「ぐっ…く、そっ…」
リヒテルが、肩を抑えて倒れこんだ。
イザークが素早くそのリヒテルに駆け寄り、身柄を拘束する。
ミリアリアは、ディアッカを背中で庇うように座りこみ、震える手で銃を構えたまま硬直していた。
「ミリアリア」
ディアッカの声に、ミリアリアはびくりと肩を震わせる。
黒い軍服の袖がミリアリアの後ろから伸び、ミリアリアの手ごとそっと拳銃を床に降ろした。
「…わた、し…」
床の拳銃を見ながら、ぽつりとミリアリアが呟いた。
拳銃をそっと取り上げた腕が、今度は後ろからミリアリアを包み込み、引き寄せる。
ミリアリアの体に温かい何かが触れた。
「…もう、大丈夫だから。ミリィ。」
耳元で響く、優しいその声。
ミリアリアは回された腕の中で、勢い良くくるりと向きを変えた。
そのまま、その腕の持ち主の胸に飛び込む。
そしてミリアリアは、その名をそっと呼んだ。
「ディアッカ」
ディアッカは撃たれた足の痛みを堪えながら、ミリアリアの頭を優しく撫でた。
しばらくぶりに抱きしめた体は、力を込めたら折れそうなほどに細くなっていて。
きっと食事も満足にしていなかったのだろう。
「…ごめん。ごめんな。辛かったよな。」
ふるふると首を振り、ミリアリアはディアッカにぎゅっとしがみついた。
「ディアッカ!ミリアリアも無事か?」
現れたのは、アスランとキラを従えたタッド・エルスマンだった。
ミリアリアは慌ててディアッカから体を離した。
「お父様!ディアッカが!」
タッドの顔色が僅かに変わる。
「ディアッカ、撃たれたのか?」
タッドはしゃがみ込み、ディアッカの傷口に手をやる。
「痛って…!」
「…弾は貫通している。このままうちの病院へ行くぞ。ヤマト君、車を呼んでくれ。ディアッカを病院へ。」
タッドはそれだけ言うとミリアリアに軽く頷き、リヒテルにつかつかと近寄った。
「…君はまだ、パトリックの思想を支持しているのかね。」
リヒテルはタッドに気付き、ぎりりと険しい視線を向ける。
「…我々は進化した人類だ。それがなぜ、今さら旧人類と馴れ合わねばならぬのか?奴らがしたことを貴様らは忘れたのか?!」
ナチュラルによるコーディネーターの排斥。
血のヴァレンタイン。
地球軍の核による攻撃。
確かに、ナチュラルはコーディネーターにたくさんのひどいことをして来た。
ミリアリアは顔を曇らせる。
「…我々は、確かにナチュラルよりも優れた遺伝子を持っている。ナチュラルによって、いわれのない迫害を受けていたことも事実だ。しかし、世界は変わろうとしている。ラクス・クラインという『赦し』の象徴によって。」
タッドの静かな声が室内に響く。
「我々穏健派は、皆そう感じているよ。最も私は、先の大戦で死んだと思っていた一人息子の生還がきっかけだがね。」
ディアッカは意外な言葉に顔をあげた。
「優れた遺伝子を持つ我々に無いものをナチュラルは持っている。驕らぬ心、諦めない強さ。そして子孫繁栄の能力。我々は過去を悔いつつ、互いに足りないものを補いあって行けば良いのではないか?そう感じたからこそ、我々評議会はラクス・クラインをプラントに招聘して新しい世界を創る道を選んだのだ。」
「…詭弁だ。」
うなだれながらリヒテルは反論する。
「詭弁かどうか、よく考えてみるのだな。時間はたっぷりあるのだから。」
イザークが、部下にリヒテルを託す。
無言で引っ立てられて行くリヒテルを、ミリアリアは複雑な表情で見送った。
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2014,6,16up