1,人質

 

 

 

その銃声は、重厚な扉の向こうから聞こえてきた。
部屋の中が一瞬しんとなり、次に怒号とたくさんの足音が響く。
 
 
「ラクス様たちを安全な場所へ!」
 
 
イザークの声が鋭く部下に命令を下す。
ミリアリアは無意識にディアッカの姿を探した。
 
「ミリアリアさん、早くこちらへ!」
ラクスがミリアリアの腕に手をかけた。
 
 
 
ディアッカと正式に婚約しておよそひと月と少し。
ミリアリアはオーブの報道官として、戦死者の為に設立されたこの礼拝堂での式典に列席していた。
 
「ミリィ!早くラクス嬢と逃げろ!」
ミリアリアは銃を片手にこちらへ駆け寄るディアッカの姿に、ほっとした表情を一瞬見せる。
 
「ディアッカ、気をつけてね。」
「そんな簡単にやられねぇよ。」
 
こんな時なのに、ディアッカは微笑んだ。
ミリアリアは泣きそうな顔で頷くと身を翻し、ラクスとともに部屋を出た。
 
 
 
「ラクス様、ハウ報道官!こちらです!」
ともに式典に参加していた文官が、少し遅れて走る二人を手招きした。
「ラクス、大丈夫?」
ラクスはいつもの丈の長い衣装で、走りにくそうにしている。
ミリアリアもオーブ軍の礼装を身に纏っているが、インナーのデザインが少し違うだけでそれ以外はほぼ一緒のデザインだった為、動く事に不自由はなかった。
「ええ、わたくしは大丈夫です。それより…」
「ラクス、今は安全な場所に逃げましょう。気になることはそれから考え…」
そう言って角を曲がったミリアリアの目に、床に昏倒する文官の姿が映った。
 
 
「ディアッカ、ラクス様達は?!」
イザークが机の影から銃で敵を牽制しつつ、ディアッカに確認する。
「文官たちと一緒に、用意した車までもう向かってるぜ!シホが後を追ってる!」
イザークはほっと息をつく。
「では、俺たちの任務はこいつらの検挙だけだな。」
「ああ。…ったく、どこから湧いてくるんだよこいつら!」
ディアッカはそんな悪態をつきながら、ドア付近に向けて的確に銃を打ち込み、相手の動きを止めて行く。
 
 
『隊長!シホです』
イザークの耳に付けた無線機に、シホから通信が入る。
「どうした?」
『やられました。文官が2名、出口近くに倒れているのを発見。ラクス様とミリアリアさんの姿がありません!』
「…!なんだと!?」
その声にディアッカが振り返る。
 
『本日の参加予定者ですが、文官は2名との届けが出されています。
しかし、ラクス様達と一緒に逃げた文官は3名いた、と隊員から報告がありました』
「…ここには確かに2名しか文官はいなかった。
くそっ、途中に待機して合流されたのか!」
 
イザークは無線をオンにし、全ての隊員に指示を出した。
 
 
「全隊員に通達!
ラクス様とハウ報道官が敵に誘拐された可能性が浮上!
各隊員は礼拝堂内とその周辺をくまなく捜索、何かあればすぐ報告を!」
 
 
ディアッカの脳裏に、先程見たミリアリアの泣きそうな顔がよぎった。
 
 
 
 
 
 
016
 
長編3作目、スタートです。
いきなり事件発生。
 

 

 

2014,6,22up