翌朝。
結局あれからシャワーだけ浴びたものの寝室に行く勇気が持てなかったミリアリアは、リビングの大きなソファでブランケットに包まったままうとうとと眠ってしまった。
床に置いたバッグから微かに聞こえる携帯のアラームにびくりと飛び起きたミリアリアは、慌ててそれを止めると寝室に走って行った。
「ディアッカ…」
ミリアリアは寝室のドアを開け、呆然と立ち竦んだ。
ベッドには、誰もいなかった。
「サイ、これ。」
サイは書類から顔を上げ、驚いたようにミリアリアを見上げた。
「…もしかして、バレンタイン?」
「うん。昨日ラクスの家で一緒に作ったの。アマギ館長の分もさっき渡してきたわ。」
「あ、そっか。ミリィ明日の昼から休みだもんね。」
「うん。」
「追悼式典に出てから行くの?」
「…うん。」
昨日とは打って変わって浮かない表情のミリアリアに、サイは首を傾げた。
「…ミリィ、困った時は溜め込まないで相談。約束だったよね?」
ミリアリアは、きゅっと唇を噛み締めた。
「…で、朝起きたらもう彼はいなかった、と。」
「うん…」
サイはその打ちひしがれた姿に苦笑した。
「でもまぁ、確かに怒るよね。相当心配だっただろうし。」
「うん…」
「ミリィ、今日はもう帰りな。」
「うん…って、え!?」
ミリアリアが顔を上げると、サイの優しい笑顔がそこにあった。
「大丈夫。ディアッカもきっと今頃いろいろ後悔してるよ。
それより、そんな事があったんじゃ明日の準備もしてないんだろ?
今日はもう帰って、出かける支度して、ディアッカの好きなものでも作って待っててあげな?」
「サイ…」
「館長には俺が言っとくから。ね?
せっかくの婚約披露パーティーなんだし、最初が肝心!だろ?」
ミリアリアは、弱々しく微笑んだ。
「うん、ありがとう、サイ」
「…珍しいな、呼び出すなど」
ザフトからほど近いオープンカフェ。
イザークは、しょんぼりと俯くミリアリアに苦笑すると、向かいの席に座り紅茶を注文した。
「…イザーク、これ」
「…何だ?俺にか?」
「うん。あの、バレンタインだから。いつもディアッカがお世話になってるし、良かったら…」
イザークは、そっと差し出された包みを受け取った。
「頂こう。気を使わせて悪かったな。ありがとう。」
ミリアリアはその言葉に、弱々しく微笑んだ。
「…ディアッカ、お仕事来てる?」
イザークはその言葉に、朝から不機嫌丸出しの親友を思い出してまた苦笑した。
「ああ。やけに早くから来て、がむしゃらに仕事をこなしてるな。」
「…そう、なの。ならいいんだけど…」
「何かあったのか?」
イザークは優しく問いかけた。
ミリアリアは、ますます小さくなって俯いた。
「…なるほど。それがこのトリュフ、というわけか。」
イザークの手には、昨日ミリアリアとラクスが作ったトリュフ。
「うん。」
イザークは優しく微笑んだ。
「私、ディアッカがあそこまで怒るなんて思わなくて…。取りつく島もないってああいうことを言うのね。」
「まぁ、あいつの過保護は今に始まった事ではない。
それだけ心配もしたし、お前の事が大事なんだろう、あいつは。」
ミリアリアがはっと顔を上げる。
「愛情の裏返し、というやつではないのか?
せいぜい今日は、あいつの好物でも作ってやるんだな。」
「…サイと同じこと言うのね、イザークも。」
ミリアリアは困ったように微笑んだ。
シホの分もイザークにトリュフを託し、ミリアリアはアパートに戻った。
イザークの話によれば、ディアッカはあと数時間しないと帰らない、との事だった。
誰もいない部屋に入り、軍服からルームウェアに着替えてミリアリアはキッチンに立つ。
なんとなく寂しくなって、溜息をついた。
ディアッカも昨日、同じように感じていたのだろうか。
そう思うと、ミリアリアの胸がきりきりと傷んだ。
ディアッカを怒らせてしまった事、心配をかけてしまった事を深く反省するミリアリア。
次はディアッカ視点です。
2014,6,25up