人質 2

 

 

 

「ラクス!下がって!」
ミリアリアは咄嗟にラクスを背中に庇った。
「無駄だよ。ハウ報道官。」
  
ミリアリアは、その低い声にびくりと振り返った。
そこにいたのは、評議会の文官服に身を包んだ見知らぬ男だった。
手にした拳銃はこちらをピタリと向いている。
 
「ラクス様、私たちとご同行願えますか?」
「…なぜ、ですか?
まずは理由をお伺いしない事には、何ともお答えできませんわ」
ラクスはミリアリアの後ろに立ち、毅然とそう言い放った。
 
「あなたの一言でプラントの世論は動く。
私どもは、コーディネーターの未来を憂いているのです。」
 
ラクスは、男をじっと見つめ、首を傾げた。
「…あなた方は、いわゆるザラ派、なのですか?」
ラクスの言葉に、ミリアリアは目の前の男に険しい視線をむけた。
 
「我々はナチュラル完全排斥論者ではない。
しかし、ナチュラルとの完全融和にも疑問を感じている。
これで、ご質問の答えになりますか?」
「…抽象的な表現をなさいますのね。答えになっておりませんわ。」
ラクスは尚も、毅然とした態度と口調を崩さない。
 
 
「ナチュラルとコーディネーターは、同じ人間かもしれません。
しかし、対等ではない。」
「な…!」
ミリアリアが思わず声を上げる。
男が、ミリアリアに視線を移した。
 
 
「ミリアリア・ハウ報道官。オーブ出身のナチュラル。
頭脳明晰で、二度の大戦では不沈艦AAのCICとして活躍、またジャーナリストとしての顔もお持ちと聞く。
そして、あのエルスマンのご子息の婚約者、でもあらせられる。」
 
「…それが、何だと言うの」
ミリアリアは咄嗟に表情を殺したが、内心驚きを隠せずにいた。
なぜ、自分の経歴がここまで調べあげられているの?
 
 
「…ナチュラルにしては、確かに愛らしい造作だ。
しかし出自もはっきりしないナチュラル風情が、プラントの御曹司の婚約者とは。
どのようにエルスマンの子息を誑かしたのか、非常に興味がありますな。」
ミリアリアの碧い瞳が、怒りに見開かれた。
「おやめなさい。彼女をこれ以上侮辱することは、このわたくしが許しません!」
ラクスが表情を変えた。
 
「大丈夫よ、ラクス。
こんなやつの言葉くらい、どうってことないわ。」
ミリアリアはラクスを背に庇いながら、男をきつく睨みつけた。
 
 
「今の評議会の政策が気に入らないなら、こんなテロまがいのやり方じゃなくても方法なんていくらでもあるでしょう?
それとも何?あんた達は、ナチュラルをコーディネーターの奴隷にでもしたいわけ?」
 
 
男の表情が変わった。
「分かったような口を聞く。可愛い顔をしていても、やはり中身は野蛮なナチュラルか…」
そう言うと男は、胸元に手を入れ何かのスイッチを取り出した。
そしてラクスに向き直る。
 
 
 
「この礼拝堂に、爆弾を仕掛けさせて頂きました。
大した規模ではないですがね。
しかしこのスイッチを押せば、即座に爆発が起きる仕掛けです。
少なくとも講堂にいるザフト兵たちは、全員瓦礫の下でしょう。」
ラクスとミリアリアが、驚愕の表情を浮かべる。
 
 
 
「何という事を…。
この礼拝堂は、戦死者の為のものです!
あなた方は、死者を悼む気持ちすらお持ちではないのですか?!」
 
男は肩を竦める。
「とんでもない。ただ我々は、その死者を悼むべき礼拝堂に、ナチュラルの手が入ることが我慢ならないのですよ。」
ラクスは悲しげな表情になった。
「オーブからの資金援助と技術協力、そのことを仰っているのですか?」
「さすがラクス・クライン嬢。察しがよろしいですな。」
そう言うと男は、不意にこちらに近づきミリアリアに手を伸ばした。
 
「きゃ…!」
「何をなさいますか!」
「ラクス様には、別のものが付き添います。さあ、こちらへ。」
いつからいたのだろう、物陰から別の人物が現れた。
ラクスはあっと言う間に捕らえられ、動くことが出来ない。
 
男は暴れるミリアリアの体を自らの腕で抑え、耳元で囁いた。
「お前は人質だ。ザフト兵とラクス様、どちらにも使える、な。」
「なん…ですって」
「ラクス様をお連れしろ!丁重にな!」
「ラクス!」
思わずそう叫んだミリアリアに、ラクスはなんといつものように微笑んだ。
 
「わたくしは大丈夫ですわ、ミリアリアさん。」
 
「ラクス…」
ラクスは笑みを消すと、男に厳しい視線を向けた。
「ミリアリアさんに何かなさったら…わたくしは、あなた方を許しません。」
男はその言葉に冷笑を浮かべた。
「お前はこっちだ。さっさと歩け!」
そうしてミリアリアはラクスと離され、男に引き摺られるように講堂まで連れて行かれた。
 
 
 
 
銃声が激しく響く中、イザークにシホから無線が入った。
『隊長!犯人が一人、人質とともにこちらに向かって来ます!』
「人質?まさかラクス様か?!」
シホが一瞬、言葉を詰まらせた。
 
『…いえ、ミリアリアさんです。』
 
「…了解した。通せ。」
イザークは、ディアッカの方を見ず、無線の通信をオープンにした。
 
「全隊員に通達!
犯人一名が人質とともに講堂に向かっている!
ラクス様の行方は未だ不明!
堂内の隊員はそのまま待機!礼拝堂の外の隊員は、引き続きラクス様の捜索にあたれ!」
 
一気にそこまで言いきり、通信を切る。
「おい、イザーク」
「ディアッカ。黙って聞け。」
イザークはディアッカを見ず、淡々と告げた。
 
 
「ミリアリアが人質に取られた。
今犯人とこちらへ向かっている。」
 
 
ディアッカは言葉を失った。
 
 
 
 
016
 
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2014,6,22up