2,交渉

 

 

 

ミリアリアと男が講堂に入ると、いくつもの拳銃がこちらを向いていた。
正面には、拳銃を手にしたイザークの姿がある。
ミリアリアはディアッカの姿を無意識に探していた。
 
ディアッカは、講堂の奥に立ち、拳銃を男とミリアリアに向けていた。
その紫の瞳には、冷たい怒りが浮かんでいる。
 
 
爆弾の存在を、どうやって知らせればいい!?
ミリアリアは、今すぐ逃げて、と叫びたい気持ちを必死に堪え、震える足に力を込めた。
 
 
「随分と仰々しい出迎えだな。」
「無駄話をしている暇はない。そちらの要求を聞こう。」
イザークの冷たい声。
ミリアリアの背後で、男がくすりと笑った。
「まずはラクス・クライン評議会議長が我々の本拠地に無事到着するまで、邪魔をしないで頂きたい。
今後の要求はその後改めて声明を出させて頂く。」
 
 
「断る、と言ったら?」
 
 
不意にディアッカが口を開いた。
「ディアッカ!黙っていろ!」
イザークの鋭い声。
男の目が、愉悦の表情を浮かべた。
 
 
「あなたが、ディアッカ・エルスマン…?
そう言えば、貴殿はジュール隊の副官でしたな。
ということは、そちらがイザーク・ジュール隊長でいらっしゃる?」
「いちいち名乗る必要もないだろう。要求はそれだけか?」
イザークは素っ気なく応じた。
 
「まずは、それだけです。
ああ、こちらのかわいらしいお嬢さんもこのままご同行頂きます。」
ミリアリアが思わず男を振り返る。
「彼女はただの報道官だ!連れて行く必要もないだろう!」
イザークのその言葉に、男はまた冷笑を浮かべる。
 
 
「必要ならありますよ。
私が、個人的にこのお嬢さんに興味があるからです。」
その言葉を聞き、ディアッカの瞳が怒りに燃えた。
「具体的には、ナチュラルが、どのようにしてザフトの高官を誑かしたのか、とても興味がありましてね。
ぜひ本人からお聞きしたい。ゆっくりとね。」
ミリアリアの顔が恐怖に強張り、ディアッカの全身から怒りのオーラが立ち昇る。
 
「ナチュラルの血を、由緒あるコーディネーターの血と交わらせる訳にはいきませんからね。
エルスマン副官。あなたにはもっと相応しいお相手がいるはずだ。
何のための婚姻統制です?」
「え…?」
ミリアリアが小さく声をあげ、ディアッカに目を向けた。
男がミリアリアの耳元で小さく囁いた。
 
 
「彼には、法で定められた、遺伝子上相性の良いコーディネーターの女性がいる、と言う事ですよ。簡単に言うとね。
それがプラントの『婚姻統制』です。」
 
ミリアリアの体から力が抜けた。
 
 
男はその様子に内心ほくそ笑む。
要は、自分たちがここを出るまでジュール隊の動きを鈍らせる事が出来ればいいのだ。
このナチュラルは、適当に慰み者にでもして、不要になれば殺すなりなんなりして捨てていまえばいい。
『あの方』も、その位は許して下さるだろう。
 
男は、ディアッカに向き直る。
「どんなに優秀でも、このお嬢さんは所詮ナチュラルです。
まぁ、ナチュラルにしては勿体無いくらいの容姿と頭脳ですがね。」
「てめぇ…ミリアリアを離せ。今すぐ!」
「撃ちますか?離さなければ。」
男の手が胸元に伸びる。
それに気づいたミリアリアは、思わず声をあげた。
 
 
「だめ…!ディアッカ!」
 
 
男は突然手を振りほどこうともがき始めたミリアリアを、ディアッカに見せつけるよう自らの腕に絡め取る。
「ラクス様も、無事出発したことでしょう。我々も、失礼するとしましょうか。」
その言葉に、イザークの拳銃の安全装置が外れる音が重なる。
 
「…何かすれば、このお嬢さんを殺します。
いくら興味があるとはいえ、たかがナチュラルを、自分を犠牲にしてまで手に入れたいわけではありませんからね。」
 
きっぱりとした男の言葉に、イザークの動きが止まった。
 
 
「行きますよ」
そう囁くと、男はミリアリアを促した。
「逃げられると思っているのか!」
イザークの鋭い声に男は振り返ると、くすりと笑った。
「彼女が、どうなってもいいと?」
その言葉に、イザークは鋭い視線で男を睨みつけた。
 
 
 
 
ミリアリアは、回らない頭で必死に考えていた。
婚姻統制?定められた相手?
ああ、今はそんな事より爆発を食い止めなければ、ディアッカ達の命が危ない!
 
 
「…動かないで、イザーク。ディアッカ。」
 
 
ミリアリアの言葉に、イザークだけではなくディアッカも目を見開いた。
「この人の、言う事を聞いて。おねがい。」
ミリアリアの絞り出すような声に、男は眉を上げた。
「さすが、頭のいいお嬢さんだ。賢明な判断ですね。…ご褒美をあげましょうか」
 
そう言うと男は、ミリアリアをいきなり自分の方に向かせ、華奢な肩をぎゅっと掴む。
そして、ディアッカの目の前で。
 
 
 
その唇を、奪った。
 
 
 
ミリアリアは、あまりの事に目を開けたまま、体を強張らせる。
嫌悪のあまり抵抗しようとするが、その瞬間男の胸元に隠された爆弾のボタンと先程の婚姻統制の話を思い出した。
ミリアリアの目が閉じられ、両の拳が、唇を重ねられたまま震えながらぎゅっと握られた。
 
 
 
「…ではご機嫌よう、ジュール隊長。エルスマン副官。」
男はミリアリアの唇から顔を離すとディアッカを見てにやりと笑い、呆然と立ち尽くすミリアリアの腕を取ると素早くドアから消えた。
ミリアリアはこちらを振り返る事なく、男に引き摺られる様に連れて行かれる。
「追え!出口を固めろ!」
ミリアリアが消えた途端、イザークが無線で外の隊員に指示を出す。
そして自らも拳銃を手に出口に向かった。
 
 
「…出口はもう固めてあるはずだ。どこかに別のルートがあるんじゃないか?」
 
 
イザークはびくりとして振り返る。
全く気配を感じなかったが、すぐ後ろに、ディアッカがいた。
その瞳は、イザークが見たことのない程の怒りを湛え、揺れている。
「…シホに指示を出す。お前も出ろ。」
「当然だろう?」
いつもの口調と違う、ディアッカの低い声。
 
「…あいつは絶対に渡さない。取り戻す。」
「…当たり前だ。行くぞ!」
二人は部屋を飛び出した。
 
 
 
 
 
 
016
 
目の前でミリアリアの唇を奪われてしまったディアッカ。
自分の知らなかった婚姻統制の話を聞かされ、ショックのままに屈辱を受けたミリアリア。
始まって早々、急展開が続きます…。
 
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2014,6,21up