9, 喧嘩 1

 

 

 
「ディアッカ、今日は遅くなりそう?」
キッチンで朝食の準備をしながら、ミリアリアがひょこんと顔をだした。
「あー、今日演習あるからなぁ…。時間読めねぇけど、多分遅くなるわ。」
「そう。じゃあ帰ってくる時連絡くれる?ご飯の準備があるから。」
「ああ。」
「お願いね。」
ミリアリアはにこっと笑ってキッチンに消えた。
ぱたぱたと忙しなく動き回る足音が聞こえて来て、ディアッカはくすりと笑った。
 
 
礼拝堂襲撃事件から1週間。
ミリアリアは怪我もすっかり癒え、仕事に復帰した。
心配していたフラッシュバック等も無いようで、すっかりいつも通りの生活に戻ったことにディアッカは心から安堵していた。
 
 
今週末には、ディアッカの生家のあるフェブラリウスで婚約披露の晩餐会が控えており、明後日にユニウスセブンの慰霊式典へ出席した後、二人でそちらに向かわねばならない。
その準備もあって二人はなかなかに忙しい日々を送っていた。
 
それでも、毎日ミリアリアと一緒にいられる。
こーゆーのが、平和ってやつ?
そんなことを考え、ディアッカはまたくすりと笑った。
 
 
 
「んじゃ俺、先に出るわ。ごちそうさま。」
 
いつもはミリアリアの職場であるオーブ総領事館まで一緒に行くのだが、今日は演習の準備もあり、ディアッカは先に出かける事になっていた。
「あ、待って。送るから。」
そう言ってミリアリアも立ち上がる。
「今日は一人で出勤なんだから、気をつけろよ。」
コートハンガーからひょいと取った仕事用のコートを羽織りながらそう言うと、ミリアリアはくすくす笑った。
「10分ぐらいしか歩かないんだから大丈夫。しかも大通りよ?」
「それでも、気をつけろっつーの!」
「はぁい。」
 
 
そう言ってミリアリアが少しだけ背伸びをする。
ディアッカは反対に少しだけ身を屈めて。
二人の唇が重なる。
 
「行ってらっしゃい、ディアッカ」
「…行ってきます」
 
少しだけ照れたディアッカを、ミリアリアはにこにこと手を振って見送った。
 
 
 
「…今日、しかないわよね。」
ディアッカを送り出し、リビングに戻ったミリアリアはぼそりと呟いた。
手早く朝食の後片付けをすると、携帯を取り出しボタンを押す。
『おはようございます、ミリアリアさん』
「おはよう、ラクス。ごめんね、朝早くに。」
 
 
電話の相手はラクス・クライン。
現在プラントで最も強い発言力を持つ歌姫である。
 
 
「今日、演習らしいの。時間はわからないけど、多分遅くなるわ。」
『…ということは、キラも、ですわね』
「そうね。どうする?」
『…ミリアリアさん、今日のご予定は?』
「頑張れば、定時には出られるわ。でも材料を買わなくちゃいけないし…」
『それは、わたくしの方で用意しますわ。』
ラクスが声を潜める。
『キラが、シャワーから戻ってきましたの。』
「了解。じゃあ手短に。とりあえず決行は今日ってことでいい?」
『ええ、構いませんわ。』
「あとで、材料や必要なものはメールするわね。午前中の方がいいかしら?」
『そうして頂けると助かりますわ。』
「了解。じゃ、また後でね、ラクス。」
『ええ、ではまた。』
 
ミリアリアは通話を終えるとキッチンの棚を開け、必要なものを用意していた袋に詰め始めた。
 
 
 
「ミリィ、今日はやけに張り切ってるね。」
サイの言葉にミリアリアはにっこり微笑んだ。
「たくさんお休みして迷惑かけちゃったもの。頑張って取り戻さないとね。
それに、明後日からお休み貰っちゃうし。」
「ああ、フェブラリウスに行くんだっけ?」
「そう。ついに婚約披露パーティーよ。今から緊張しちゃうわ。」
溜息をつくミリアリアに、サイは微笑んで柔らかい癖毛をぽんぽんと撫でた。
「いつものミリィで大丈夫。ディアッカもそう言ってたんじゃない?」
ミリアリアは恥ずかしそうにサイを見た。
「…なんで知ってるのよ…」
「それはほら。特別参事官補佐としてそれくらいはね。」
サイの軽口に、ミリアリアはくすくす笑った。
 
 
 
「こんにちは、ミリアリアさん。」
総領事館の前に黒塗りのエアカーが停まり、窓からラクスが手を振っていた。
「わざわざ迎えに来てもらっちゃって、なんだか申し訳ないわ。」
「いいえ、今日のミリアリアさんはわたくしの先生ですもの。どうぞよろしくお願いいたしますわ。」
そう言ってぺこりと頭を下げるラクス。
「ちょっと!そんな事されたら困るって!顔上げて?ラクス。」
ミリアリアは慌ててラクスの肩に手をかけた。
 
 
 
「ミリアリアさん、『とりゅふ』とはどのように作るかご存知ですか?」
 
 
総領事館を訪れたラクスから突然そう聞かれて面食らったのは、つい先日の事。
聞けば、キラとお茶を飲んでいた時に、キラの母親であるカリダがよく作ってくれたトリュフの話になったらしい。
確かに、カリダのトリュフはとても美味しかった。
ミリアリアも何回かご馳走になったことがあり、どうすればこんな味になるのか散々質問したものだ。
そして、ふと思いついたのだ。
 
「ねぇラクス。プラントでは、バレンタインにチョコを贈るのって、その、不謹慎な事なのかしら?」

 
ラクスはきょとんとした後、合点が行ったように微笑んだ。
「毎年、追悼行事はございますけれど…それとこれとは、やはり別物のようですわね。
不謹慎には当たりませんわ。」
「そうなの。ね、ラクス。バレンタインに、トリュフをキラにあげない?」
 
ラクスは目をまん丸くして、「まぁ」と驚いたように言った。
 
「私も、ディアッカや他のお世話になっている人にあげたいの。
だから、一緒に作らない?」
そう言ってにっこり笑うミリアリアに、ラクスは本当に嬉しそうに微笑んだ。
「ぜひ、お願いいたしますわ、ミリアリアさん」
 
 
 
 
 
 
 
 

016

うちのラクスは、基本ほんわかラクスです。

 

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