「…クローゼット、絶対これ入れたらぱんぱんよ…」
あのあと、結局一緒に買い物に出掛けたディアッカとミリアリアは、やはり市民たちの注目を一身に集めた。
内心、何か起きたらどうしようとビクビクしていたミリアリアだったが、街行く人に祝いの言葉を掛けられ、立ち寄った店では花束まで貰い、帰り道ではすっかり笑顔になっていた。
そしてそんなミリアリアを優しい表情で見つめるディアッカは、宣言通りミリアリアに似合う服を選ぶべく、存分に力を発揮した。
ミリアリアを連れてあちこち周り、必要なもの、これから必要になるものをあれこれ見繕い、ミリアリアの目の前に積み上げていく。
「…ドレスなんていつ着るのよ?」
「うーん、割とすぐ?」
「すぐ?」
ディアッカは困ったように視線を泳がせた。
「…一応、うちの親父は評議会議員な訳でさ。
俺の実家があるフェブラリウスでは、そこそこの名士な訳だ。
ついでに、多分聞いてないだろうけど、親父ってフェブラリウス市の市長もやってんのね。」
ミリアリアの目が点になる。
「…嘘でしょ」
「嘘ついてどうするよ。
で、そういう立場上、俺達の婚約披露のパーティーやら何やら、今後は嫌でも催されたりする訳。
そん時お前、オーブの軍服で行くの?それともラクス辺りに服借りる?」
ミリアリアは少しだけ考え、がくりとうなだれた。
「軍服はともかく、ラクスの服はちょっと…」
「…まぁ、色々な意味で、無いわな。」
そう。あれは色々な意味で、ラクスにしか、多分無理だろう…。
ディアッカとミリアリアは、何故か同じ事を思って溜息をついた。
「てな訳で、はいこれ試着。あ、最低3着は選べよ?同じドレス姿ばっかって訳にもいかねぇし。」
ミリアリアはその言葉に、軽い目眩を覚えたのだった…。
「こんなに祝福されるなんて、なんだかびっくりよね…。」
ミリアリアはディアッカの運転するエアカーの助手席で、溜息を漏らした。
「まぁな。ほんとなら、今日発表だったんだよな。」
ディアッカの言葉に、ミリアリアは慌てて携帯を取り出して画面を見た。
「嘘…今日ってクリスマスイブ?」
今度はディアッカが溜息をつく番だった。
「日付の感覚見失い過ぎだろ、お前…」
「あー…間に合わなかったかぁ…」
「え?何が?」
噛み合わないミリアリアの呟きに、ディアッカが反応する。
「あ、うん。オーブからの荷物の話!まぁ無理よね、定期便すら無いのに。」
上ずった声でそう答えるミリアリアを、ディアッカは訝しげに見やった。
「あ、不在通知!良かった、転送依頼かけてて…」
荷物を置いてポストを覗いたミリアリアが声をあげた。
「オーブからの荷物じゃねぇ?」
「そうみたい。今から連絡すればいいかな?」
「だな。まだそれほど時間も経ってねぇし。」
「うん!」
ミリアリアは急いで業者に連絡を入れ、再配達を手配した。
「…とりあえず、こんなもん?」
買って来たもの、オーブからの荷物それぞれの片付けがようやく終わり、ディアッカがどかりとソファに座り込む。
「うん。何とか生活出来るかな?これで。」
「じゅーぶん。つーか、ベッドとミリィだけでいいって言ったろ?」
「きゃあ!」
ディアッカはミリアリアをぐいと引っ張り、膝の上に乗せた。
「ちょっと、何してるの!足、まだ無理しちゃ…」
「堪能してんの。お前を。」
ディアッカの声が艶を帯びる。
その声にはっとしたミリアリアは、ディアッカを見下ろす形で頬を赤らめた。
ディアッカの手が、ミリアリアの髪に触れる。
その手が微かに震えていることにミリアリアは気がついたが、何か言う前に頭を引き寄せられ、ディアッカの唇がミリアリアのそれをそっと塞いだ。
長い、長いキス。
ディアッカの唇が離れると、ミリアリアは微かに震え、吐息を漏らした。
「…やっぱり、怖い?」
ミリアリアは微笑んで首を振った。
「ぜんぜん?だってディアッカだもの。」
ミリアリアの言葉に、ディアッカは切なげな微笑を浮かべた。
「…迷ってたんだ。あんな事をした俺は、今までのようにお前に触れていいのか、って。」
ミリアリアはディアッカの首に、細い腕を回した。
そして耳元で、そっと囁く。
「…触って。私が、そうされたいの。」
ミリアリアの小さな声に、ディアッカの身体が熱くなる。
「ミリアリア…」
「ちょ、ちょっと待って!」
ディアッカの唇が首筋に触れ、ミリアリアは慌ててそれを止めた。
「何だよ?」
「あのっ!ここはソファで!時間もほらまだ早いし足にも悪いし!えと、そう、ご飯!ご飯食べてない!」
「…もう外暗いし足もあれだけ歩いて問題ないし。それにだいぶ遅い昼飯だったと思うけど。もう腹減ったの、お前?」
「え?あ、そうだっけ?」
「…ミリィ、やっぱり無理してる?」
このままではディアッカが誤解してしまう!
ミリアリアはさらに慌て、そして、観念した。
「違うの!無理なんてしてない!
あの、実はねディアッカ、その、渡したいものがあって…」
あたふたと膝の上で暴れるミリアリアを、ディアッカは意外そうな顔で見上げた。
「渡したいもの?」
「そう。ちょっとここで待ってて?絶対ついてきちゃダメだからね!」
ミリアリアはディアッカの膝からすとんと降りると、ぱたぱたと寝室に走って行く。
訳が分からずそれを見送ったディアッカだったが、寝室から聞こえる何かを落としたような騒がしい音に、気付けばくすりと笑みを零していた。
さりげなく、お買い物デートです。
ミリアリアがディアッカに「渡したい」もの、とは・・・?
2014,6,19up