ミリアリアの熱は、ディアッカの甲斐甲斐しい看護のおかげもあり、2日ほどで下がった。
医療の知識があると以前言っていたのはあながち間違いでもないようで、ディアッカの的確な判断と処方に、ミリアリアは内心驚いていた。
「ほんとに大丈夫か?辛かったら別の日にするぜ?」
ミリアリアはディアッカに連れられ、ザフト本部に来ていた。
今回の事件を重く見たラクスが、改めてミリアリアに話を聞きたいと申し出たからだ。
「大丈夫よ。もう痛いところもないし、熱だって下がったし。
これ以上仕事も休めないしね。ちょうどいいわ。」
そう言ってにっこり笑うミリアリアは顔色も戻り、足取りもしっかりしている。
「ならいいけどさ…。辛くなったらすぐ言えよ?」
「うん、ありがとう。」
ディアッカが内心危惧しているのは、フラッシュバックだった。
ダストコーディネイターの件で過呼吸の発作を起こすようになったミリアリア。
AAで再会して以来大きな発作は起こしていないようだったが、今回の事もミリアリアには大きなショックだっただろう。
いつも自分より周りを優先させて、我慢を重ねてしまうから。
気持ちを汲み取ってやりたい。
「…大丈夫よ。ほんとに。」
ミリアリアの言葉に、ディアッカはびくりと体を強張らせた。
「ディアッカがそばにいるんだもの。フラッシュバックなんて起こさないわよ。
…忘れさせて、くれたし。」
自分で口にしておきながら顔を赤らめ俯くミリアリアを、ディアッカは呆けた顔で見つめ、ゆるゆると息を吐いた。
くしゃり、と柔らかい癖毛を撫でる。
「お前って、たまに鋭いよな」
「たまに、って何よ」
「かなわねぇな、って事。」
「…意味分かんない…」
ミリアリアはまだ頬を赤らめたまま、首を傾げた。
「こんにちは、ミリアリアさん。
お加減はもうよろしいのですか?」
本部の最上階にある、特別に用意されたラクスの執務室。
停戦後、何かと軍関係の用事が多い事から特別に用意されたものだとミリアリアはディアッカから聞いていた。
「こんにちは、ラクス。
もう熱も下がったし、大丈夫。ありがとう。」
ミリアリアは笑顔で頷き、勧められるままソファに腰を下ろした。
室内にはキラ、アスラン、イザークにシホが控えている。
ディアッカはラクスと軽い挨拶を交わし、イザーク達のもとへ歩みを進めた。
「それでは、今回の事件の経緯をまずご説明させて頂きます。
シホさん、よろしいですか?」
ラクスの涼やかな声が、部屋に響いた。
「じゃあ、犯人はあの爆発で…。」
「はい。ミリアリアさんが脱出してすぐ燃料に引火し、エアカーは炎に包まれました。
間一髪、でしたね。」
シホの落ち着いた声に、ミリアリアは苦笑した。
「ドアを開けた時に燃料が漏れてる臭いがして、引火するかもって思って咄嗟に飛び出したの。
ガードレールの向こうを確認する余裕もなかったわ。
崖とかじゃなくてよかったけどね。」
ディアッカは無表情で話を聞いていたが、内心は嵐が吹き荒れていた。
ミリアリアの機転で今回は無事にすんだが、この先も同じような事がないとは限らない。
停戦しても、すぐに平和がやってくる訳ではないのだ。
隣に立つイザークも、難しい顔をしながらシホとミリアリアの会話を聞いていた。
「被疑者死亡という事で、今回の事件において犯人と直接会話を交わしたのはミリアリアさんだけという事になります。
嫌な事を思い出させてしまって本当に申し訳ないのですが…。
何か、彼らについて手がかりになるような事を聞かれたりはしませんでしたか?」
シホの言葉にミリアリアは首を傾げ、しばらく思案していた。
「あの人達…、お互い名前も呼び合ってなかったし、車に乗せられてからは私に構ってる場合じゃなかったから…。
リーダーっぽい男とも、会話らしい会話はほとんどしなかったわ。
地下道で言い合いになったくらいで。」
「地下道ではどんな話を?」
「婚姻統制の事とか、あとはナチュラルを嫌悪するような内容の罵倒?
ほんとに、そのくらいしか話してないの。」
「では…」
ミリアリアは申し訳なさそうにシホに頷いた。
「ええ。身元が分かるような事は何も聞いてない、けど、あ…。」
「どうしました?」
何か思いついたようなミリアリアの表情に、シホは驚いてそう問いかけた。
「あの方、って…言ってた…。」
「あの方」についてはこれから少しずつ話が進みます…。この長編では正体まで明かされないかも。