20,離れること

 

 

 

ディアッカは心地よい倦怠感にうとうとと微睡んでいた。
ミリアリアを抱きながら感じた違和感は、今はもう無い。
 
 
ディアッカは、夢を見ていた。
日が沈む直前の、プラントの街並み。
誰かが隣にいる。
ディアッカは、高鳴る鼓動を抑えながら、ポケットに手を入れ、何かを取り出す。
誰かの手を取り、取り出した何かを指に通す。
それは、「あいつ」がいつもつけている、紫の…。
 
 
けたたましいドアホンの音に、ディアッカの意識は急速に覚醒した。
がばりと起き上がり、辺りを見回す。
ミリアリアの気配はない。
あの後ディアッカは、ぐったりとしたミリアリアをそのままにしてシャワーを浴びに行った。
戻った時には彼女の姿はなく、シーツは新しいものに変えられ、脱がせた衣類も全て片付けられていた。
 
あいつ、部屋で寝てんのか?
 
ドアホンの音は止まず、ディアッカは舌打ちすると玄関に向かった。
 
 
「遅くに悪いな、ディアッカ。」
 
ドアを開けるとイザークとアスランが立っており、ディアッカは目を見開いた。
「…何だよ、こんな時間に見舞い?」
かろうじて軽口を叩くが、その声音は硬い。
「…邪魔するぞ。」
イザークはディアッカを引きずるように中に入った。
「おい、何だよ突然!」
イザークは答えず、寝室へとそのままディアッカを引きずりこんだ。
 
それを見届けて、アスランが背後に目をやり軽く頷く。
隠れていたキラとミリアリアはそっと中に入り、ミリアリアの荷物が置かれている部屋に向かった。
 
 
 
「とりあえず、軍服と端末、着替えだよね。このトランクでいい?」
「…端末はこっちのバックに入れるわ。着替えも、少しでいい。
そんなに長く、ここに帰らないわけじゃないから。」
ミリアリアは、ディアッカに直してもらった端末を大事そうに抱え、バックに入れた。
そして、サイドテーブルの引き出しから華奢なボトルに入ったトワレと四角いケースを出す。
 
「ミリィ、それ…」
 
ミリアリアは左手の薬指から婚約指輪を引き抜くとそっとケースに納め、トワレと一緒にバックにしまった。
 
 
「…今は、付けていられないの。私、ディアッカを裏切ったようなものだから。」
「ミリィ…何を言って…」
 
「ディアッカは悪くない。私が勝手に、もしかしたら、って軽い気持ちで考えて、記憶のないディアッカに抱かれた。
私は私が許せないの。だから、ディアッカの事怒らないで?キラ。」
 その声は震えていたが、ミリアリアは泣いていなかった。
 
 
「…分かった。急ごう。」
キラはそう言うと、トランクに荷物を詰めた。
 
 
 
「…ミリアリアに、何をした?」
 
イザークの冷たい声に、ディアッカはベッドに腰掛けると長い足を組み、無言でアイスブルーの瞳を見返した。
「…言いたくない、か。それでもいいだろう。お前達は婚約しているのだからな。
俺たちがとやかく言う筋合いではない。」
 
「…じゃあ、何しに来たんだよ。」
 
ディアッカの低い声。
治まっていたはずの頭痛が、いつしかまた始まっていた。
 
「お前は、これだけの時間生活を共にして、ミリアリアの事を一つも思い出さないのか?」
ディアッカの頭がずきん、と疼く。
「…わかんねぇ、よ。マジで。」
「…ディアッカ?」
「悪い。頭痛がする。帰ってくんねぇ?」
その時、玄関のドアが閉まる音が微かに聞こえた。
イザークとアスランは目を見交わし、ディアッカは弾かれたように顔を上げる。
「…あいつ…?」
 
 
「ミリアリアは、しばらくここを出るそうだ。」
 
 
アスランの言葉に、ディアッカは愕然とする。
「お前ら…足止めかよ!」
 
 
「『スープは明日の朝温めて食べて』ミリアリアからの伝言だ。」
 
 
イザークの淡々とした言葉に、優しいミリアリアの気持ちを思ってアスランの顔が曇る。
「では、我々も退散しよう。何かあれば、いつでも連絡してこい、ディアッカ。」
イザークはそう言って、銀色の髪を翻し、部屋を出て行った。
 
「ディアッカ…。まだあるんだ、伝言が。」 
アスランは、呆然とするディアッカに、ぎりぎりまで告げるか迷った言葉を口にする。
 
 
「『あなたは悪くない。受け入れた私が悪い。ごめんなさい。』」
 
 
ディアッカはアスランのその言葉に、体に電流が流れたかのような衝撃を受けた。
「…お前が一番大切にしていたものは何だったのか、思い出せるといいな。ディアッカ。」
アスランは悲しげに微笑むと、イザークを追いかけて出て行った。
 
 
 
翌朝、ミリアリアはタッドに連絡をし、数日の間総領事館に戻る事を伝えた。
「あいつと、何かあったのかね?」
そう心配するタッドに、ミリアリアはしっかりとした口調で答えた。
「少しだけ…。でも、私が悪かったんです。
だからディアッカを責めないでくださいね、お父様。
それと、私が留守にする間、出来ればだれか様子を見に行ってもらえるよう手配をお願いできますか?」
タッドは嘆息した。
「…君は、本当に強い子だ。」
「そんなことありません。」
ミリアリアは微かに笑うと、ずっと考えていた事を口にした。
 
 
「…数日したら、また別邸に戻ります。
それと、もし24日までにディアッカの記憶が戻らなかったら、婚約発表は延期して下さい。」
「いいのかね?」
「はい。記憶のないまま話を進めては、ディアッカにも失礼ですから。」
「…わかった。ありがとう、ミリアリア。」
タッドは通信を切ると、深い溜息をついた。
 
 
 
 
 
016
 
距離をあけること、って時には必要だと思います。
 
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