ミリアリアは咄嗟にドアの手すりを掴み、体を丸めて衝撃に耐えた。
そろそろと顔を上げると、男は額から血を流して呻いており、車は反対車線のガードレールに寄り添うように止まっている。
今なら逃げられる!
ミリアリアは痛む体に鞭打って、スライドタイプのドアを開けた。
途端に、オイルのような匂いがミリアリアの鼻を突く。
これは、確か…!
ミリアリアはとっさの判断で、ガードレールの向こう側に飛び込んだ。
次の瞬間。
ミリアリアの背後で、車から大きな炎が舞い上がった。
「ディアッカ、だめだ!今は近づくな!」
「ふざけんな、離せ!あいつがまだ中にいるんだ!」
ディアッカはアスランに羽交い締めにされながら、ごうごうと燃える車を見つめていた。
シホが呼んだのだろうか、程なくして消防隊が到着し、あっという間に消火が進んで行く。
その間もディアッカは、アスランの腕を振りほどこうともがいていた。
「アスラン、離せ!離せって!」
「だめだ!」
「俺の命より大事なんだよ、あいつは!だから行かせろ!頼むから!」
ディアッカの絶叫に、アスランの表情が歪む。
「…カ…」
二人の近く、沈痛な表情で俯いていたシホが顔を上げる。
「…ディ…た…て」
「…ザラ隊長、車の用意を!エルスマンはここで待っていて!」
そう言うとシホは車に向かって駆け出した。
黒焦げになった車の脇に回り込み、ガードレールの下を覗き込む。
「エルスマン!早く!」
シホの声に、アスランはディアッカから腕を離した。
ディアッカが飛ぶようにシホの呼ぶ方へ走る。
シホに促され、ガードレールの下を覗き込むと。
「たすけて、ディアッカ…」
それは、ディアッカを呼ぶ愛しい婚約者の声。
小さく縮こまり、耳元を両手で抑えて震える、ミリアリアの姿がそこにはあった。
「ミリィ!ミリアリア!」
ディアッカはガードレールをひらりと飛び越えると、ミリアリアのすぐそばに降り立った。
そのままの勢いで、ミリアリアを力一杯抱きしめる。
「ミリィ…良かった…」
ミリアリアは、よほどショックが大きかったのだろう。
ディアッカの腕の中でがたがたと震えている。
それでも、ぎゅっと閉じていた碧い瞳をそっと開いて、ずっと呼び続けていた名前を呟いた。
「…ディアッカ…?」
「ごめんな、おそくなった。」
そう言ってディアッカは、きつく抱きしめたままミリアリアの髪を撫でた。
ディアッカが、来てくれた。
ミリアリアは安堵のあまり、しばしぼんやりとディアッカに抱かれるままになっていたが、落ち着きを取り戻すにつれて先程の男にされた様々な行為を思い出した。
「だめ…!」
ミリアリアは、突然ディアッカの胸を押して自分から体を離す。
「ミリィ?どっか痛かったか?」
そう問いかけるディアッカの顔を、ミリアリアは見ることができない。
俯いたまま、男から奪ったものを差し出す。
「…これ、爆弾のスイッチ…」
「スイッチ?!なんでお前がこれを?」
「さっき、車の中で…あの男の胸ポケットから、取ったの。早くこれ持って、礼拝堂に…」
ディアッカはミリアリアの様子がおかしいことに気づいた。
そして、ディアッカの後から降りてきたシホも、その様子に気づいていた。
「ミリィ?」
ディアッカは、どこか怪我でもしたかとミリアリアの姿を上から下まで見やる。
そして、その服がひどく乱れていることに気づき、顔色を変えた。
「お前、服…」
ミリアリアはその言葉にびくりと肩を揺らせ、そしてまたがたがたと震え始めた。
「わたし…嫌って、言ったの…。でも…爆弾…」
ディアッカは、俯いて黙り込むミリアリアの首筋にごく薄く残る赤い痣を見つけた。
目の前が白くなり、かぁっと、頭に血が上る。
「…あいつに、何をされたっ?!」
ディアッカの怒声に、またミリアリアが肩を震わせた。
「ごめん、なさい…」
「エルスマン!」
シホはたまらずディアッカに声をかけた。
目で、これ以上はいけないと訴える。
「あなたは隊長に連絡を。それと病院の手配をお願い。ミリアリアさん、立てますか?」
シホはきびきびと指示を出し、ディアッカを意図的にミリアリアから離させる。
「…顔を殴られているようです。軍服は、地下から出て来た時既に乱れていました。
とにかく今は無理よ。彼女の気持ちを考えて。」
すれ違いざまに小声でそれだけ伝えて。
「さぁ、行きましょう?ミリアリアさん。」
立ち尽くすディアッカをそのままに、シホはミリアリアに手を貸し、アスランの待つ車へと向かった。
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とっさの機転で無事に脱出したミリアリア。
それにしてもうちのミリィは、怪我が多いです・・・。