9, 喧嘩 2

 

 

 
ラクスの私邸は、ザフト本部からほど近い場所にあった。
「すごい!これだけあればたくさん作れるわ!」
キッチンに積まれたチョコレートや生クリームの山に、ミリアリアは思わず声を上げた。
「あ、材料費は半分こね。ラクス、いくらくらいかかった?」
「あら、これから色々と教えていただきますのに、材料費などいただけませんわ。」
驚いたように答えるラクスに、ミリアリアはくすっと笑った。
 
「ねぇラクス。怒らないで聞いて欲しいんだけど。」
「…はい、何でしょう?」
ラクスはかわいらしく小首をかしげる。
 
 
「身分は天と地ほど違っても、私、ラクスとは友達、の間柄だと勝手に思ってるの。
友達同士はね、こういう時も遠慮は無しできっちり材料費を分け合うものなのよ?」
 
 
ラクスは、またもやきょとんとした顔でミリアリアを見つめ。
「…はい!」と、見たことのないような嬉しそうな顔で、笑った。
 
 
 
数時間後。
「…出来た…」
「…少しだけ、疲れましたわね…」
 
ぐったりしたラクスとミリアリアは、そう言った後顔を見合わせて、同時に吹き出した。
 
 
「こちらは、ディアッカさんの分ですの?」
ラクスが別の容器に入れられたトリュフを指差した。
「うん。ディアッカ、そこまで甘過ぎない方が好みみたいだから。
別でビターチョコを買っておいたのよ。」
「そうでしたの…。きっと、とても喜ばれると思いますわ。」
「そうだと、いいんだけどね。」
ミリアリアはそう言いながら、ふと時計に目をやった。
 
 
 
時計の針は、10時を指していた。
 
 
 
「…10時っ?!やばっ、ディアッカもう帰ってきてるかもっ!」
ミリアリアは慌ててバックから携帯を取り出した。
そこには、ものすごい数の着信履歴。
「うわ…どうしよう…」
「あらあらあら、もうこんな時間でしたのね。ごめんなさい、ミリアリアさん。」
ミリアリアは、引きつった顔でラクスを振り返った。
「ラクス…。今日はラクスの家で、つい色々話し込んじゃった、ってことにしてもいい…?」
ラクスは笑顔で頷いた。
「すぐにディアッカさんに連絡なさって下さいな。必要であればわたくしからもお話しいたします。」
ミリアリアは情けない顔で頷き、急いで通話ボタンを押した。
 
 
 
『ミリアリアっ!お前どこにいるんだよ!?』
 
 
携帯が壊れそうなほどのディアッカの声に、ミリアリアは肩を竦めた。
「ごめんなさい!あの、ラクスの家で話し込んじゃって…」
『はぁ?!ラクス?』
「う、うん…。ごめんね、連絡もしないで…」
『…すぐ迎えに行く。ラクスの私邸?』
「う、あ、そう。でもディアッカ、演習だったんでしょ?
今からすぐに帰るし、お迎えは大丈夫よ?」
 
すると、なぜかディアッカが黙りこんだ。
 
『…わかった。好きにしろよ。俺、適当に飯食って寝るわ。じゃな。』
「え?でも…」
ぶつり。
そのまま電話は切られ。
ミリアリアは呆然と、手に持った携帯を見下ろすことしかできなかった。
 
 
 
「本当にごめんなさい、ミリアリアさん…」
ラクスの泣き出しそうな顔に、ミリアリアはただ微笑むことしかできなかった。
「気にしないで。ディアッカは過保護だから、ちょっとヘソを曲げてるだけよ。
明日になれば仲直りしてるはずだから、本当に大丈夫。」
「…どうなったか、メールでもよろしいので教えて下さいませね?」
「うん。ラクスも、キラに食べさせたらどうだったかメールしてね。」
ミリアリアは自分の分のトリュフをしっかりと持つと、無理やり作った笑顔でラクスに手を振ってアパートを駆け上がった。
 
 
そっと鍵を開けて、室内に滑り込む。
「…ただいま…」
小さい声でそう告げるが、返事はない。
ミリアリアは溜息をつくとキッチンに向かい、普段開けない棚の奥にトリュフを隠した。
そして、寝室に足を向ける。
「…ディアッカ…?」
そっとドアを開け、恐々と中を覗き込むと。
 
 
寝室は、真っ暗だった。
窓から微かに入る街灯の光で、かろうじてディアッカがベッドにいることがわかる。
ミリアリアは、静かにベッドに近づいた。
 
「…ディアッカ、寝ちゃったの?」
 
返事はない。
が、気配で寝ていないことはミリアリアにもわかった。
そうでなくても、ディアッカは眠りが浅い。
ミリアリアが近づけば、すぐに気付いて目を覚ますはずだった。
 
「…本当にごめんなさい。連絡もせずに心配かけて。」
 
それでも、ディアッカはやはり黙ったままで。
ミリアリアは途方に暮れた。
「あの、ディアッカ…」
 
 
「うるせーよ」
 
 
その冷たい声に、ミリアリアはびくりと体を震わせた。
「…よかったじゃん。ラクスと楽しんでたんだろ?俺の電話に気がつかないくらいさ。」
「違うの、あの…」
「何が違うんだよ」
ディアッカは畳み掛けるように言葉を発した。
 
「…ごめんなさい」
 
少なくとも明日の夜までは本当のことを言いたくなかったミリアリアは、ただ謝ることしかできない。
「…もう、寝かしてくんない?俺疲れてるから。」
「あの、でも食事とか…」
「いらねぇっつったろ!つーかもう寝るから、俺。」
ミリアリアは、なす術もなく項垂れた。
 
 
「…おやすみなさい。」
 
 
寝室のドアが、パタンと閉まる。
ディアッカはいらただしげに息を吐くと、布団を頭から被った。
 
 
 
 
 
 
 
 
016

ディアッカ、激怒。

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