ミリアリアはエルスマン家系列の病院に搬送され、そこで一通りの診察を受けた。
ディアッカはイザークとともに病院に駆けつけたが面会は許されず、シホが事情聴取を行った。
「シホ!あいつは?」
ミリアリアの病室から出てきたシホを待っていたのは、ディアッカとイザークだった。
「…静かに、エルスマン。場所を変えましょう。」
そう言うとシホは、イザークに目礼をして談話スペースまで歩みを進めた。
「…まず、彼女の状態から説明します。」
「…ああ、頼む。」
シホは無表情で口を開いた。
「地下道で犯人と言い争いになり、その時顔を殴られたそうよ。
ただ、咄嗟に両手で顔を庇ったそうで、その際に両手首を打撲。
顔自体は、耳のあたりに痣が出来た程度で済んでいるわ。」
ディアッカの拳がきつく握りしめられる。
「あとは、逃走車両に同乗した時にあちこちぶつけた傷。
車が停止してから炎上までの間に、咄嗟にドアを開けて飛び降りたと言っていたから、その時についた擦り傷。
怪我と言えばそれくらいね。
車のドアがスライドタイプだったのは幸運だった、と言っていたわ。」
「…それで?」
ディアッカは低い声でシホに問いかける。
「さっきのあいつの乱れた衣服。それについては何て?」
シホは、きつい眼差しをディアッカに向けた。
「…エルスマン、あなた彼女に婚姻統制について何も話をしてないの?」
ディアッカは驚いた顔でシホを見た。
「…何の話だ?」
シホは苛ただしげに溜息をついた。
「彼女は、犯人からこう言われたそうよ。
あなたには、法で定められた、遺伝子上相性の良いコーディネーターの女性がいる、と。」
ディアッカが言葉を失った。
「おい、ディアッカ…」
それまで黙っていたイザークが、訝しげに言葉を発した。
「…確かに、データ上そういう相手もいた。
ただ、適合率はかなり低くて、最低ラインを割ってたって聞いてる。
それでも婚約話が出たのは、エルスマンの名が目的だったらしい。」
シホは真剣な眼差しでディアッカの話を聞いている。
「先の大戦で三隻同盟に加担した俺は当時MIA扱いになった。
その時に婚約めいた話は解消されているはずだ。親父もそう言っていた。」
「私達にはそれで通じても、その仕組み自体よく知らない彼女に通じると思う?
なぜ、結婚を申し込む前にきちんと話をしておかなかったの?!」
シホが声を荒げた。
「自分以外にも婚約者がいた、そう勘違いされても仕方のないことをしたのよ?あなたは。」
ディアッカは困惑の表情を浮かべた。
「そんな…」
シホは立ち上がった。
「それと。同じ女性として誤解のないように言っておくけど。
彼女、あなたを裏切るような行為はしていないわ。」
「え?」
「…こういう言い方はしたくないけれど。
地下道で犯人と言い争いになった時と逃走中の二回、彼女は逆上した犯人に乱暴されたそうよ。」
その言葉に、ディアッカは絶句し、イザークが思わず立ち上がった。
「一度目は…下着を外されて手を入れられた時にたまたま迎えの車が到着。
二回目は押し倒されて上着を破られたのと、首を締められただけで済んだそうよ。
…犯されかけた、は大袈裟かもしれないけど。でも、それでも。」
シホは悲しそうに顔を歪めた。
「あなたの目の前で、キスまでされたんでしょう?その上、途中までとはいえそんな目にあって。
…ほんとに真面目な人なんでしょうね。彼女は今、あなたへの罪悪感でいっぱいなの。
だから、あなたの顔も見れなかったし、あなたに優しくされる権利がない。会いたくない。
そう、言っていたわ。」
その言葉に、ディアッカは頭を抱え椅子に沈み込んだ。
「…婚姻統制の件、そして今説明した件。二人でよく話をすることね。
表現が露骨でごめんなさい。でも私が出来るのはここまでよ。」
そう言うと、シホはくるりとディアッカに背中を向けた。
「隊長、私はここで失礼します。」
「…もう遅い。送ろう。」
イザークは、一瞬何かを考えた後そう言うとディアッカを振り返った。
「明日、休みをやる。ミリアリアと話をするもどうするも、お前が考えて決めろ。」
「…サンキュ、イザーク、シホも。」
ディアッカは俯いたまま、ぼんやりとそれだけ口にした。
2014,6,23up