14, 出発

 

 

 

 

「ミリィ!いるか?」
 
そんな声とともにバタバタとリビングに駆け込んで来たディアッカを、ミリアリアは苦笑しながら出迎えた。
「馬鹿ね、待ってるって言ったでしょ?」
「…悪いかよ、心配して。」
ミリアリアは早速ふてくされたディアッカの首に腕を回し、背伸びして軽く唇を触れさせた。
「…ごめんね。おかえりなさい、ディアッカ。」
「…ただいま、ミリィ。」
突然のキスに、ディアッカはほんのり顔を赤らめた。
 
 
エアターミナルは、慰霊式典の後ということもあり少しだけ混雑していた。
ディアッカとミリアリアは、VIP用の待合室でタッドの到着を待っていた。
「お父様、今日お話した?」
「いや、式典で見かけただけだな。まぁ、同じプラント内を移動するだけだし、そこまで予定の調整もいらないんじゃねぇ?
つーか、元々本拠地はフェブラリウスなわけだし?」
「そう、か。市長さんだもんね。ディアッカは生まれも育ちもフェブラリウスなんでしょ?」
「そ。エレメンタリーまではあっち。ザフトに入隊を決めて、アカデミーに入学する為にアプリリウスに出てきたの。」
「そうなんだ…。エレメンタリー、かぁ。」
 
 
ほんとに生粋のお坊っちゃま、だったわけね…。
ミリアリアは少しだけ、明日に迫った晩餐会が憂鬱になってきた。
一体、どんなセレブな面々が集うのだろう?
一応ミリアリアも、ジャーナリスト時代に必要にかられ、ひと通りのマナーは身に付けている。
それでも、本物のセレブ達の前でどこまで通用するのか…
 
 
「ミリィ?まーたつまんない事心配してんだろ。」
ディアッカの大きな手が、ミリアリアの頭をぽんぽんと叩いた。
「…そんな事…少しはあるけど。でも大丈夫。なるようにしかならないでしょ?」
「そうそう。お前は堂々としてりゃいいの。」
ミリアリアはその言葉に、少しだけ不安そうな笑みを浮かべた。
 
 
「そういや、さ。お前、16でカレッジに入ったんだろ?
3年だっけ?スキップしたの。」
ディアッカが話を変えた。
「そうよ。ジュニアハイの途中でスキップを決めたの。」
「やっぱ機械工学の勉強とかしたわけ?スキップする時。」
ミリアリアはしばらく考えこんだ。
 
「…スキップにあたって、まずはハイスクール卒業程度の知識が必要なのは当然よね。
だからその勉強と、あとは数学と語学、かなぁ。」
「ふーん。お前、勉強好きなんだな。」
「別にそこまで好きなわけじゃないけど…。でも、いきなり何で?」
ディアッカはふわりと微笑んだ。
 
「明日の予習。お前の経歴、嫌でも聞かれるからさ。」
 
「…そうなの?」
「そうなの。ま、俺に任せとけって。お前はいつも通りでいいから。」
「…うん。」
そう頷いたミリアリアの目が、急ぎ足でこちらに向かってくるタッドの姿を捉えた。
 
 
タッドの到着から程なく三人は搭乗手続きを済ませ、シャトルに乗り込んだ。
出発まではしばらく時間があり、三人は与えられた席に腰を下ろしていた。
 
「ミリアリアは大丈夫か?」
タッドは、ミリアリアが飲み物を取りに行った隙に、そっとディアッカに尋ねた。
「何が?まぁ緊張はしてるみたいだけど…」
「…聞いていないのか?」
ディアッカがタッドに向き直る。
「なんの話だよ?式典での件?」
タッドは溜息をついた。
 
「…事情聴取によれば、犯人はユニウスセブンで家族を亡くしたらしい。
とにかくナチュラルのミリアリア達に、憎悪を剥き出しにしていた。
特にミリアリアは、お前を誑かしたと罵られて、な。」
 
「な…!」
ディアッカの顔色が変わった。
「落ち着け。ミリアリアが何も言わないのなら、無理に聞き出す事もない。」
「まぁ…そうだけどさ…」
 
 
「しなやかで強い女性だな、彼女は。」
 
 
タッドは、てきぱきと飲み物を準備するミリアリアに優しい眼差しを送った。
「…ああ。不安定になったり、脆いとこもあるけど、あいつは強いぜ。」
「…守ってやりなさい。私には出来なかった事も、お前なら出来るだろう。」
「親父に…出来なかった?」
タッドはゆっくりと、息子の方に振り返った。
 
「私はティナを守ってやれなかった。…お前の母親を。」
 
ディアッカが驚愕の表情を浮かべた。
「親父…」
「…ミリアリアが戻ってきたぞ。ほら。」
ディアッカが振り返ると、トレーを手にミリアリアがこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
 
 
 
 
 
 
 
 

016

ついにフェブラリウスに出発です。ディアッカの母親のエピソードも…。

 

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