ミリアリアがその意味を理解するまで、しばらく時間がかかった。
「…それは、つまり…。」
タッドはミリアリアの碧い瞳を射るように見た。
「いわゆる、遺伝子操作の弊害、だね。
ディアッカは、母親によって遺伝子の配列を意図的に変えられている。金髪に紫の瞳、褐色の肌。
ナチュラルでは、あり得ない配色なのは君も分かるだろう?」
「…でも、それがディアッカです。意図的であろうと不自然であろうと、それがディアッカです!」
ミリアリアの声が少しだけ荒くなる。
「確かに。ただ彼の母親はそう思えなかった。
不用意に遺伝子を弄りすぎたと自分を責め、母親としての自分と研究者としての自分との間で揺れ動き、どんどん不安定になって行った。
そして、ディアッカが2歳になる少し前に彼女は彼を置いて家を出て行き、そのまま私達は離婚したのだよ。
だから、あいつは母親というものを知らない。」
ミリアリアは子供だったディアッカの気持ちを想像し、心が痛んだ。
そして、ある考えに思い当たる。
だから、ディアッカはあんなに…?
「ディアッカが成人した段階で、私は再度遺伝子検査を受けさせた。」
タッドの声に、ミリアリアは現実に引き戻される。
「結果は変わらずだったよ。
息子の遺伝子は、次世代に子孫を残せる可能性を殆ど持ち得ない。
つまり、君とディアッカが結婚しても、妊娠の可能性は殆ど無いと言えよう。
そして仮に妊娠しても、無事に産まれる保障も無い。
本人も、そのことを知っている。
息子は、きっと君にその事実をまだ伝えていないだろうがね。
…それでも、君はディアッカと結婚したいと思うかね?」
ミリアリアは青ざめた表情で俯いたままだ。
タッドは、哀れみの目でミリアリアを見つめた。
「…君は、まだ若い。
そして、その若さに似つかわしくない苦労をしたと聞いている。
先の大戦で、恋人を亡くした事も。」
その言葉に、ミリアリアの体がびくりと揺れた。
「ナチュラル同士、普通の結婚をして、子を育て、普通の幸せを掴む。
そんな未来を掴む権利を、君は持っているのだよ。だからよく考えて…」
「…そんなの、どこも幸せじゃありません。」
ミリアリアが俯いたまま、低い声でそう呟いた。
タッドが訝しげにミリアリアに顔を向ける。
「ディアッカは、今おっしゃった事を私に隠しているつもりはないと思います。
そういう人だから。私にはわかります。
それに私は、子供が欲しくてディアッカと結婚したいわけじゃありません。
エルスマンの家柄に引け目や重みを感じることがあっても、興味はありません。」
ミリアリアの碧い瞳が、強い光を湛えタッドに向けられる。
「私は、ディアッカが好きです。
今こうして生きている、そのままのディアッカが。
コーディネーターであろうとナチュラルであろうと、子供が出来にくかろうと関係ありません。」
タッドは、ミリアリアの強い言葉に内心圧倒される。
「…あいつは、飄々としているように見えるがその実、常に何かに飢えている。
今でもあいつは無意識に、母親を探しているのだろう。
でも君は、あいつの母親にはなれない。
ディアッカが心の内に隠した嫉妬深さ、執着心に君は気づいているのかね?」
それこそミリアリアが、先程から思い当たっていた考えそのものだった。
「はい。知ってます。」
あの、ミリアリアに対する過保護なまでの行動。
ミリアリアの周りへの嫉妬。
何回も囁かれた、愛してる、離さない、との言葉。
ミリアリアを抱く時の、まるで自分の存在を刻み付けるような愛し方。
全てが、ミリアリアの考えと、今のタッドの言葉に符合する。
「…受け止められるのかね?」
タッドは、先程から一転、目を眇めてミリアリアを見つめる。
「受け止めます。
遺伝子はコーディネート出来ても、心まではコーディネート出来ません。
生い立ちや体質関係なく、ディアッカは、ディアッカなんです。
だから、私は今のディアッカを愛してますし、受け止めます。」
ミリアリアは、ディアッカとの事について、もう取り繕いたくなかった。
本音をひたすらぶちまける。
「…私は、ただのナチュラルです。
両親はただの会社員と主婦、中流階級の出身です。
能力も家柄も何ひとつ釣り合わないって分かってます。
だから、ディアッカだけでなく、エルスマン議員に恥ずかしい思いをさせるかもしれません。
でも、ディアッカを好きな気持ち、守りたい想いは誰にも負けないつもりです。」
タッドは目を見開き、黙ってミリアリアの言葉をただ聞いている。
「ディアッカは、確かにエルスマン議員のおっしゃる通りの面もあります。
でも、優しくて面倒見が良くて、とても芯の強い人でもあります。
例え辛いことがあっても、最後にはいつだって優しく笑ってくれます。
私は、そんなディアッカが大好きだし、何度も助けられました。
でも、弱いところだってある。
私は、そんな彼を守りたいんです。だから!」
ミリアリアは息を吸って、一気に言い切った。
「釣り合わないとお思いかもしれません。
それでも私、ディアッカと一緒に生きていきたいと思っています。
お願いします、私をディアッカと、結婚させてください!」
ミリィ、男前…。でもそんなミリィが好き。
2014,6,13up