口に手を当て、懸命にその時の事を思い出そうとするミリアリアに、黙って話を聞いていたラクスも思わず身を乗り出した。
「あの方?」
「ええ。あの…」
ミリアリアはそこまで言うと、気まずそうな表情でディアッカにちらりと目をやり、思い切ったように話を続けた。
「車の中で、リーダーの男に押し倒された時、だと思うんだけど。
私の上着をその男が破った時に、確か助手席にいた仲間が止めに入ったの。
私に乱暴しようとするのを見て、『あの方に知れたら…』って言ってたわ。」
シホはイザークと目を見交わした。
「そうですか…。では、それ以外は特に身元が分かるような事は言っていなかったんですね?」
ミリアリアはしっかりと頷いた。
「ええ。ごめんなさい、大して役に立てなくて。」
「とんでもないです。こちらこそ、嫌な事を思い出させてしまって申し訳ありません。」
シホの気遣うような視線に、ミリアリアはにっこり笑った。
「もう、大丈夫ですから。ありがとう、シホさん。」
「ミリアリアさん、わたくしからもお礼を言わせてください。
捜査にご協力頂き、ありがとうございました。」
ラクスの一言で、ミリアリアは自分の役目が終わった事を察する。
知らず、緊張していたのだろう。
ほっと息をつくのを、ディアッカに気づかれはしなかっただろうかとミリアリアは気になった。
「DNA鑑定の結果は?」
そうシホに問いかけるディアッカの声に、ミリアリアは顔を上げた。
「あなたも見ていたでしょう?あの爆発で、遺体の損傷が激しくて。
かなり難航しているわ。
時間をかけないと、何とも言えないみたい。」
プラントでは、地球に比べて遺伝子の研究がかなり進んでいる。
DNA鑑定などお手の物だろうに、それすら難しいという今回の出来事に、ミリアリアは微かに震えた。
一歩間違えば、自分もそうなっていたかもしれなかったのだ。
あの夜、ディアッカに抱かれて恐怖から抜け出したつもりでいたけれど。
それでも、ミリアリアの表情は曇ったままだった。
「あの方、と言っていたという事は、あいつらの上に立つ人物がいる、という事だな。」
イザークの言葉に、ラクスも頷いた。
「そのようですわね。それも、かなり地位の高い方でしょう。」
「ラクス、どうして?」
不思議そうに尋ねるキラに、ラクスは微笑んだ。
「キラは直属の上官を『あの方』とは呼ばないでしょう?
例えば…シホさんがイザークさんの事を『ジュール隊長』と呼ばれていらっしゃるように、それなりに近しい間柄であれば名前なり階級なりが必ず出てくるはずですわ。」
「あ…そうか。そうだよね。」
「てことは、あいつらは下っ端で、黒幕はそれなりの地位に就く人物、って訳?」
ディアッカが腕を組み、サイドチェストにもたれかかる。
「そのようですわね。」
ラクスは溜息をつき、椅子に深く座り直した。
「状況は分かりました。ダコスタさん達にもお話を通して、調査にあたって頂きます。
今回の件はそれなりに大きなニュースにもなっていますから、あちらもそうすぐには動く事もないでしょう。
あちらの狙いが何なのか、首謀者が誰なのか。
とにかく今はそこからですわ。」
久しぶりに見る、ラクスの強い意志を宿した瞳。
しかしその瞳は、ミリアリアに向けられた瞬間ふわりと色を変えた。
「ミリアリアさん、この後お時間はございますか?」
「は?え?えっと、あると言えばあるけど…」
ラクスは驚くミリアリアににっこりと微笑み、ディアッカを振り返った。
「ディアッカさん、ミリアリアさんとお茶をご一緒してもよろしいですか?」
「へ?あ、ああ。本人がいいなら…」
ラクスの変わり身の早さに、さすがのディアッカも調子を狂わされる。
「では、この話はこれで。イザークさん、シホさん、ありがとうございました。
ミリアリアさんはどうぞそのままで。
ディアッカさん、お仕事が終わったらキラに連絡をしてくださいな。」
ミリアリアとディアッカは、思わず目を見合わせる。
先に微笑んだのは、ミリアリアだった。
「こんな早くに帰って大丈夫なの?」
数時間後、ラクスのもとに迎えにきたディアッカが運転するエアカーの助手席で、ミリアリアは思わずそう問いかけていた。
「ああ、明日からは普通に行く。お前はどうすんの?」
「私も明日から出勤するわ。体調も悪くないのにそうそう休んでもいられないし。」
ちょうど信号にぶつかり、エアカーが停止する。
ディアッカは、ミリアリアの小さな手に自らの手を重ねた。
「ディアッカ?」
「…ほんとに、平気?」
ミリアリアはその言葉に目を見張った後、困ったように微笑んだ。
やっぱり、ディアッカには嘘をつけない。
でも、心配はかけたくない。
「うん…。少しは思い出して怖くなったけど…。
でも、平気よ。さっきも言ったでしょ?ディアッカがいるんだし、ひとりじゃないから。」
この状況でもいまひとつ素直になりきれないミリアリアに、ディアッカは思わず苦笑した。
まだ、信号は変わらない。
ディアッカは素早い動作で、ミリアリアの唇を奪った。
「俺は、だめかも。」
「…え?」
「帰ったら…いい?」
結局ミリアリアが仕事に復帰したのは、それから二日後の事だった。
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シリアスなつもりが、最後…(笑)
ミリィの出勤予定がずれたのは、はい、察してください(笑)
2014,6,24up