。
そして絹のストッキングにシルバーのハイヒールを履いたミリアリアは、少しだけ普段よりも大人びて。
本人はひたすら恥ずかしがったが、ディアッカだけでなくタッドまでもその仕上がりに溜息を漏らした。
ディアッカとミリアリアの、婚約披露パーティー。
フェブラリウスのエルスマン本邸には、プラントの医療業界、そして政界から何人もの名士が集い、次々とミリアリアたちの元に挨拶に訪れた。
「…あいつは?まだ捕まってるのかね?」
タッドが小声でミリアリアに囁いた。
「そう…みたいですね。」
「諦めの悪い…。婚約者を目の前にしても、まだ自分の娘を売り込むかねぇ。」
「それだけ、魅力的なんですね。エルスマンの名もディアッカも。」
そう言って微笑むミリアリアに、タッドはすまなそうな目を向けた。
「…頃合いを見て、私が間に入るとしよう。これでは何のためのパーティーか分からないからね。」
そう、本日の主役のうちの一人、ディアッカは、先程から同じ男女に囲まれていた。
はたから見れば、笑顔で会話をしているように見えるだろうが、あれは自分の娘をディアッカの元に嫁がせたがっていた製薬会社の重役だ、とミリアリアはこっそりタッドに教えてもらっていた。
欲しいのは、エルスマンの名かディアッカのDNAか。それとも両方?
ーー心でないことは、確か。
ミリアリアはちらりとそちらに目をやると、すぐにタッドに向き直り、また笑顔を見せた。
「大丈夫です。この位でめげてたら、ディアッカのお嫁さんになんてなれませんから。」
タッドは微笑んだ。
「本当に申し訳ないね。
こうなったら不肖の息子の分も、私がエスコートさせてもらうとしよう。」
「私でよければ、ぜひお願いします」
タッドのおどけた言葉に、ミリアリアはにっこりと微笑んだ。
「エルスマン殿、この度はおめでとうございます!」
新しい賓客の登場。
ミリアリアは笑顔を絶やさないよう気をつけながらタッドの横に立った。
「ミリアリア様、よろしいでしょうか?」
「え?あ、はい!」
不意に名前を呼ばれて振り返ると、そこにはエルスマン家の執事が恭しく立っていた。
「あちらの方なのですが…。どうやら、通訳とはぐれてしまったようで、私どもでは言葉が解りかねるのです。
ですが、どうやらミリアリア様のお名前をお呼びになっているようで…」
「通訳…?」
ミリアリアはタッドを振り返ったが、あいにく先程の男性と談笑中だ。
仕方ない。
ミリアリアは腹を括った。
「私の名前を?どの方ですか?」
「あちらの、白い衣装の方で…」
『ミリアリア!』
ミリアリアは目を見張った。
「…すみません、私の知り合いです。まさか、こんなところで会うなんて…。
お父様に、あちらの方とお話してくると伝えて頂けますか?」
執事は、微笑んで頷いた。
「かしこまりました。…ご無理なさらず、疲れたらお休みください。」
小声でそう囁かれ、ミリアリアは嬉しくなって微笑んだ。
『お久しぶりです!ロイエンハイムさん!どうしてここに?』
『婚約おめでとう、ミリアリア!随分と綺麗になったじゃないか?』
『奥様に言いつけますよ。まだアドレスは持ってますから。』
『相変わらず怖いねぇ、こんなに可愛い顔をして。』
この男の名は、オズワルト・ロイエンハイム。
ミリアリアが地球でジャーナリストをしていた際に、とある縁で知り合った相手だった。
ロイエンハイムは地球育ちのコーディネーターで、ヨーロッパ圏で大きな力を持つ企業グループの会長を勤めている。
また紛争で傷ついた地域への支援も積極的に行っていた。
本人自ら支援に参加することも多く、たまたま取材で各地を回っていたミリアリアがその場に居合わせ、写真を撮った。
その縁で、ミリアリアはロイエンハイムに取材を申し込み、ロイエンハイムも快諾した。
ミリアリアがロイエンハイムの母国語であるドイツ語に堪能だったこともあったが、何より二人は気があった。
二人は取材の中で、コーディネーターから見た二度の戦争、そしてナチュラルとコーディネーターの在り方について熱く語り合ったものだった。
「すごい…」
「…ドイツ語?」
「さぁ…でもあれだけの会話が出来るなんて、噂通り優秀なナチュラルなのね。」
その言葉にタッドは振り返る。
そして、流暢なドイツ語でロイエンハイムと楽しそうに言葉を交わすミリアリアに唖然とした。
『でもどうしてここに?お父様と知り合いなんですか?』
『ああ。タッドは若い頃からの友人だ。学友だよ。
最も君と私の関係までは知らないだろうがね。』
『誤解を招く言い方はやめて下さいね。ロイエンハイムさん?』
ミリアリアの言葉に、ロイエンハイムは楽しそうに笑った。
『いや、助かったよ。通訳が遅れてくると連絡があってね。
ドイツ語が分かるのはタッドだけかと思っていたからね。』
『確かに、プラントでドイツ語を話す人は少ないかもしれませんね。でもロイエンハイムさん、公用語も話そうと思えば話せるんじゃ…?』
『まぁ、そうだがね。せっかくのパーティーで無粋な仕事の話などされたくはないだろう?
それに、込み入った話が出来るほど公用語に堪能ではないのでね。』
そう言うと、ロイエンハイムはきょろきょろと辺りを見回した。
『で?君の未来の旦那様は?』
ミリアリアは苦笑し、先ほどと同じ位置で談笑するディアッカをそっと指し示した。
『あそこにいる、金髪に紫の瞳の男性です。
ちょっと捕まっちゃって抜け出せないみたいで。後で紹介しますね。』
ロイエンハイムは、いたずらっぽい目でそちらを見ていたが、悪戯を思いついた子供のようににやりと笑った。
『実にけしからんね。こんな可愛い未来の奥方を放っておくなど。
私が叱ってやろう。彼の所に案内してくれるかな?』
珍しく、敵ではないオリキャラ登場です。
『』内は、ドイツ語での会話だと思って下さい…
うちのミリィは、ゼミでの経験もあって語学堪能です!
2014,6,28up